アイの事件簿


〜妃英理と毛利小五郎の場合 後編〜



「まぁ、ゆっくり話でもしましょう」
須藤力はベッドに腰を下ろして、半裸の妃英理を見据えた。ベッドはやたらと大きく、妃が5、6人寝転がっても大丈夫な広さだ。

「……」
妃にしてみれば話すことはない。万能感に酔う異常犯に何を話もヘラヘラ笑っているだけだろう。

「先生、僕は話がしたいんですよ。僕は先生のことを一流の知識人だと思っています。先生と比べたらテレビに出てる文化人や知識人なんて全然ダメですよ。女の知識人は特にね。第一、あいつらは美しくない」
妃先生の姿を一度でも目にすれば他の女知識人など浅薄な知識と醜さを自慢しているハレンチな知的露出狂にしか見えない、ハレンチ犯罪者はそう言うのだった。



「話に付き合ってくれないなら犯しますよ?」
男は妃の沈黙を快く思わなかったが、それすら楽しもうと薄ら笑いを浮かべた。
「……信じてもらえないかもしれませんが、僕は賢い人との知的な会話で得られる刺激の方がセックスで得られる快楽よりも高次でかけがえのないものだと信じてるんですよ。だってそうでしょう、セックスはそこら辺の頭の悪い女といくらでもできますが、あなたのような人は見つけるのがまず困難で、しかも知的な会話に打ち興じるなど不可能に近いじゃないですか」
舌に油でも塗ってあるのか、本当によく喋る男だ。しかも知的知的とうるさい。男はいっぱしに知性を語っているつもりなのだろうが、妃にはコンプレックスの塊にしか見えない。

しかし喋るのが好きなら好都合だ。なるべく喋らせよう。その後で犯されるかもしれないが、それもよしとしよう。殺されるまでの時間稼ぎにはなるはずだ。
以上が妃の作戦方針である。
「こんな卑猥な格好をさせられたままじゃ、あなたの知的欲求を満足させられるようなお話はできそうもないわね」
「……『思想の姦通者』」
待遇改善を要求する妃を無視して男はそんな言葉を吐いた。ベッドに腰掛け、口元に笑みを浮かべながらじっと妃を見つめている。妃がこの言葉にどう反応するか楽しみにしているようだ。

仕方ないので相手してやることにする。ただし慎重に。
「……私たち弁護士のことね」
19世紀後半に流行った言葉を知っている妃に須藤は顔をほころばせた。
「いえいえ。この言葉は確かに弁護士のことを指しますが、あなたはこの中に入らないですよ。碓氷律子のような女のことを言うんですよ。殺されたそうですね、碓氷弁護士」
確かにそういう事件があった(第27巻FILE1〜3)。解決したのは妃(とコナン)だ。

「聞けば同僚に殺されたって話じゃないですか。公害企業を弁護するあの女を許せなかった社会派弁護士が殺したって聞いてますよ?」
そういう事件ではなかったのだが、世間ではそう広まっているかもしれない。
「まぁ、公害企業の弁護をする売女なんか殺されて当然ですよね。思想の姦通者とは言ったものです」
「……誰にでも裁判を受ける権利があり、弁護を受ける権利がある。誰かがやらなければならない弁護もあるわ」
「碓氷弁護士が不承不承公害企業の弁護をしていたとでも? 僕はあんまりこの事件は知らないんですが、どうせ名声とかカネが目的で弁護を引き受けたんでしょう」
残念だが須藤が正しい。しかしその正しさは妃の立論には関係ない。

「積極的だったかそうでなかったかは問題にはならないわ。私たちは意に染まぬ弁護をしなければならないこともある、自分の正義感や良心に背くことであってもね」
これはどんな仕事にもいえるはずだ。

「原則論はつまらないですよ。およそ妃さんらしくない、知的でないお話です」
がっかりしたような、困ったような表情を浮かべ頭を振る須藤。
「原則論を教条主義と同一視している人間にはそう思えるでしょうね」

「……」
須藤は自分の思っていたことを全て見透かされ、さすがに顔色を変えた。
頬が紅潮し、はぁっはぁっ……と息が荒くなる。
「素晴らしい、さすがは妃先生だ。僕がぐうの音も出なかった。すごい……もっと、もっと話しましょう……!」
言ってズボンのチャックを下ろし、トランクスの下から肉棒を取り出した。

男は勃起していた。自分の制圧下に置かれている女が、自分のモノにならず口ごたえしてくる。快感、快感、快感!
「……!」
汚らわしいモノを見せられて妃は顔をしかめたが、それでも男を睨みつけたまま目を離さない。

須藤はペニスをゆっくりしごきながら興奮も露わに口を開いた。
「さぁ話しましょう。でも何を話そう……? そうだ、肉欲抜きの夫婦愛は成立し得ると思いますか?」
犯罪者の汚い自慰行為はなるべく見ずに、それでも愚劣な会話に付き合ってやる。全ては生き残るためだ。問答無用で強姦、そして殺害というパターンでないだけ自分は幸運だったと思っている。

