福島第1原発事故 現場から被ばく事故に備える造血幹細胞の採取を求める声
原子力発電所で働く人たちのための放射線管理手帳について、震災後の福島第1原子力発電所では、個人の累積被ばく線量を適切に管理できていない。
事故処理が長期化する中、現場からは、国や東京電力の想定を超えた被ばく事故に備える医療技術、造血幹細胞の採取を求める声が上がっている。
政府は、原発事故の作業員の被ばく線量限度を、100ミリシーベルトから250ミリシーベルトに引き上げた。
だからといって、作業員の安全確保に新たな対策を打ったわけではない。
極めて高い放射線量になっていることが判明した福島第1原発の原子炉建屋内。
こうした現場で、被ばくリスクを抱えて作業する人の大半が、地元の被災者であるという。
所属する福島原発の協力会社が閉鎖された元社員の男性は、家族3人で避難生活を送りながら、会社からの呼び出しを待っている。
元社員の男性は、「招集がかかった場合には、選ばれた人なんだなって自分で思って行こうかなと思っています。(被ばくの)可能性があるだけでも怖いと思いますね」と話した。
男性の娘はまだ7歳で、被ばくリスクを覚悟のうえで現場復帰を考える夫に、妻は深い葛藤(かっとう)を抱いていた。
元社員の妻は、「(原発事故が)収束に向かうために、少しでも何か手伝いたいっていう気持ちがあるのはわかるので、悩むところですね。できれば行ってほしくない」と話した。
現場作業員の命を守るために何かできないのか、行動を起こした医師がいた。
虎の門病院・血液内科の谷口修一医師は、「さまざまな臓器障害が起こり始めるのは、500ミリ超えると、それなりに起こり始めるんですね」、「突発的なことが起こった時にでも、対応できるようにしておくべきではないか」と語った。
1999年のJCO臨界事故での治療を分析した谷口医師は、被ばくによって、血液を造る造血機能が失われる点に着目し、対策として、現場作業員からあらかじめ造血幹細胞を採取し、万が一に備えることを、政府と東京電力に提言した。
谷口修一医師は「これは、白血病治療で行われる造血幹細胞移植の時にやっている、ドナーさんから幹細胞を取る方法を応用するわけですけれども、いざ、そういう大きな事故が起こった時、救命しやすくなるということは、これは間違いない」と語った。
この提言に対して、原子力安全委員会は「非常に高い値の被ばくの時に、それ(造血幹細胞)が有効に働くということでいわれているものです。そういうところまでいく危険性が、今のところは抑えられているのであれば、その準備をするという必要はない」と話した。
愛媛大学大学院の谷川 武教授は、16日から福島原発に入り、原発職員の診察を行ってきた。
造血幹細胞による被ばく対策があるという情報を、原発の現場は、まったく知らされていなかったという。
谷川 武教授は「福島第1の所長も第2の所長も、この3日間で協議した結果、結論としまして、『これを広く、みんなに周知しよう』と。それは現場の判断です。これから看護師さんたちを通じて、社内で見られるイントラネットとか、もしくはさまざまなミーティング等で、こういうものがあるということについて、広く周知することになりました」と語った。
福島原発の現場責任者は、国や東京電力本社とは異なる方針を決めた。
虎の門病院には、東京電力の職員たちから問い合わせがあったという。
21日、FNNの質問に対して、枝野官房長官は「やっぱり現場で一番、ご苦労されている(福島第1原発の)吉田所長のお考えについては、十分承らなければいけないと思っています」と述べた。
そして、東京電力の本社は、「250ミリシーベルトということを適切に管理して、それを超えることがないように管理を進めておりますので、現時点では幹細胞を保存して、その後に役立てるというようなことについては、現時点ではまだ考えておりません」と話した。
想定外の地震と津波によって起きた今回の原発事故。
この教訓を、作業員の安全対策に反映すべきと、谷口医師は指摘する。
谷口修一医師は「ああいう、何が起こるかわからない、放射線量の量もなんて言うかな、一様ではない中で仕事する時に、とにもかくにも犠牲者を出さないようにしないといけないんじゃないでしょうかね」と語った。
(04/22 00:00)