2011年4月13日
脳死になった少年から初めて提供された臓器は、5人の患者に移植された。同じ少年だったのは心臓だけ。心臓には「子どもから子どもへ」というルールがあるからだ。
「今回は非常にスムーズに進めることができた」
13日午前11時半、大阪大病院の移植チームを率いる心臓血管外科の澤芳樹科長は心臓の移植手術をほぼ終えて開いた会見で言った。
提供者は10代前半。移植を受ける患者は10代後半。年齢が近いことが「手術が順調だったポイント」と強調した。「臓器提供いただいた(提供者の)ご両親に感謝を申し上げたい。命をつなぐことができた」と福澤正洋病院長も感謝した。
移植を受けたのは中国地方の患者。午前4時半に手術室に入った。関東甲信越地方の病院で摘出された心臓が大阪大病院に到着したのは7時22分。すぐに手術が始まった。血管をつなぎ、9時13分に患者の胸で心臓が再び拍動を始めた。
提供者の体から取り出して患者に移植するまで、心臓には血液が流れない。こうした状態が長く続くと、臓器は機能が落ちてしまう。心臓の場合、血流を再開させるまでの時間は4時間が目安とされる。今回はそれより短い3時間40分で再開できた。
うまくいった要因の一つは提供者と患者の心臓の大きさが似ていたこと。血管の太さなどがほぼ同じなので、つなぐときに余計な操作をする必要がなかった。心臓の大きさは体重と比例することが多い。今回、提供者と患者の体重もあまり変わらなかったという。
18歳未満で脳死になった子どもから提供された心臓を、18歳未満の患者に優先的に移植するルールは、昨年10月に厚生労働省が定めた。澤科長は「小児の移植を進めていくうえで非常に優れたルール。そう実感した」と話した。
こうしたルールの背景には、新たに子どもが登録しても、医学的な緊急度や待機期間を考慮した従来のルールでは選ばれにくいという事情があった。専門家の間では臓器の公平な配分という理念から慎重な意見もあったが、子どもから心臓をもらった方が治療成績がよいとする論文などを根拠に決められた。
今回、移植を受けた患者は10代1人、20代、30代、50代、60代がそれぞれ1人。肝臓も血液型などを考慮して18歳未満の間での移植を優先する基準があるが、20代だった。日本脳死肝移植適応評価委員会委員長の市田隆文・順天堂大学静岡病院教授は「今後、移植希望の子どもが増えれば基準を適用することもあるだろう」と話す。
腎臓は子どもの間の移植を優先する仕組みはない。未成年者が移植希望者の10%をしめる心臓に比べ、腎臓は全体の1%にも満たない。日本小児腎臓病学会理事長の本田雅敬・東京都立小児総合医療センター副院長は「大人の腎臓を1歳の子に移植することもできる」。子どもの腎臓を子どもに優先的に提供する基準を導入することで、子どもが子どもからしか提供を受けられなくならないよう配慮が必要だと指摘する。