西日本鉄道(本社、福岡市)が魚町交差点で建設中の平屋(西鉄旅行/グランドゥアムール)が、北九州市都市景観条例で定めた小倉都心景観重点整備地区の要衝に位置しながら、無届かつ事前協議なしに着工されたことが11日判明した。建設中の平屋は景観形成基準を満たしておらず、届出や事前協議が行われた場合、適合の評価が得られなかったとみられる。
北九州市は小倉都心部の表通り沿いを小倉都心景観重点整備地区に指定し、建築行為等に届出を課している。届出がなされた場合、景観審議会との協議が持たれ、適合の評価を得れば30日を経過した後に着工できる。不適合の場合は景観審議会が勧告を行い、勧告に従わない場合は氏名等が公表される。届出をしない場合は罰則(30万円以下の罰金)が適用されることがある。
当該地に立地する建築物は「周囲の景観と調和する形態」でなければならないが、グランドゥアムールは片流れの郊外ロードサイド店風で、市街地型のビルが立ち並ぶ都心部にあっては異質感が強い。周囲の建物と高さを揃えておらず、その結果、隣接する建築物の側面や裏面がむき出しになるなど、街並みの一体感を大きく損ない、醜悪な景観を生み出している。
景観条例は基準が曖昧で、強い誘導が困難という弱点があるが、同基準は街かどに接する建築物を特別に重要視しており、景観審議会との綿密な協議が行われるべき物件だった。地元で不動産事業を営む西鉄が地元の景観条例を知らなかったという言い逃れは通らない。条例に強制力がないことに目をつけて、無届かつ事前協議なしにこれを回避したのは悪質だ。
関門通信はグランドゥアムールが北九州市都市景観条例に抵触する不適合建築であると認め、今月2日に北九州市建築都市局計画部都市計画課(以下、当局)に対して照会を行った。当局は「景観重点整備地区での行為の届出がなされていないことが判明し、至急届出を出すよう同日建築主に指示、11月5日建築主より届出が市に提出された」という。
当局は2日時点で西鉄に無届を把握しながら、照会者にその結果を回答せず、西鉄が無届の状態を解消させた後の11日になって回答を寄越した。5日から11日の間に、西鉄の不当行為を正当化するための協議や通知が行われた可能性もある。しかし当局は届出書の閲覧については事業者等氏名などの基本事項のみとしており、第三者には詳細を知る手立てがない。
届出は事後報告で済む性質のものではなく、着工前に提出され協議されなければ価値がない。西鉄に対して罰則を適用せず、事業者名の公表を行わないのであれば、無届で建設して既成事実化すれば不問になるという条例逃れを公認することになる。当局が一等地の無届を見逃した挙句、馴れ合いで事を済ますのであれば、その姿勢も厳しく問われよう。
建物付近に仮店舗を構える西鉄旅行小倉旅行センターの営業状況が芳しくなく、家賃負担が重いという理由で、店子募集が捗らない当初計画(鉄骨造7階建て)を破棄し、無届かつ事前協議なしに平屋建設に転じた。この平屋は仮設建築ではなく、今後数十年の利用を想定した恒久店舗。
朝日新聞社が小倉都心部の地盤沈下を象徴する「事件」として二度記事で取り上げたほか、関門通信は「都心の一等地にふさわしい開発が行えないのなら土地を売却して撤退すべきだ」として、抗議活動を主宰している。抗議活動のページ。