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[27295] 魔王戦記初音ミク(ボーカロイド二次創作 オリ主)
Name: ヤグチシュンタロー◆a9e5d084 ID:bebfdf4f
Date: 2011/04/19 22:44
ボーカロイドの二次創作です。
普段は自身のブログにバックアップ的に保存&執筆しています。
超スロー更新ですがよろしくお願い致します。

ブログ名:初音ミク的ライトノベル@ボーカロイドブログ
(結構書き散らしてます。
 ブログは投稿&編集を繰り返してるので見にくいかも?
 ググれば見つかる……かもしれない)



[27295] プロローグ 遭遇前夜
Name: ヤグチシュンタロー◆a9e5d084 ID:bebfdf4f
Date: 2011/04/19 22:37
― プロローグ 遭遇前夜 ―

 
 生まれてきた時から、私は魔族の王だった。

 望んだ訳ではないけれど、私はすべての魔族を超越する力を持ち合わせていた。
 生まれたばかりだというのに、歴代の魔王すらも凌駕する魔力、
 見る者全てを魅了する美貌から、魔界最強の魔王《ディアボロ》の生まれ変わりだと言われた。
 
 そして、魔王が君臨した際にのみこの世に具現する魔剣――ラグナロクを
 僅か生後三ヶ月で引き抜いたことが、私が最強の魔王であることを決定付けた。

 その才能に、魔界に生きとし生けるすべての民が震え 興奮し、称え、妬み、魔界は私を中心に廻っていった。

 けれど、私が望んでいたのは、こんな立場ではなかった。
 こんな人生ではなかった。

 破壊と殺戮と恐怖を期待される魔族の王ではなく。
 私の首を狙う下級な魔族を蹴散らす毎日ではなく。
 高貴な料理人が作った豪勢な料理を食べ、美食の限りを尽くす日々でなく。

 私は――ただ、幸せになりたかった。

 人を憎むのではなく、人を愛し。
 人から憎まれるのではなく、人から愛され。
 王という重荷を背負うこともなく、己の力に悩まされることもなく。

 私はただ……非力でもいい、一人の女として、生きたかった。

 だから、私は一縷の望みを託し、魔城の奥深くに眠る古文書に書かれた呪文を唱えた。
 そして、突如出現した不可思議な光の渦に、躊躇することなく飛び込んだ。
 どうしてこのような呪文が書かれた書物があったのか知る由もない。
 天界の民に見つかること無く別世界へ移動できる、ゲートの呪文。

(私は、普通の幸せな生活が、したい)

 私は消え入るような声で呟き、ゲートを潜る。
 あっという間に、視界は真っ白な光で覆われ、


 そして――
 
 私はあの世界にたどり着いた。



[27295] 第一章 その1
Name: ヤグチシュンタロー◆a9e5d084 ID:bebfdf4f
Date: 2011/04/19 22:37
  第一話「遭遇。そして、契約」


「あー! なんで今日に限って雨なんか降るんだよっ!」

 俺――西本翔太(にしもと しょうた)はどしゃ降りの雨の中を傘もささずに走っていた。
 別に好きな女の子に振られたから今日は雨に濡れながら帰ろう、とか「男が涙を流す姿は見せられねぇ……。ちっ、今日は妙に雨が目にしみるぜ」みたいな中学生にありがちなかっこ良さげだけど傍から見たらタダのアホ的理由で傘を指していない訳ではなく、単に傘を持ってくるのを忘れただけというマヌケな理由で今の状況に至っているわけなのである。

「うわっ! ほんとに洒落にならん! 風邪引く、風邪っ!」

 四月だっていうのに、この夏の台風よろしく大雨&雷&強風のコンボは何なんだ。
 よっぽど神様は嫌なことでもあったのだろうか。晴れの入学式だというのに遅刻して、高校生活初日にしてさっそく赤っ恥をかいたとか、冷蔵庫にとっておいた予約三ヶ月待ちの高級プリンを妹に勝手に食べられたとか……って、それは俺のことか。

 吹きつける弾丸のような雨に顔をしかめながら、俺はつくづく自分の運の無さを心のなかで嘆いた。
 俺が不幸な目にあうのは今日昨日にはじまった話じゃない。
 子供の頃から、俺は運なし男だった。
 石があればつまづいて、犬を見かければそいつに追われ、遠足では必ずバスに置いてかれ、好きになった女の子はほぼ100%彼氏持ち。
 15歳と数ヶ月の今日に到るまで、運が良かった日なんて一度もない。
 死んだ婆ちゃんには「悪魔の血筋が流れておる」とか言われるわ、馴染みの住職には「悪霊がついておる」なんて言われるわ、とにかく俺は不幸の星の下に生まれた残念な少年らしいのだ。

 などと自分の不幸な人生についてなどという(~西本翔太の15年と数ヶ月~)至極どうでもいいことを考えながら、俺はこの天候に対してどうするべきか決断を迫られていた。

(この天気、マジでヤバイ……ッ! なんか向かい風が強くて、前に進めねーしっ!)

 いくら季節外れの台風でも、この雨風はおかしい。目もまともに開けられず息をするのもやっとだ。

(こ、このままじゃ死ぬ!)

 俺は風に飛ばされまいと必死に踏ん張りながら、右手で目を保護し、辺りに避難できそうな場所はないか必死に目をこらした。
 すると、畑だらけの田舎道の傍らに、野菜の販売所だろうか、ぽつんと小さな小屋が建っていた。

(よし、一旦あそこに避難しよう!)

