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[27360] 【ネタ】とある虚空の黄金心臓 (現実→とある魔術の禁書目録)
Name: EN◆3fdefd77 ID:2f47233c
Date: 2011/04/23 00:33


転生した。

色々と言うべきことも、説明しなければならないこともあるが、結局のところただ一言に集約される。
爆走するトラック、轢かれそうになる子供、びっくりする主人公、子供を避けて主人公へ向けドリフトを決めるトラック、挽き肉になる人間ひとり。
真っ白な空間で目覚める主人公、現れる神様、強制される転生、ルーレット0ダーツによって決まる特典・特殊能力、そしてパジェロ。違った、パジェロはただの声援だ。
――と。長々と説明するのならば、上記のようなことがあったわけだ。

そして今日も彼の背後には、転生の特典として下賜された『特殊能力』が佇むのである。

「あぁー、地球爆発しねぇーかなぁー」
「何言ってるんだ、ジョーマエ?」
「なんでもないですじょー……」

クラスメイトの問い掛けに、いつも通りの欝々とした声で答える。
両手をズボンのポケットに捻じ込み、人並みはずれた長身がだらしない猫背になって歩き出す。
錠前 発条(じょうまえ ぜんまい)、高校生、男子。
伸びっぱなしの黒髪、その奥に金色の両目を光らせる大柄な少年が、この物語の主人公である。

「ファミレス行こうぜ、ファミレス。あっこのバイトちゃんが可愛くてなー!」
「激しく金が無い」
「……奢らねぇぜ」
「……そこは奢ろうぜ」

並んで歩く友人との他愛のないやり取り。小さな言い合いを終えて、ちらりとだけ、その金色の瞳が錠前自身の背後を見る。
そこには一人の巨漢が佇んでいた。
佇んでいた、だけだ。

「うりぃィ……」

小さく、隣を歩く友人にさえ届かないほど小さく。
高くもあり低くもある声で不快に唸り、錠前は強く振り切るように前を向いた。



二年次 一学期末 身体検査
錠前 発条/ジョウマエ ゼンマイ
判定:無能力者(レベル0)



大きな舌打ちが鳴った。
期末考査と合わせて行われた身体検査(システムスキャン)の結果。相も変らぬ文字列に、錠前は苛立ちを隠せなかった。隠す気さえも、遠い昔に無くして久しい。
男子寮の一室、一人きりになった錠前は部屋の中心にうつ伏せて、手に持った一枚の紙を宙に放った。

――錠前 発条は無能力者だ。
転生。一度死に、神を名乗る謎の老人に今一度の生を与えられた当初、彼は希望に満ち満ちていた。
精一杯に努力するだけの気概も無く、気概を持つ理由たる目標も無く。だからといって誰かに誇れるような『特別』だって持っていない一凡人。それが死ぬ前の錠前 発条だった。

期待は、した。
生まれた瞬間から一定以上の知識と経験を持ち、神様じきじきに与えてくれた特殊能力もある。
うまくいくと思ったのだ。
今度の人生は頑張れる、きっと自他共に誇れる『何か』になるのだと。
それが例え自らの行いとは一切無関係で、偶発的に、赤の他人から与えられたに過ぎないチャンスでも。
かつて違う名で生きた彼は、錠前 発条と名付けられた新しい自分であれば精一杯に生きていけると信じ、その想いのままに努力し。

失敗した。
挫折、した。

その責任は、全てが彼に起因するわけではないけれど。

学園都市という街がある。
高い壁に囲まれ、外界とは隔絶した技術力によって『超能力』を開発する。そんな夢のようなものがこの世界には存在していた。
錠前は焦っていたのだ。
持って生まれた知識と経験によって、彼は周囲から優れた人間として見られていた。スタート地点が違うのだ、当然といえば当然の状況に、しかしたった一つだけ影を落とすものがあった。

