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きょうの社説 2011年4月21日
◎「高峰の桜」里帰り 「日本再生」の思い託して
世界的化学者・高峰譲吉博士が米国ワシントンに寄贈した桜の「里がえり事業」で、博
士が生まれ育った北陸に移植される桜の穂木(ほぎ)が米国政府から贈呈され、「母国」で満開の花を咲かせる希望のプロジェクトが本格的に動き出した。100年前に苦難を乗り越えて米国に渡った桜が、東日本大震災の苦難に見舞われた日本の再生と歩みを同じくして故郷に根付く姿を、期待を込めて見守っていきたい。石川、富山で全国に先駆けて上映されている映画「TAKAMINE〜アメリカに桜を 咲かせた男〜」にもあるように、高峰博士の桜寄贈の試みは簡単には成功しなかった。最初に自費で贈った桜に病害虫が付き、植樹直前で約2千本すべてが焼却処分となり、事業が苦境に立たされたのである。 高峰博士の呼びかけで、日本の威信をかけたプロジェクトとして専門家を集め、2度目 は病害虫がまったく付かない質の高い桜を育成し、約3千本の植樹にこぎ着けた。映画では、挫折しても再び挑戦する博士の気概が伝わる感動的な場面が描かれている。 今回里帰りする桜は、日米親善にかけた博士の不屈の精神を示すシンボルであり、民間 外交による平和的な国際交流の先駆者としての博士の知られざる偉業を再評価する契機になるだろう。 東日本大震災では、米国からの多方面にわたる支援を受け、あらためて日米関係の重要 性が実感できたが、無冠の大使としての高峰博士の業績を見れば、政治的な文脈だけで測れない長年にわたる民間交流の蓄積も、友好関係の深化の背景にあることが理解できるのではないか。高峰博士のふるさとに住んでいる私たちも、映画と合わせて、桜に託した博士の願いを感じ取りたい。 ワシントン・ポトマック河畔の桜から採取した穂木144本は、さいたま市内の農園で 、じっくりと苗木に育てられ、寄贈100周年となる来年3月、石川、富山で植樹される予定だ。東京や横浜など、博士のゆかりの地にも分配が検討されている。里帰りの桜が全国各地に広がり、日本に元気をもたらすことを願いたい。
◎貿易黒字8割減 一時的な赤字もあり得る
東日本大震災の影響で、輸出から輸入を差し引いた3月の貿易収支額が前年同月比で約
8割減少し、黒字幅が大きく縮小した。生産活動の停滞と国内製品の代替輸入の増加により、4−6月期は一時的に赤字転落もあり得るのではないか。特に自動車や鉄鋼、非鉄金属、半導体電子部品の落ち込みが目立つのは、調達・供給網 (サプライチェーン)の寸断による生産停止が背景にある。加えて、福島第1原発の危機的状況や東電管内における電力供給不足懸念、原油高の影響に伴って輸入が11・9%増えたことも黒字圧縮の要因になった。輸出がけん引してきた日本経済の回復シナリオに黄信号がともり始めたといってよく、問題が長引けば、さらなる金融緩和が必要な局面である。 輸出額の減少は1年4か月ぶりで、なかでも自動車の輸出は、東北地方の部品メーカー の被災や停電の影響などで27・8%も減った。北陸の場合、半導体電子部品や電気機械関係の調達・供給網の障害は徐々に解消に向かっているが、自動車向け部品については先の見通しが立たず、一部で生産調整を余儀なくされている。 自動車は1台に2万点以上の部品を使う。部品1点の不足でも生産が止まるため、極め て完成度の高い調達・供給網がつくられている。今回の震災で、その一翼を担う東北の部品メーカーが被災し、部品の供給が止まった。高品質の代替部品を確保するのは容易ではなく、最大手のトヨタは北米や中国でも減産を行う方針である。自動車産業の調達・供給網の早期回復は、貿易黒字を確保していくために欠かせない。 もっとも、夏場以降に部品の供給力が回復し、生産に支障がなくなったとしても、今度 は夏場の電力不足がネックになる。東電は管内の電力供給について7月末で最大5200万キロワットになると発表し、さらに5500万キロワットを目指すという。計画通り進めば、企業が求められる節電は最小限で済むかもしれないが、まだまだ予断を許さない。東電と政府は電力不足回避へ全力を挙げてほしい。
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