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 圧密沈下量の算定

(1)沈下の序章

■ そもそも沈下とは?
 ここからは、地盤の沈下についての話と検討方法の解説をするのですが、
そもそも地盤の沈下とはどのような現象によって起こるものなのでしょうか。
 地盤の沈下は、土が含んでいる水が上からの荷重により絞り出されるように
排出され、その逃げていった水の体積分だけ地面が低くなる現象です。

 言葉にすれば簡単なのですが、土質によって含んでいる水の量(含水量)
や水の通しやすさ(透水性)などが違い、その土質も地盤の至る所で複雑に
混ざり合っていて簡単に区分けできない点が、実務レベルでの検討をややこしく
させているのです。

■ 即時沈下と圧密沈下
 沈下は、砂質土と粘性土とで大きく挙動が異なります。砂質土は透水性が
高く、荷重を掛けた途端に土中の水が移動し、沈下はすぐに終了します。これが
即時沈下です。即時沈下は建物を建設している最中に発生し終了するので、
竣工して時間が経過してから問題が発生することは通常はありません。
 一方で、粘性土の場合は透水性が低く、その割に含水比が高いので、地盤に
荷重が掛かった場合ゆっくりと土中の水が移動し、沈下も時間を掛けて進行しま
す。これが圧密沈下です。
 住宅などで、年数を経て顕在化する地盤沈下問題のほとんどは、この圧密沈
下によるものです。即時沈下とは違いすぐに結果が出るわけではなく、また粘性
土でも透水性の違いや粘土層の厚さの違いなどがあり一律に沈下してくれない
ので、圧密沈下は不同沈下を同時に引き起こすことが多いのです。不同沈下を
起こすと、建物そのものが傾いたり、家を支える基礎の亀裂や、建物のきしみに
よる窓や扉への障害が発生します。
 ここでは、特に圧密沈下について考えてみようと思います。

(2)圧密沈下の特性・形態

 そもそも、粘性土が圧密沈下に至る状況はどういうものなのでしょうか。
RCやS造でよく出てくる弾性・塑性の概念が、この圧密沈下にも密接に関係
しています。
 材料の特性を語る場合、応力−歪み度(ひずみど)曲線に着目し、応力が大して
増加していないのに歪み度が急激に増大する点のことを降伏点と言い、降伏点
前までを弾性域、降伏点後を塑性域などと表現しますが、それと同じことが圧密沈
下を語る場合でも用いられます。ただし地盤の場合は応力と間隙比の関係になり
ます。間隙比とは、土の体積に対する土粒子間の空隙の比のことで、これが小さく
なることによって沈下が発生するので、沈下量に直結していると言えます。
 さて、荷重が掛かって間隙比が急激に変化する時、塑性域のような特性を示すの
ですが、その塑性域のような状態に入る応力のことを圧密降伏応力(先行圧密
応力)
と言います。つまり、地盤における降伏点と見なされる点がこの圧密降伏応
力と思って差し支えありません。この点が降伏点なのですから、この応力より小さい
載荷の場合が弾性的特性となり、大きい載荷の場合は塑性的特性となるわけです
が、この後解説する正規圧密の状態にある地盤は、当該地層(粘土層)より上にあ
る層の荷重の影響により、既に圧密降伏応力に等しい状態になっています

 しかし、圧密沈下は長い時間によって変化するものなので、現在の荷重の状態
と沈下の状態にタイムラグが発生している場合もあります。

 1)過圧密
 現在地盤に掛かっている荷重が圧密降伏応力より小さい状態で、現在の載
荷の影響以上に間隙比が低下している状況のことを言います。これは、過去に
今以上の載荷がその地点にあったことを示しています。過去の載荷によって
いわゆる「締め固められた」状態と言えるので、構造物を建設して地盤に荷重が
掛かっても、他の地盤の状態と比較して圧密沈下の割合は小さくなります。

 2)正規圧密
 現在地盤に掛かっている荷重と圧密降伏応力が等しい状態のことです。新たな
荷重を掛けない限り間隙比の変化が無い状況で、地盤としてはいわゆる「落ち着
いている」状態です。

 3)圧密未了
 現在地盤に掛かっている荷重の方が圧密降伏応力より大きい状態のことです。
現状の荷重がすでに圧密降伏応力を上回っているということは、放っておいても
間隙比の変化(つまり圧密沈下)が続いている状況なので、落ち着いていない
地盤とも言えます。よって『圧密がまだ終わっていない=未了』と表現されます。
ただでさえ圧密沈下が進行しているのですから、この状態の地盤上に構造物を
建設して地盤に掛かる荷重を増やすことは、より一層の圧密沈下を招くことにな
るので、他の地盤状態と比べて最も圧密沈下の割合は大きくなります。

(3)圧密沈下量算定式

 一般的な正規圧密状態の地盤に載荷をした場合、圧密沈下量は以下の式で
求められます。この式は、対象となる粘土層の層厚が薄い場合に適している
ので、厚い場合は何層かに分けて計算すると良いとされています。

  

(※ 上記の式の他、間隙比の変化に基づく計算方法や体積圧縮係数に基づく
計算方法があるがここでは割愛する)

S 圧密沈下量(m)
Cc 圧縮指数
H 粘土層の層厚(m)
e0 初期間隙比
σ1 載荷前の地中応力(kN/m2)
σ2 載荷後の地中応力(kN/m2)

 上記データのCcは圧縮指数を言われるもので、圧密試験の結果として
得られるものです。また、e0(初期間隙比)は、含水試験や比重試験など
のデータを元に以下の式で計算します。

  

e0 間隙比
Gs 土粒子の比重 (N/mm3)
γ 単位体積重量 (N/mm3)
w 含水比(%)

 地中応力も、地中内を応力が広がりながら伝達されていくので、地上で集中
荷重が掛かっている場合の地中応力は、その荷重をそのまま使うのではなく、
表を使ったり複雑な計算式で計算したりするという手順を踏みます。それらは
ここでは扱いませんが、そういうものもあるという感じで知っておいてください。
なおそれは集中荷重の話であって、計算の対象となっている部分に対し、
影響のある範囲全体に一様に分布している荷重の場合はその限りではあり
ません。よって、地中応力を求める地点より上にある地層の自重などは、その
重量をそのまま数値として使用できます。


 例題
正規圧密状態の地盤に、以下のような荷重q(30kN/m2)が載荷された。
この時の粘土層による圧密沈下量を求めよ。ただし、荷重qは
地盤全体に一様に掛かっているものとし、その他の影響は考えない
ものとする。

条件:地質データ(各種試験に基づくデータ)

砂質層
 単位体積重量γ 
 水中単位体積重量γ’
 18.5
 8.7
kN/m3
kN/m3

粘土層
 単位体積重量γ 
 水中単位体積重量γ’
 圧縮指数Cc
 初期間隙比e0
 15.5
 5.7
 0.83
 3.54
kN/m3
kN/m3


概況図


 載荷前の地中応力σ1
正規圧密状態ですので、載荷qが掛かる前の上部の地層が荷重となります。
地中応力は、粘土層全体に掛かる載荷の平均として、中心部分で算定する
ので、粘土層の上半分も荷重とします。
 σ1=18.5×1.7+8.7×1.6+5.7×1.1=51.64[kN/m2]

載荷後の地中応力σ2は、載荷前地中応力からqが増えただけですので、
 σ2=51.64+30=81.64[kN/m2]

 圧密沈下量Sは、
=0.080[m] =8.0[cm]



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