能力が、――神様からもらった特殊能力が扱えなかったのだ。
学園都市というものの存在だけは知っていた。両親も優秀な息子を見て、錠前を学園都市に入学させようと考えた。
扱えない生まれ持った特殊能力。学園都市で開発する超能力。どちらをどう望んだかはともかくとして、学園都市で行われる『能力開発』に期待した。
誤解無きように述べるなら、錠前 発条は努力していた。
生まれ持った優位性を失くしてしまわぬよう、独り学び、皆と遊び、万事において結果を出し続けた。学園都市に行こうとも、その生活を変えるつもりなど全く無く、彼は一生懸命に、頑張ろうとしたのだ。

そして入学と同時の身体検査(システムスキャン)。
能力の発現は――確認された!
だが問題があった。大きな問題が。
学園都市の科学者たちには、『それ』が何なのかわからなかったのだ。
確かに、ある。視覚では捉えられず、聴覚、触覚、五感全てにおいて認識は出来ない。だが、ありとあらゆる観測機械を用い、あるいは通常の法則からずれた超常感覚を持つ能力者に観せてみれば、確かに、ある。
――居る。
そう表現するべき何かが、錠前の傍ら、その小さな背の後ろには立っていた。
身長は成人男性の平均よりも大きく、恐らくは人型。筋骨隆々と思いきや、人間には存在しない造形も全身のそこかしこに見える――ような気がする。その程度。
小さな少年の傍らに立つもの。通常の感覚には捉えきれない何か。
何をするでもない。何が出来るでもない。何が居るのかさえ、明確に理解することは出来なかった。
錠前本人に問いかけても、そこに立つ何かの姿がより詳細に知れるだけ。錠前が必死に口にしたそれの名前など、そもそも研究者達にとっては何の意味も無い戯言だ。

『それ』はそこに立っているだけだ。
錠前が前へ進めば同じだけ前へと進み、動かなければ変わらぬ位置に佇むだけ。
何も無い。何もできない。確かに在ることは分かったが、だから何だというのか?
開発できなければ意味が無い。発展性の無い研究に、いつまでも時間と資金をかけてはいられない。

一度目の身体検査から、二年の後。果たして長いものか短いものか。
錠前 発条は『原石』と診断され、だが何の成果も、利益も生まず、唐突に放り出されることになる。
その日から先は何も変わらない。
二年間のたらい回し、芽の出ない実験、研究。向けられる視線の色がただ一つに染まりきるには、一年もあれば十分で。成果の無いことに誰よりも強い焦燥を感じていた錠前の精神は、少しずつ歪み、濁っていく。
元より、そこまで強靭な精神性を保持していたわけでもない。
気がつけば努力をすることも酷く億劫になり、かつてのように世界が輝いて見えることなどついぞ無く。
とある一人の主人公は、未だ何者にもなれず、この街に居る。



うつ伏せのまま、瞳を僅かに横へと逸らす。
見えたのは黄金。
更に見上げるように視線を上げていけば、前身を黄金色に輝かせる『何か』がそこに居た。
はち切れんばかりに逞しい肢体、全身に纏う甲冑染みた装甲、節々にはハート型の装飾。
錠前 発条が赤子の時からその傍らに立つ、物言わぬ彫像。

「ざ・わーるど……」

呟いてみたが、黄金の巨漢は身じろぎひとつせずに錠前を見下ろしているだけだ。
昔から。
その存在に気づいたときからそうだった。
命じても、動かない。願っても、動かない。
いつも。いつも。いつまでも。常に自分の背後、何を語るわけも無く立ち尽くす雄雄しい様に、時折、酷くストレスを掻き立てられる。

「ザ・ワールドッ!!」

叩きつけるように叫んで、吐き出しきれない感情を、コブシを床に突き立てることでようやく飲み込んだ。
背後に佇む黄金の巨漢――『ザ・ワールド』は応えない。

転生する際、神様によって与えられた特殊能力。
漫画『ジョジョの奇妙な冒険』第三部において、最後の敵が使用した能力。不滅にして最強の幽波紋(スタンド)とさえ言われるもの。

