10代前半の男子を提供者とする脳死移植が実施された。昨年7月に改正臓器移植法が全面施行されて以来、子どもの脳死臓器提供は初のケースである。
改正前の臓器移植法では、本人と家族の両方の同意がなければ臓器は提供できなかった。結果的に、15歳未満の子どもは提供者からは除外されていた。
このため、サイズの小さい臓器を必要とする子どもの患者は海外で脳死移植を受けるケースが多く、移植医療の課題となってきた。
これを解決し、国内でも子どもの脳死移植を可能にしようとしたのが改正移植法のひとつのねらいである。改正法のもとでは、本人意思がわからなくても家族の承諾で提供でき、子どもの提供も可能になった。
今回、心臓は「18歳未満からの提供先は18歳未満を優先する」との国の基準により、10代の男性に移植された。ただ、肺や肝臓、膵臓(すいぞう)、腎臓は、それぞれ20~60代の大人の患者に移植されている。
今後、子どもの脳死移植が進むかどうかは未知数だ。ただ、本当に定着させたいと思うなら、重要な課題がある。情報の透明性と、それに基づく検証だ。
日本では「日本臓器移植ネットワーク」が、脳死移植の橋渡しをしている。提供の可能性がある場合には、主治医の連絡を受け、移植コーディネーターが家族に説明する。
移植の経緯などは移植ネットが公表する。ところが、ここで公開される情報が非常に限られている。
家族はどのように脳死を受け入れ、臓器提供を決断したのか、主治医はどう説明したのか、具体的な状況が見えてこない。脳死につながった事故の詳細も「個人の特定につながる」という理由で公表されていない。情報の少なさは、これまでの大人の移植でも同様だ。
移植ネット側の論理からすれば、「個人情報を守ることが移植医療の定着にとって大事」ということなのだろう。確かにプライバシー保護は重要だ。しかし、情報を必要以上に制限すると、人々の不信感につながり、かえって逆効果になる恐れがある。
脳死移植が適切に行われたかどうか。特に子どもが提供者となる場合には、虐待がなかったかどうかなど、大人以上に慎重に見極める必要がある。倫理委員会の議論もそのための大事な情報だ。
脳死になった人の臓器提供は、家族にとって非常に重い決断でもある。その決断を医療現場がどう支援したか、心理的な誘導はなかったか。そうした移植の経緯が検証されてこそ、一般の人も移植医療を理解し、提供者も増えてくるはずだ。
毎日新聞 2011年4月18日 2時30分