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原発周辺の住民避難にかかわる政策を決めたり実行したりするときは、何より住民の立場を第一に考えたい。避難をめぐり、政府の方針が次々に打ち出され、住民の間に不安や憤りが広が[記事全文]
中央アジアのカザフスタンでナザルバエフ現大統領が95.55%もの得票率で再選され、先ごろ就任式も開かれた。面積が世界9位というこの広大な国は、「メンデレーエフの周期律表[記事全文]
原発周辺の住民避難にかかわる政策を決めたり実行したりするときは、何より住民の立場を第一に考えたい。
避難をめぐり、政府の方針が次々に打ち出され、住民の間に不安や憤りが広がっている。住民の要望に耳を傾け、方針を説明し、互いに納得して進めることが大切だ。
福島第一原発から半径20キロ圏内で避難指示が出ていた区域は昨日、災害対策基本法に基づく「警戒区域」となり、住民の立ち入りが禁止された。警察が道路を封鎖する厳しい措置だ。
枝野幸男官房長官は、住民の一時帰宅も数日中に始めるが、1世帯1人で2時間以内と述べた。住民からは不満が噴出し、封鎖前に駆け込みで帰宅する人が相次ぐ混乱を招いた。
事前の説明は十分だったか。
例えば、圏内の放射線の現状だ。官房長官の発表後に、文部科学省が測定した20キロ圏内の大気中の放射線量が公表された。年間の被曝(ひばく)線量に換算して、健康に影響が出かねない100ミリシーベルト超になるおそれがある地点が1割ある一方、約半数の地点は現在の避難を求める基準の20ミリシーベルト未満など、場所により汚染の程度に大きな差があった。
こうしたデータも踏まえたうえで、低汚染の地域でもなぜ帰宅が制限されるのかを丁寧に説明し、納得してもらうのが政府の務めだ。
一方、半径20キロ圏外の5市町村は新たに「計画的避難区域」に指定された。5月末までに避難が求められる。
20キロ圏内からの避難は、原発から放射性物質が大量放出される事態に備えてだったが、その外側に設定する計画区域は今後1年間の被曝線量が基準の20ミリシーベルトを超えるおそれがある、というのが理由だ。
1カ月間で田畑や家畜などの生活の糧を置いて住み慣れた土地を離れ、避難先を見つけて移る。容易なことではあるまい。
全域が指定された飯舘(いいたて)村の菅野典雄村長は、村民に強いる大きな負担とのバランスも考えてほしいと訴える。国際放射線防護委員会が定めた事故後の緊急時の目安は20〜100ミリシーベルトと幅がある。なぜ最も厳しい20ミリシーベルトを基準にして避難する必要があるのか、住民が納得できる説明がいる。
避難する住民の支援にも万全を期してほしい。
放射線量の監視は今後も、時期、場所ともに細かに続けて、住民に提供したい。可能なら避難の区域や、やり方を柔軟に見直すことも考えたい。
中央アジアのカザフスタンでナザルバエフ現大統領が95.55%もの得票率で再選され、先ごろ就任式も開かれた。
面積が世界9位というこの広大な国は、「メンデレーエフの周期律表の全元素がある」とされるほど鉱物資源が豊かだ。ソ連崩壊で1991年に独立する前から統治を続けるナザルバエフ氏のもと、その開発を通じて草原と砂漠の遊牧地域から、急速な経済発展を実現した。
ユーラシア大陸の中央という要衝の地で北のロシア、東の中国と等しく協力関係を築く外交で地域の安定に貢献し、国際社会での存在感も増している。
だが、ソ連時代にはセミパラチンスク核実験場で約450回もの核実験が実施され、深刻な放射線被害を受けた。南部の前首都アルマトイ周辺が大地震に襲われ続けた歴史から、97年に地震の少ない北部のアスタナへ首都を移した歴史も持つ。
被爆や地震で同様の体験を持つ日本は、この国の独立以来、主要援助国として国づくりを積極的に支援してきた。東日本大震災が起きたいま、共有する苦難の克服で両国の協力をさらに深化させていきたい。
石油の埋蔵量は世界9位。さらにクロムが1位など、日本の先端産業に不可欠なレアメタル(希少金属)、レアアース(希土類)も豊富だ。原発燃料の天然ウラン生産量は世界1位で、国内の総需要の3割の権益を確保した日本にとって主要な輸入先になりつつあった。昨年9月には、カザフスタンで原発の建設が可能かを日本企業が調査する覚書も結んだ。
しかし、東日本大震災後の事態を受けて、両国は地震国での原発の安全性を、ともに徹底して検討することが必要だ。それは将来の両国のエネルギー資源協力全般に貴重な財産となる。
約140万人が被曝(ひばく)したソ連時代の核実験による放射線被害でも、日本は実態の解明や健康対策に協力してきた。協力が深化すれば、福島第一原発の事故対策にも生かせるだろう。
過去の核惨禍からカザフスタンは非核化政策を推進し、中央アジア5カ国の非核化地域創設にも主導的な役割を演じた。核軍縮分野でも、日本は連携をさらに強めていくべきだ。
一方でナザルバエフ氏の長期支配は、メディアや野党の締めつけで与党ばかりの議会など強権的な統治も築きあげた。
強権のもろさは、最近の中東の情勢からも明らかだ。安定した発展を続けるには民主化を進める以外にない。日本はここでも協力を進める必要がある。