老人の姿をした神が「これで能力選ぶよ! よ!」といやにハイテンションにダーツを取り出したときはいっそ泣きたくなったが、そうして選ばれた能力が見知った、それも文句無しに強力なものだったからこそ、彼は喜んだ。
転生して、その存在を目にして、自分には扱えないという現実に直面するまでは。

見上げれば、理知的とさえ言える静かな双眸が錠前を見つめていた。意味がないと分かっていても、その視線を睨み返してしまうのはやめられない。
幼い時分より努力して、褒められて、それでもたった一つだけ錠前の心に影を落としていた存在。ほかの全てにおいて成功し続けていた幼い錠前だからこそ、思い通りにならないたった一つに強く執着した。
結果は失敗。そもそも干渉することさえ不可能な、自分以外の何か。

自身の意に沿わぬスタンドに、何の意味があるッ!

強く、首筋を爪で引っ掻いた。拙い自傷行為だが、不愉快な感情を抱えたまま部屋に篭りきるのは良くない。その程度の判断は出来た。
生まれついて所持していた能力。『原石』と言われ、特別な意味を持つその名称にまた自尊心を擽られ、なのに二年かけて一切の成果を残せなかった能力。
確かに『在る』ことは認められた。問題はそれを錠前が使用することが出来ず、ほぼ一部の例外、観測系能力者の特殊な感覚でしか捉えられない――どう開発すればいいかを調べることさえ出来ない、正体不明の能力であったこと。
調査、検査、診査。ただただそれに二年も消費して、放逐された。

何も無かった。何も出来なかった。何も起こらなかった。関わった科学者たちのプライドもあったのかもしれない。一欠けらの成果さえ残せなかった『原石』に、彼らは『無為無能』と、錠前にとって悪意しか感じられない名称を冠して全てを打ち切った。

何をすることもなく無為、何の役にも立たない無能。

God's In His Heaven. 神、空にしろしめす。
All's Right With The World! なべて世はこともなし。

腹立たしいほどの曲解。とんでもない皮肉。だがかつて聞かされたこの言葉が、いつまでもいつまでも、見下す瞳と笑い混じりの声が耳元に木霊していた。

無能力者『無為無能(ザ・ワールド)』。

正に自身の背後に立ち尽くすコイツに相応しい。そうやって自嘲の笑みを浮かべられるようになるまで、どれだけの時間が必要だったか。それすらもただの強がりだと、錠前本人も心の奥底では自覚しているのだが。

「……コンビニ、行こう」

小さな独り言に応えるものなど、この部屋のどこにも無い。
財布を掴み、靴を履き、扉を開ける。
大柄な体躯を猫背で台無しにしつつ、相変わらずの鬱屈した顔で、伸びっぱなしの黒髪の隙間からは不気味な金色の虹彩が覗いている。
そんな錠前 発条の背後を、物言わぬ巨漢が静かに追従する。
見上げた空は僅かに曇り、翳る太陽に少しだけ錠前は眉を顰めた。

「いっそ、俺がDIO様みたいな吸血鬼なら、お前も動いてくれたのかね?」

ひひひ。揶揄する言葉と共に、意地の悪い笑いが落ちた。
他意の無い悪態である。誰に聞かせたわけでもなく、意味を持たせようとも思わない。彼はこの世界に吸血鬼が存在するらしいという情報さえ、持っていないのだから。
そも、動いてくれたのか、などと。
無意識的に、まるで取り返しの付かない過去を語るように口にする彼は、既にどこか決定的なところで諦めているのだ。
錠前の物言いに、傍らに立つそれは相変わらずの沈黙を保っている。
その静かなる様は物言わぬ金塊にも、沈まぬ黄金の太陽にも見える。

「路地裏でいいよな、こっちの方が近いし」

錠前の小さな独白に、ザ・ワールドが答えることは無い。
『世界(ザ・ワールド)』は、未だその少年の意思に応えることは無い。

けれど。
どこか遠く、暗く、深い、闇の奥底で。
一人の『人間』が笑っていた。

――これは『天国』へ至る物語。



つづかない。


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