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今夏の電力不足で産業部門の節電が難航、経済への打撃に懸念

2011年4月19日19時25分

 [東京 19日 ロイター] 東京電力<9501.T>と東北電力<9506.T>管内の今夏の電力不足に備えた企業の節電対策の調整が本格化している。夏休みの長期化やサマータイム導入などオフィス部門の対策が相次ぎ明らかになっているが、工場電力など産業部門の需要抑制策の策定が一部で難航している。

 専門家からは、経済への打撃を懸念する声が強まっており、今月末に向けた政府の電力需給対策の取りまとめは一段と難しいものになりそうだ。 

  <東電の供給力積み増しは限界か> 

 東電は15日、電力供給力は7月末で最大5200万キロワットになると発表した。震災で停止した火力発電所の追加や、これまで想定に織り込むのを見送っていた揚水発電の追加で、従来の4650万キロワットから上方修正した。東電はさらなる上積みが可能かどうかを今週末までに政府に報告する予定で、海江田万里経済産業相は15日夜「出てきた数字をみてから需要量の抑制策の見直しを考えたい」と述べ、4月末までに策定する需給対策を見直す可能性を示唆した。  

 ただ、東電が夏の供給力をもう一段積み増せるかどうかについては「もはや自社内の発電設備は出尽くしたのでは」(シンクタンク)との見方が強い。8月に入ると柏崎刈羽原子力発電所で1号機と7号機が相次ぎ定期点検に入るため、同月末の供給力は再び5070万キロワットまで下がる。震災で停止した火力発電所で残されているのは広野火力発電所(出力380万キロワット)だが、福島第1原発の屋内退避圏内で、夏までの再稼動は難しいとの見方が多い。 

 夏の需要面について東電は、企業や家庭の節電を織り込んで5500万キロワットと想定するが、政府としては「目標は前年比で考えているため、(猛暑だった)前年ピークの6000万キロワットを想定せざるを得ない」(経済産業省幹部)との立場だ。東電は、設置が比較的容易なガスタービンなど小型電源の追加を急ぐ構えだが、8月末の供給力が5070万キロワットから大幅に上積みできなければ、政府が想定する「1000万キロワット程度の需要抑制」の従来目標を大きく縮小させるのは難しそうだ。 

  <半導体の生産減で8000億円超のマイナス> 

 すでに産業界では「1000万キロワット程度の需要抑制」を念頭に、製造業を中心に前年比25%の最大使用電力の削減に向けて動き出しており、日本経団連は20日までに加盟企業・団体の節電計画の提出を求めている。ソニー<6758.T>は、2週間程度の夏休みを設けるほか、勤務時間を前倒しする「サマータイム」でオフィスビルの節電を講じることを検討。東芝<6502.T>は、東電と東北電力管内の事業所を3グループに分け、1―2週間の夏休みを順番に取得することで、夏の稼働を3分の2にすることで調整に入った。 

 だが、すべての企業の節電対策が順調とは言えない。電子情報技術産業協会(JEITA)は「夏場の電力抑制で半導体の供給が不安定になる可能性がある」(半導体部会)との見解をまとめた。24時間稼働が前提の半導体工場は、クリーンルームや空調・水などインフラ設備に大量の電力を使うため、25%の電力抑制でも稼働率は50%以下まで落ちるという。半導体産業研究所の試算によると、今年7―9月の3カ月間に、東電と東北電の管内にある工場の使用電力が7割に減った場合の半導体の減収額は1265―1898億円で、サプライチェーン全体には最大8109億円のマイナスの影響が波及する可能性があるとしている。 

 半導体大手のルネサスエレクトロニクス<6723.T>で3月11日以降、主力の那珂工場(茨城県ひたちなか市)の生産が停止していることが自動車やエレクトロニクス製品の生産に影響を与えているとみられているが、生産を再開した山形工場(鶴岡市)のほか、高崎工場(群馬県高崎市)と山梨工場(甲斐市)でも稼働率が落ち込む懸念が出てきた。高崎・山梨の2工場は、3月14日の東電の計画停電開始を受けて工場を停止し、東電が計画停電を原則実施しないと表明した今月8日から通常稼働に戻ったばかりだが、夏の節電で再び生産減に陥る可能性が出てきている。 

  <自動車・通信も節電に苦慮> 

 日本経団連が15日に開催した企業の節電対策に関する説明会で日本自動車工業会は、自動車だけでなく電機や鉄鋼など他業界を巻き込んで、休日をずらして取得する「業界輪番」の導入を提案した。ただ、他業界の反応は鈍く「電源を切るのに1週間、立ち上げるのに1週間もの時間がかかる。半導体の工場は輪番操業には馴染まない」(JEITA半導体部会)との指摘が出ている。 

 自動車業界内でも対策作りは難航しているようだ。ホンダ<7267.T>の片山行執行役員埼玉製作所長は、最大電力使用量の25%抑制について「難しい目標値だ。非常にハードルが高い」と語った。

 NTT<9432.T>もピーク電力の抑制に苦慮している。グループの使用電力の85%を通信設備が占めるが、通信設備の消費電力はトラフィックの増減に関わらず一定量で変化がないため、特定時間の電話利用を控えるよう呼びかけるといった対策では節電効果がない。従来まで計画停電には「携帯の基地局や固定の局舎のバッテリーは3時間くらいまでなら持つ」(三浦惺社長)と寛容だったが、ピーク電力の抑制には「妙案がなかなか出てこない」(広報)のが実態だ。 

  <東電・東北電管内の空洞化も> 

 24時間稼働が前提の液晶パネル工場も半導体と事情は同じだが、すでに日立製作所<6501.T>は、中小型液晶パネル製造子会社の日立ディスプレイズの茂原工場(千葉県茂原市)の生産減に備えて台湾の奇美電子(チーメイ・イノラックス)<3481.TW>への生産委託を拡大することを決めた。節電による液晶パネル生産の減少分は台湾への外部発注でカバーする。 

 一橋大学大学院の橘川武郎教授は「電力25%抑制では、大規模停電が避けられたとしても産業の競争力が落ちる。半導体や液晶は東日本ではもう作れないという話になりかねない。停電よりも、空洞化や経済に与える打撃の方が深刻かもしれない」との懸念を示す。 

 日本総合研究所の松井英章・主任研究員は「節電が比較的容易な業種とそうではない業種がはっきりしてきた。25%抑制の一律規制では経済への影響が大きいので見直しの必要があるかもしれない。オフィスビルなど業務用電力の節電には一段の対策の余地がある」との見方を示す。

 経済産業省が12日に業界団体向けに開いた需給対策の説明会では、複数の企業が入居するビルオーナーに電力抑制の規制がかかってもテナントの節電を強制する手立てがないことが疑問視された。これを踏まえて松井氏は「ビル1棟ごと交代で休業を取るなど思い切った対策が必要になる」と指摘している。  

 政府が8日に示した需給対策の骨格案で、産業界が注目しているのは、複数の企業でピーク電力の削減を融通し合う仕組みだ。経済産業省が制度の詳細を詰めているが「電力が余っている製品工場でも部品がなければ工場が動かせないので、サプイライチェーン全体の中で、電力抑制幅を融通し合えるのではないか」(JEITA半導体部会)としており、実効性ある制度設計が求められている。

(ロイターニュース 村井令二 編集:石田仁志)

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