きょうの社説 2011年4月20日

◎高濃度汚染水を移送 事故収束へ政府は前面に
 福島第1原発事故で東京電力が、2号機のタービン建屋と立て坑にたまった高濃度汚染 水の移送作業を開始した。東電が先に発表した工程表に基づき、2号機の「冷温停止」を図る第一歩となる。事故全体を収束させる道のりは遠く険しいが、着実に前進し、何としても成功させなければならない。

 政府は事故収束に向けた東電の工程表を、応急措置の段階から計画的・安定的措置の段 階へ移行する「重要な一歩」と位置づけている。工程表は菅直人首相の指示でまとめられたというが、腑に落ちないのは、政府がいまなお東電に対して「指示」を出し、工程表の実現に「協力」するという立場を取っていることである。

 原発事故対応はまず電気事業者がなすべきこととしても、国家的危機の福島原発事故は 、政府が前面に出て対処すべきである。政府と東電は共同で菅首相を本部長とする「福島原発事故対策統合連絡本部」を設置しており、工程表の発表は当然政府と連携して行われたのであろう。しかし、発表を東電任せにする政府の姿勢からは、国の威信をかけ、政府自らの責任で事故を収束させるという覚悟がいま一つ十分に伝わってこず、そのことが国民や国際社会の信頼をつかみきれない一因になっていると言わざるを得ない。

 当面の計画では、2号機のタービン建屋などの汚染水約2万5千トンのうち約1万トン を、4週間ほどかけて集中廃棄物処理施設に移送する。移した汚染水は浄化し、冷却水として炉心に注入、循環させるシステムも計画している。残りの汚染水処理は、この作業をみて検討するという。

 こうした汚染水処理は、6〜9カ月程度にわたる工程表の入り口にすぎない。工程表に 示された対策の中には、損傷した2号機原子炉格納容器の修復など、技術的に困難で具体策がまだ固まっていないものも少なくない。

 それでも、原子炉安定化の見通しがともかく示されたことは、避難住民はもとより、国 民が心構えを固める上でも意義がある。政府と東電はこれまで以上に丁寧に状況を説明し、工程表の実現に全力を挙げてもらいたい。

◎志賀原発で訓練 不安ぬぐい去るのは難しい
 福島の原発事故を受け、志賀原発で初めて実施された緊急時対応訓練は、原発に対する 住民の不安を和らげるうえで欠かせぬ取り組みである。北陸電力は非常用電源の増強など段階的な津波対策を公表し、実行に移しているが、それでも不安の声が消えないのは、講じられる安全策が万一の際にどこまで役に立つのか疑問がぬぐい去れないからだろう。

 福島の事故で浮き彫りになったのは、巨大な原発システムがいったん制御不能に陥ると 、人間の力では対処しきれないという、電力会社がまったく想定していなかった事態である。多重防護のシステムが破られ、それを動かす人間の力の限界もみえた以上、訓練もその厳しい現実を前提にして、より実効性の高い内容に変えていく必要がある。

 今回の訓練では、地震と津波ですべての電源が失われた事故を想定し、非常用電源を確 保したり、原子炉を完全に冷やす手順などが確認された。原子力安全・保安院が津波対策とともに全国の電力会社に訓練を指示していた。

 事故発生時に予測不可能な事態が次から次へと生じるのは福島のケースをみれば明らか である。今回は円滑に進んだ手順も、混乱した緊迫の状況下でうまくいくとは限らない。保安院は全国で実施された同様の訓練を総合的に検証し、課題が共有できるような仕組みを整えてもらいたい。

 たとえ施設内の訓練であっても、大事なのは住民の側に立った視点である。安全対策が 十分に機能することを組織の確認だけにとどめず、公開の在り方についてはもっと工夫があっていい。訓練の狙い、考え方などを住民に丁寧に説明し、課題が見つかれば改善策と併せて示す積極さもほしい。

 原発の訓練と言えば、形式的になりやすく、想定シナリオの甘さも指摘されてきた。総 務省もこれまで、事故発生時に現地対策本部を置く「オフサイトセンター」の不備などを指摘し、改善を勧告している。これから実施される大規模な県原子力防災訓練を含め、第三者の目を生かすことが各種訓練の実効性を高めるかぎとなろう。