ナインにもみくちゃにされた後はほとんど覚えていない。胸の鼓動も簡単には収まらなかった。気持ちは最高だ。サヨナラ打を放った阪神の新井良はお立ち台を独占し、地鳴りのような歓声を一身に受けた。
「(甲子園のお立ち台は)すごかった。ファンの大歓声が本当に良かった。気持ちよかった」
延長10回。目の前で兄・貴浩がショート内野安打を放ってつないでくれた。2死満塁。すでに時間は3時間半をオーバー。勝つか、引き分けるか。新井良が運命を握っていた。「積極的に行こうとだけ思っていた」。鋭い目で、巨人の守護神・山口を見詰めた。1ボール1ストライクからの3球目。内寄りの直球を振り抜いた。鋭いライナーは右前で弾んだ。
阪神移籍初安打はなんと自身初のサヨナラ打。喜びをかみしめる間もなく、狂喜乱舞するナインの輪にのみ込まれた。「食らい付く。必死にやる」。新井良は常にこの思いを胸に刻み打席に入っているという。その執念がここで実った。
真弓監督は「よくつないで、つないで、決めてくれました」と笑みを浮かべた。中日から移籍した昨年末の入団会見では「一日も早く名前と顔を覚えてもらえるよう必死で頑張ります」と口にしていたが、完全にその名を知らしめた。今季の虎には新井良という頼もしい右の代打がいる。 (島田明)