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きょうのコラム「時鐘」 2011年4月20日
桜が咲くと、決まって肌寒い日がやってくる。「花冷え」「桜冷え」と歳時記にある。風流だが、江戸か上方で生まれた言葉だろう。北陸人にとって、「冷え」というほどの寒さではない
「花冷え」の近くに、「亀鳴(かめな)く」という春の季語が出ていた。ページをめくると「田螺鳴(たにしな)く」とある。残念ながら、亀もタニシの鳴き声も聞いたことはない。風流人には不思議な耳がある 「田鼠(でんそ)化(か)して鶉(うずら)となる」という季語もある。モグラがウズラに化けるという。冗談もほどほどにと思うが、畑の作物が根を張って成長するからモグラは姿を消し、ウズラが姿を現す、と注釈にある 言われてみれば、命があふれる春の畑には、モグラよりウズラの愛くるしい姿が似合う。鳴かぬ亀やタニシも、春の日を浴びると生きる喜びを歌いたくなるに違いない。われらが父祖は、巧みな自然観察者だった ツバメの初飛来が確認されたという。こんな悲しい春にも、忘れずにやってきてくれた。いつもと変わらず春が過ぎていくのがありがたい。東日本の荒れた野では、亀もタニシも鳴いてはいまい。そう思うと、なおさらである。 |