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[事件]ニュース
【被災地の皆さんへ】神戸女学院大名誉教授・内田樹さん
2011.4.20 07:33
「新たな故郷」つくるシナリオを
復興は目の前のがれきを片付けることからしか始まらない。でも、そこから始まる。まず石を一つ拾うことから始め、拾ったら拾った分だけ復興に向かう。何度も津波に遭い、その都度立ち上がってきた三陸のみなさんは分かっていると思う。
被災地の方々にとって、高すぎる理想や遠い目標を掲げないことが大切。すぐに手が届くところに、ささやかな目標を設定し、それをクリアしたらお互いに健闘をたたえ合い、また次の目標を立てる。そういう小さな積み上げが長期にわたる復興には必要だ。
今回は津波と原発の「複合災害」。自然災害は有史以来繰り返され、どう対処してよいか、私たちは本能的に知っている。復興のつち音が聞こえてくるのも遠くはないと思う。だが原発は人災で、対処法を歴史的経験として蓄積していない。
福島や北関東の一部では、そこに「住む」という選択肢さえ失われる可能性がある。今のままでは農業や酪農はダメージが大きく、人口も減り、地価も下がり、いきおい地場産業も衰退するだろう。このエリアに大きな空白が生じる事態も考慮しなければならない。
国の原子力行政の結果、土地を離れ、職を失うことを強いられた人々を救済するため、政府は「新たな故郷」をつくるくらいのスケールの大きな政策を検討すべきだろう。住民ひとりひとりの個人的な決断に委ねて、これ以上の苦しみを与えるべきではない。彼らへの全国民的な支援体制の設計が急務であると思う。
◇
【プロフィル】内田樹
うちだ・たつる 神戸女学院大名誉教授。昭和25年生まれ。阪神大震災で被災した経験を持つ。
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