夫に激しくセックスを感じている妃には答えにくい質問だったが、少なくとも平静を装って頷いた。
「成立するわね。年を取っても深く愛し合っている夫婦を何組も知ってるわ」
「いや、そんな枯れた夫婦のことじゃなくてですね、妃先生のことが聞きたいんですよ。どうなんです? セックスしたいと思う時くらいあるでしょう? そんな時やっぱり毛利小五郎とセックスしたいって思うんですか? ……テレビや雑誌でしょっちゅう見かけますがあまりイイ男じゃないですよね」

この程度の挑発に乗る妃ではない。
「そうね、私は男を見る目がないかもしれないわね」
「毛利小五郎っていかにも下品で粗野でスケベそうな顔してるじゃないですか。ひょっとしてあれですか、セックスの時もすごくスケベなんですか?」
この会話のどこが知的なのかと聞き返したくなるが、今の妃の立場はすこぶるつきに弱い。
「……そうかもね」
なるべく下手に出ようと思っているが、それでも怒りのあまり、この五文字の言葉を絞り出すのがやっとだった。

「そうか、あいつはやっぱりスケベなのか……! でも大丈夫です、僕がいろいろ開発してあげます。あんなのとは比べものにならないくらいの天国を見せてあげますよ。……そうだな、そろそろいじってあげましょうか」
チンポをしごきながら立ち上がる。



「!」
さすがに妃も顔色が変わった。口をきゅっと閉じ、中で歯を食いしばる。
拳を握るが十字架に磔にされたみたいに身動きはできない。

須藤は鼻息荒く近づいてきた。妃の目の前に立つと、屹立の先端を妃の股間に押し当てた。ショーツに食い込み、その下の秘部に当たる。亀頭の先で溜まりをつくっていた先走りが粘着し、法曹界のクィーンのショーツを汚した。
「っ……!」
須藤を睨みつける。

そんな目は須藤を萎縮させるどころかますます熱くするだけだ。なんといってもこの女の生殺与奪は自分が握っている、その事実が須藤をこの快楽主義の部屋の神にしていた。

さっきまで自分のペニスを触っていた手で妃の乳房を揉み始める。柔らかい感触を楽しみながら、乳首を親指でこねてやる。
「っ! くっ!」
「ハァハァハァ、感じてますか妃先生? ほら、僕のチンポ見てくださいよ。先生のパンツにおいしそうに食らいついてるでしょ? いや、先生の股間が僕のチンポを食べようとしているのかな。いいですよ、僕たち、相性バッチリですよ……!」
性犯罪者丸出しだ。

妃の両手を縛っていた縄を緩め、大声で叫ぶ。
「さあ、さあっ! ショーツも取りましょう! はぁっはぁっ、も、もう出てしまいますよ、はぁはぁはぁ……っ!」
右手で激しくペニスをしごきながら左手で妃の髪を引っ掴んだ。
「ぅぅっ!」
髪を引っ張られ苦悶の声を上げる。その妃の顔面に射精するつもりだ。
「そ、その美しい顔にぶちまけてやりますよっ! ぅぉっ、ぅぅぅぉぉぉ……っ!」
雄叫びと共に白く濁った汚汁を噴き出させる。勢いよく射出されたそれが妃の美貌を容赦なく汚した。形のいい額、すっと通った鼻梁、艶やかな唇、細い顎、そして眼鏡……全てである。

「ぅっぐっ!」
髪を引っ張られる痛みとスペルマの不快な生温かさ、感触、臭いに妃は顔をゆがめた。
そんな苦悶の表情が須藤にはたまらなく素敵に見える。そう、この女は自分より劣った男に陵辱されねばならない!

ペニスを美貌に押しつけ、首筋、鎖骨、乳房という順にべっとりと精液をつけてやる。これは所有のイニシエーションだ。男性の象徴をぶっかけて征服したことの証立てにする。
「はぁっはぁっはぁっ! キレイですよ、妃先生、そうだ、もっと綺麗になりましょう。これでケツの中のものを全部出してしまうんですよ、そうだ、それがいい!」

いきなりキレたのか、須藤は血走った目で妃を見下ろしながら手近に置いてあった極太の浣腸器を掴んだ。
これを氷の女王のケツの穴にぶちこんで、中の汚物という汚物を撒き散らしてもらおう! こんな美しい女でも、中には汚いものが詰まっているということを証明してもらおう!
そう、ここは法廷、神前裁判。そして自分が検事であり、神である……!



