中京大が自動追尾カメラ ジャンプ軌道など確認
愛知県豊田市の中京大アイスアリーナで、フィギュアスケートの選手強化に役立つ、世界でも例を見ない技術の開発が進んでいる。練習中の選手を、リンク内に設けたカメラが自動で追いかけて撮影するシステム。実用化も間近で、同アリーナから五輪のメダルを目指す選手たちの大きな武器となりそうだ。 (海老名徳馬)
練習中の小塚崇彦(トヨタ自動車)が、リンク横に置かれたテレビに見入る。たった今滑っていた演技の様子が映し出された画面。「体の細かい動きも、表情も確認できる。いつでもこれが見られれば、すごく大きいと思う」と話す。撮影を機械に任せることで、コーチも指導により集中できるという。
発案したのは、同大情報理工学部の長谷川純一教授(59)と滝剛志准教授(39)。2007年に同アリーナがつくられた際、四隅にカメラを設けることを提案した。長谷川教授は「映像処理工学では永遠のテーマといえる研究で、昔からやりたかった。こんなチャンスはめったにないとひらめいた」と振り返る。
自動追尾の技術は医療分野や工場の生産管理などで進み、一部は実用化もされている。フィギュアスケートの撮影は前例のない試みだけに、開発は何度も壁にぶつかった。
カメラが選手を追尾するためには、まず対象の選手をカメラに認識させる必要がある。この研究上の難題を、スケートリンクならではの条件を生かして解消した。「背景は氷でほとんど真っ白。フェンスは動かないので、白以外の動く部分が選手と認識させた」
当初は選手が画面からはみ出すことが多く、何とか一般の選手は安定して撮影できるようになっても、小塚らトップ選手の速さにはついていけない時期もあった。「もっと滑らかな動きで撮れないか」「選手を大きく映せないか」という選手からの注文に応えるため、練習を繰り返し撮影し、ジャンプやスピン、技の間の動きなどの特徴を分析。自動追尾の精度を高めていった。
バンクーバー五輪直前の09年末には、実験で撮った映像が、ジャンプの不調に陥っていた浅田真央(中京大)の復調に一役買ったこともある。カメラはリンクから6.25メートル上の壁に固定されている。「高い視点から見たことはなかったから、ジャンプに入る軌道を確認できたそうです。『すごいですね』と言ってもらえたと聞いた。選手の役に立つのが一番うれしい」と、今春まで研究に加わっていた原口朋比古さん(25)。浅田は直後の全日本選手権で優勝し、五輪で銀メダルを獲得した。
長谷川教授らは今後、4台で同時に1人を追尾し、うち数台は表情や体の一部にズームアップする機能など、さらに高度な研究にも取り組むという。
(2011年4月19日)