東京電力は4日、東日本大震災で被災した福島第1原発の施設内にある、低レベルの放射性汚染水計1万1500トンを海へ放出すると発表した。放出は午後7時過ぎから始まった。東電は、放水は「2号機から海へ流出している高い放射線量の汚染水の保管場所を確保するための応急策」と説明している。
東電によると、放出される汚染水の放射能は法令基準の約500倍(最大値)に当たる。全体の放射能は約1700億ベクレルで、2号機の汚染水約10リットル分に相当する。東電は環境への影響について「2号機の高レベル汚染水が流れ続けるよりは軽微」としている。
放出する汚染水は「集中環境施設」と呼ばれる、施設内の低レベル放射性廃水を処理する施設内にある1万トンと、5、6号機の地下水1500トン。
原子炉等規制法の「核燃料物質によって汚染された物による災害が発生するおそれがある場合」の危険時の措置に沿って決断した。東電が4日午後3時、経済産業省原子力安全・保安院に報告し、20分後、保安院が了解した。
集中環境施設内の水は仮設ポンプ10台を使い、南放水口近くの海へ直接放出する。5、6号機の地下水は、北放水口から放出する。いずれも、2号機からの高レベル汚染水がたまっていると考えられる「取水路」を避ける。
放出による人体への影響について東電は、漁業が行われていない同原発から半径1キロ圏内の外でとれた魚類や海藻を毎日食べ続けたとしても、成人で年間約0.6ミリシーベルトの内部被ばくにとどまるとの試算に基づき「影響は少ない」とした。人が食物や大気など自然から取り込む放射線量は世界平均で年間2.4ミリシーベルト、日本人平均で同1.5ミリシーベルト。
保安院は、東電の放出経路について「現状でとりうる放出先」と説明。人体への影響については「法に基づく線量限度(原発敷地内の放射線管理区域外で年間1ミリシーベルト)を下回ることから問題ない」とした。一方で東電に対し、生態系への影響を調査し情報公開に努めるよう指示した。
同原発では、2号機タービン建屋地下などに高レベル汚染水が1万トン以上あるとみられ、一部は2号機取水口や堤防の亀裂から直接、海へ流出している。東電は4日、高濃度汚染水の流出を防ぐため、長さ約20~30メートルの鉄板で堤防の損傷箇所を補強する検討を始めた。取水口の前面にフェンスを設置する計画もある。
東電は、高レベル汚染水を建屋内の復水器に回収して流出を食い止めたい意向だ。しかし復水器が満水のため、復水貯蔵タンク→サージタンク→集中環境施設と「玉突き」で水を移動させる計画。当初、集中環境施設内にある低レベル汚染水を4号機のタービン建屋内に移す予定だったが、開始後に3号機建屋の汚染水が増えたため作業を中断、集中環境施設の水を海へ放水することを決めた。
5、6号機の地下水については、放射能を帯びた地下水が、ひび割れなどを通して建屋内に浸水し始めていることが分かった。このままでは建屋内の非常用発電機などの機器が水没しかねないとして、予防的な放水が必要と判断した。
従来計画していた収容先として、新たなタンクの調達(今月15~30日、計1万5000トン)や、タンクに流用するメガフロート(人工の浮き島)の調達(15日以降、約1万トン)は従来通り進める。【山田大輔、足立旬子、酒造唯】
毎日新聞 2011年4月4日 20時52分(最終更新 4月5日 2時37分)