部屋の入り口の鍵がガチャリと外から開けられたことに気づかなかったのは不覚だった。
いや、気づいても手遅れになっただろう。
「英理!」
毛利探偵が部屋の中に飛び込んできて、中の状況を見て怒り沸騰する。
愛する妻が裸にされて縛られていた。その近くでは鼻息が荒くなった男が大きな浣腸器を手に、今にも妻を陵辱せんとしていた。

「貴っ様ぁぁぁぁぁぁぁぁ……っ!」
歯を剥き出しにして飛びかかる。
「なっ!?」
どうして毛利がここに辿り着いたのか、どうしてこの部屋のことがわかり、どうしてこの部屋の鍵を開けて入ることができたのか、そういった疑問が生じる暇さえなく顔面を殴打された。
「ぐぁぁぁ……っ!」
悲鳴を上げて吹っ飛ばされる須藤。

「うぉぉぉぉぉぉぉ……っ!」
殴られて尻餅つきかけた犯罪者の襟首を掴んで立たせると、一気に懐に入り一本背負いに持ち込む。ただの背負い投げではなく、そのまま前転しての背負い巻き込みだ。
毛利が前転した時に肺を圧迫されて須藤は「ぐぇっ!」と奇怪な声を発した。

見事に(そして痛くなるように)背負いで巻き込み、振り返りざまに思い切りもう一発顔面を殴りつけた。
「ぐぅふっ!」
須藤はノックダウンした。

「英理!」
男が倒れたのを確認してから毛利は慌てて妻に駆け寄った。
「英理、大丈夫か!?」
妻を抱き上げたい衝動を抑えてまずは縄をほどく。戒めを解いてから毛利は妻を抱き上げた。
「あ、あなた、あなた……!」
須藤に見せていた気丈さはどこへやら、夫に見せた妃の顔は弱々しく、頼りなく泣いていた。



毛利の背後で須藤が立ち上がる。それを見た妃が鋭い声で夫に知らせた。
「! あなた!」
「!」
毛利も振り返ったが、須藤は襲ってはこなかった。ダッシュで逃走する。外で「ぐわぁっ!」という男の悲鳴が聞こえた。このラブホテルの従業員のものだろう。
「野郎ッ!」
毛利は後を追おうとしたが、妻から手を離した途端、その体がくず折れたので大慌てで抱き留めた。
「英理! 大丈夫か、英理!」

性犯罪者に拉致監禁され貞操と命のやり取りをしていたのだ。緊張の糸が切れてしまっても不思議ではないだろう。毛利は犯人追跡を諦め、今は気を失った妻のそばにいてやることを選んだのだった……。



5日後。

妃英理を監禁し暴行を働いた山本研二はまだ捕まっていない。
妃弁護士事務所を訪れたときに名乗った山本研二というのはどうやら偽名だったらしいことがわかった。

結局ホテルの防犯カメラに映っていた顔と妃の協力で作成したモンタージュを手がかりに聞き込み中心の捜査が展開されている。犯人逮捕は近いかもしれないし、そうではないかもしれない。

それよりも……
米花センタービル展望レストラン、午後9時。
毛利と妃は丸テーブルに向かい合ってコーヒーを飲んでいた。食後の静かなひととき。いや、静かすぎる……

あの事件の夜、妃が夫と会食を約束したのは、山本研二なる男から本を書く依頼をされ、どうしようか相談するためだった。でもその話はもう相談する必要がない。

だが妃には話し合わねばならないことがあった。正確には、その必要性はあの夜発生した。
妃はブランド物のバッグの中に、ある『決意』を忍ばせている。
このことをいつ切り出そうかと思っていた矢先、夫が口を開いた。
「この後、何か用事あんのか?」

いつになく真面目な顔つき。
あの後、夫はしばらく一緒にいてくれたが、何があったのか具体的なことは全く聞かなかった。
彼なりの気遣いだろう。
昔から信じられないくらい無神経な人だったが、愛情の薄い人では決してなかった。
「……いえ、特に何も」
妃は心のうちに去来する様々な感情を押し隠して、短くそう答えた。

「そ、そうか。……だったら部屋をとってるんだ。どうだ?」
毛利の声がやや上ずったものになった。照れ隠しなのか憮然としたいかめしい表情を作って瞑目している。

……私に気を遣ってるのね……
そして汚された妻を抱いて慰めようとでもいうのだろうか?
……それもいいかな……
妃は心の中で独りごちた。
「そうね、ちょうど良かったわ。私もあなたに話があるの」
妻が頷いたので、毛利は「お、そ、そうか、じゃあ、行くとするか……」と精一杯威厳を保って立ち上がった。その姿をさまざまな意味に彩られた瞳で見上げる妻に、毛利は気づいていなかった。
                        続く




【解説】

申し訳ありません、次回やっとエロです。

妃英理の話を書いてみての感想ですが、やっぱり難しかったですね。
たとえば碓氷弁護士のことを須藤が「売女」と言った時に、最初妃は激高して須藤を怒鳴りつける、という筋にしておりました。須藤はびっくりして本当に謝ってしまいます。
氷の女王のように言われておりますが妃は心のあったかい女性です。ですから鬼籍に入った元同僚を売女扱いする犯罪者にブチ切れる、そして犯罪者はその姿に畏怖する。そんな感じでした。
ですが話が長くなってしまうので書き直しました。

須藤が逃げることができたのは全くもって僕のご都合主義です。とりあえず佐藤刑事と高木刑事につなげられたらなぁというくらいの軽い気持ちです。
佐藤刑事の話を作るとしても須藤を使うかはまだわかりません。他にもおもしろそうなネタがあったらそっちで書いてみたいです。

やっぱり無理がありますね、須藤力は。中身の問題は棚上げしたとして、なんといってもページを食います。したがって話数も食います。時間も食います。
何か別のものを考えたいです。

今回はワードで8ページありました。




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