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ケルベロス Kerberos

◆地獄の番犬
ケルベロスはギリシア神話に登場する地獄の番犬です。
タルタロスと呼ばれる奈落の底に棲み、今も死者が出入りする青銅の門を守り続けています。その姿は獅子か象かと見まごうような大きな身体で、頭には三つ、もしくはそれ以上の数の首がついています。性格は獰猛かつ本能的、ほとんどの人間に対し攻撃的な態度を見せますが、ただひとり、地獄の渡し守カロン(チャロン)に対してだけは心を許します。また、太陽の光と美しい音楽に弱いという特徴も持っています。
古代ギリシアの詩人ヘシオドスの「神統記」によれば、彼は半人半獣の怪物エキドナと、ゼウスを苦しめたテュポンの間に生まれたとされ、背中ないし頭部に50の首を持ち、生肉を喰らい、青銅の声を持っているとされています。最後の「青銅の声」がいまいち意味不明ですが、恐らく鈍く響く金属のような声ということなのでしょう。


◆イヌと神話とケルベロス
ケルベロスに限らず、イヌはさまざまな神話・伝承に登場します。特に、古くから墓守や宝物庫の番犬として使われてきたことから、しばしば彼らは死そのもの、あるいは大切なものを守る存在としてのイメージを与えられてきました。日本にも「花咲かじいさん」のポチや、大猿を退治する「しっぺい太郎」などのように、宝物を探り当てたり怪物を退治するイヌの話がよく出てきます。
古代エジプトなどでは、墓守=死のイメージから、しばしばイヌが死そのものの象徴としても見なされることもありました。死の神アヌビスがイヌ(もしくはジャッカル)の頭を持っているのはそれが影響しているためだと言われています。


◆ギリシア神話のケルベロス
ギリシア神話のケルベロスは冥界神ハーデスのもとに仕える存在であり、タルタロスの入り口を今も守り続けています。
彼の役割は地獄から這い出ようとする亡者を捕らえ、まだ死すべきではない生者が勝手に入り込まないようにすることです。三つの首がそれぞれ別の方向を見張っている上に、ほとんど眠らないと来ているので、どんな隠れ上手であっても逃れることは難しいでしょう。見つかったら最後、ケルベロスはその闖入者に襲いかかり、巨大な牙で魂ごと引き裂いてしまいます。
もちろん、有能とは言えイヌはイヌ。さすがに万能とは行かず、過去に何回か門の通過を許しています。英雄で詩人のオルフェウスが妻のエウリュディケに会いに行ったとき、ケルベロスは甘美な琴の音を聞かされて眠り込み、この英雄をやすやすと冥界に迎え入れてしまっています。
また、ヘラクレスが来たときには、通過どころか彼に素手で羽交い締めにされ、地上まで引き出されるという屈辱を味わっています。この時苦悶のあまり猛毒のよだれを垂らし、そのよだれは草木を毒草のトリカブトに変えました。
巫女シビュレはアイネイアス(トロイア戦争の英雄)を冥界に案内したとき、ケルベロスに芥子(ケシ)と蜂蜜を混ぜた菓子を与えておとなしくさせて、難なく通過しています。古代ギリシアやローマで死者の手にパンを握らせることがあるのは、この故事に基づきます。危なくなったらこれを投げて、冥府の番犬をおとなしくさせろ!と言うわけです。
ちなみに「ケルベロスにパン切れを与えるgive(throw) a sop to Cerberus」という言葉は「賄賂を与える」という意味があります。


◆ケルベロスのイメージ
ケルベロスは「三つ首」というイメージが一般的で、そこから三人組の悪人を「ケルベロス」と名付ける例もありますが、古くはもっと多くの首を持っていたらしく、50個ないし100個の首を持つとする記述も残っています。そもそも、ケルベロスという名前自体が「百の頭を持つ怪物」を意味するラテン語Centiceps Belluaから来ていると考えられていて、昔は三つどころではない、100(あるいはそれ以上)の頭を持つ姿が一般的だったのです。彼が三つ首というイメージを持つようになったのはかなり後の時代、ギリシア神話が既に神話ではなく教養となった時代のことで、中世も半ば以上過ぎてからだと言われています。
キリスト教会では複数の首のイメージから、この怪物を「神の三重の力」、すなわち再生、保持、精神化を象徴する存在と見なしました。他にも、ダンテの「神曲」では大食と淫乱をたしなむ存在として描かれています。



■亜種・別名など




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