私の神は、私が不幸になる事を望まないだろう。
しかし、私の代わりに他の人が不幸になることも、望まないだろう。
だから、私は、箱に入れる。
箱は閉空間。箱は密閉。
箱の中身は、何なのか、判らない。
私は、私を不幸にする人を、箱の中に入れた。
私は、私を幸福にする人を、箱の中に入れた。
箱の中は、箱の外からは窺い知れない。
箱の中は世界。箱の中は、私のいない世界。
箱の外は世界。箱の外は、私のいる世界。
箱の中に、嫌いな人を入れた。箱の中に、好きな人を入れた。
もう、彼らは私を傷付けない。私は幸せ。彼らも、私のいない世界で幸せになるだろう。
もう、彼らを私は愛さない。私は幸せ。彼らも、私のいない世界で幸せになるだろう。
私も幸せ。彼らも幸せ。
私の神は、喜ぶだろう。彼らの神は、喜ぶだろう。

そして、私は私を観察する。変わり行く私を、観察する。
インプットと、アウトプット。そこから、何が現れるのか。
私のいる世界は、箱の中。私のいない世界は、箱の外。
箱の外から、何かがやって来る。私は、それを受け取る。私は変わる。
私は、私が飲み込んで吐き出すものを観察する。
アウトプットと、インプット。生まれいずるものは、何か。
彼らのいない世界、彼らのいる世界。箱の中、箱の外。私、神。嫌い、好き。
私は、それらによってつくられている。私は、それらを、つくっている。

それでは、箱の外も、箱の中も、同じではないか。
いや、それは判らない。
何故なら、箱の中は、箱の外からは観察できないからだ。
箱は閉空間。箱は密閉。
何者も、それを超えることはできない。

私は、幸せ。彼らも、幸せ。
私は訊いた。箱の中に入れられる、彼らに訊いた。
箱の中に入れられる、彼らは囁いた。

「箱の中は、どんな世界か」

「箱の中は、君のいない世界だ」と。

私は、今、箱の中に入ろう。
箱は、どこまで行っても別の箱に入っている。箱は、どこまで行っても別の箱を入れている。
ならば、私のいない世界に入っても、なんら変わりはないだろう。
後悔と、開放感と、私は箱の中に入った。
箱の外に、私はもういない。箱の中に、私はもういない。
私は幸せ。彼らも幸せ。私の神も幸せだろう。彼らの彼も、幸せだろう。
もう私は、箱の中にも、外にも、いない。


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