名古屋市千種区の派遣社員、磯谷(いそがい)利恵さん(当時31歳)が07年8月、闇サイトで集まった男3人に殺害された事件で、強盗殺人などの罪に問われ、1審で死刑判決を受けた堀慶末(よしとも)(35)、無期懲役の川岸健治(44)両被告の控訴審判決が12日、名古屋高裁であった。1審が重視したインターネット悪用犯罪の危険性について、下山保男裁判長は「過度に強調するのは相当でない」と指摘、堀被告の1審判決を破棄し、2被告を無期懲役とする判決を言い渡した。
1審名古屋地裁判決(09年3月)は事件を「インターネットを悪用した犯罪の凶悪化、巧妙化の危険性を現実化したもので、発覚困難で模倣性も高い」として「特に厳罰で臨む必要性が高い」と指摘した。しかし2審判決は「素性を知らない者同士の結束力の乏しさが早期の検挙を招いたとも言える。1審が言うほど検挙困難とも模倣性が高いとも言えない」として「殺人被害者が1人の事件で死刑がやむを得ないとまで言えない」と判断した。
また、両被告の磯谷さん殺害への関与の度合いについて、1審は死刑が確定した神田司死刑囚(40)と差異はないとしたが、2審は「神田死刑囚の殺害の提案に安易に応じた側面があり、神田死刑囚と同等ではない」と認定。「生活歴から犯罪性向が強いとは言えず、矯正可能性もある」と指摘した。【式守克史】
「利恵ちゃん、ごめんなさい。お母さん、何もやってあげられなかった」。閉廷後、高裁から出た磯谷さんの母富美子さん(59)はハンカチで涙をぬぐいながら、空に向かって声を上げた。
最愛の娘を失ってから3年8カ月。趣味の旅行やゴルフを楽しむ日常も奪われ、3人の死刑を求める署名活動に没頭した。「ぼうっとしていると寂しいから」と数百ページに及ぶ公判資料を何度も読み込んだ。だが「いつまでも事件を引きずってはいけない」と自分に言い聞かせ「一つの区切り」と考えていたのがこの日の控訴審判決だった。今年3月、富美子さんは「2審は刑事裁判で大きな位置を占める大切な裁判」と語っていた。
だが、判決は願い通りとはならなかった。閉廷後も遺族席でうつむいたまま動けず、裁判所の職員に促されてやっと立った。
判決後の会見では「ひどい結果をとても娘には伝えられない」と声を絞り出した。そして「最後まで戦いたい。(名古屋高検には)上告するようにお願いする」と語気を強めた。【秋山信一】
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■ことば
2審判決によると、07年8月24日夜、名古屋市千種区の路上で、携帯電話の闇サイトで知り合った男3人が帰宅途中の磯谷利恵さんを拉致。現金約6万2000円を奪い、25日未明にロープで首を絞めるなどして殺害した。1審で死刑を言い渡された神田司死刑囚は控訴を取り下げて刑が確定している。
毎日新聞 2011年4月13日 東京朝刊