 俺は力を振り絞って、何とか小屋まで移動。転がり込むように中へと入った。
 ひんやりとした木板の地面に尻を付く。ぽたぽたと水滴が髪やワイシャツからこぼれ落ちた。

「うー、寒っ。めっちゃ濡れた……」

 体を震わせながら、自分の体に目を見やる。まるで着衣のままプールに飛び込んだ後のように、全身ずぶ濡れ。
 服が水を吸い込んでいるせいか、体は重く、立ち上がる気力もわいてこなかった。
 外はまだ強雨強風。とても徒歩では帰れそうにない。

「しゃーない。とりあえず、家に電話して助けを呼ぶか」

 携帯電話を取り出そうと、ぐちょぐちょになったズボンのポケットに手を入れたところではたと気付いた。

「俺の携帯、防水加工されてなかったよなー……」

 恐る恐る携帯を取り出す。びっしょりと濡れた若者必須の文明の機器は、画面を暗くしたままうんともすんとも言わない金属の塊になっていた。

「くそー! 買ったばかりなのに!」

 スマートフォンだぞ! これ、五万円もしたんだぞ!
 激しい怒りと落胆を覚えつつ、しかし――この程度の不幸には慣れっこだ――俺は携帯のことは諦め頭を切り替えることにした。
 起こってしまった不幸について考えても仕方ない。これからのことを考えよう。

「まぁ、これで車で救助に来てもらうという選択肢は消えたな。はぁ、自力で帰るしかないかぁ」

 しかし、このまま無防備のまま帰るわけにもいかない。
 小屋の中を調べてみるか。レインコートでもあれば、ちょっとだけ借りていこう。
 と、その時だった。

 むにゅり。
 
「……ん!?」

 重くなった体を起こそうと地面に手をつこうとしたところで、右手に柔らかい感覚を覚えた。
 慌てて手を引く。木板の固い感触ではなく、冷たく、何かとても大きいモノだ。
 何だ? 俺は目をこすり、触れてしまった謎の物体の正体を見て――

 俺は自分の目を疑った。

 雷が音を立てて光を発する。
 その雷光に照らされ、浮かび上がったのは、床に横たわる一人の少女の姿だった。

 その少女は、絵画の中から飛び出してきたかのような、現実離れした美貌を持つ少女だった。
 新雪のような白い肌。血色の良いピンク色の唇。二つ結びの蒼い髪が特徴的で、しかし、その特異な髪色が少女の存在を、うすぼんやりとした幻想的なものにしていた。

 俺はしばらく、ぼうっと少女を見下ろす。あまりの美しさに見惚れていた、といった方が正しいかもしれない。
 ひときわ大きい落雷の音で、ようやくハッと我に返り

「人が……倒れてる……んだよな?」

 言って、俺はようやく事の重大性に気付いた。
 俺は慌てて、少女の横に座り込み顔を覗き込む。
 
「き、君、大丈夫!?」

 声をかけてみるが、反応はない。
 うっ……! あらためて見ると、めちゃくちゃ可愛い。
 こんな時に何を考えてるんだ、と自分をたしなめるが、この子を見たら俺じゃなくても、男でも女でも誰だって否応なしにそう感じてしまうだろう。

「う……ん、んん」

 と、少女がわずかに反応した。
 生きてる! 俺はホッと胸を撫で下ろすも、すぐに、まだ油断はできないと気を引き締め直した。

「しっかり! 今、救急車を呼ぶから!」

 俺は携帯を取り出す。が、携帯は119をダイヤルしてもうんともすんとも言わない。

「って、壊れてるんですよねー……」

 なんて最悪なタイミングなんだ。俺の運の無さはとうとう他人まで巻き込むほどになってしまったのか。
 俺はとりあえず、少女の容態を診ることにした。医術的な知識なんてテレビドラマや医療マンガで得た程度だが、脈の測り方や熱のある無しくらいは分かる。
 少女の首筋に指を当ててみる。僅かな呼吸と脈が確認できた。続いて、おでこに手を当ててみる。

「……熱っ!」

 思わず、手を離す。少女の肌はまるで火種のように熱くなっていた。
 これは、相当危険な状態なのかもしれない。

「とにかく、早く病院に――」

 言いかけて、俺の思考は止まった。そして、どさり、とその場に尻餅をついてしまった。
 雷光が彼女の肢体を照らす。
 俺は何故、気づかなかったのだろう。
 彼女が、一切の衣服を身にまとっていないということに。

「……」

 言葉が出なかった。驚きのあまり、というのもある。しかし、何よりその完璧と言っても過言ではない美しい体つきに、俺は釘付けになっていた。
 人間というのは、自分の想像を超えた美を前にすると、何も考えられなくなるという。
 今の俺の状態は、まさにそれだった。

 そして、何時間経っただろうか。
 いや、実際には数分、数秒しか経っていないのかもしれない。
 更なる衝撃が俺を襲った。

「……ケイヤク、を」

 少女がゆっくりと目を開き、俺をまっすぐに見つめて、言った。
 もう一度、ゆっくりと、消え入りそうな声で。

「私と、ケイヤク、を」

「ケイ……ヤク……?」

 俺は少女の言った言葉を、ただ復唱することしかできない。
 彼女から発せられる神々しい(としか形容のしようがない)雰囲気に、完全にのまれていた。

 この子、ニンゲンじゃ、ない。

 俺の中で確信に近い虫の知らせがなる。
 途端に、恐怖が全身を包みこみ、ガタガタと体が勝手に震え始めた。
 少女はゆっくりと四つん這いのまま俺の体に覆いかぶさるように近づいてくる。

 体がぴくりとも動かない。
 頭の中がしびれて、現実感が遠のいていく。
 少女は目を細め、俺の頬にそっと右手をあてて、
 
「お願い……私の願いを、かなえて」

 自身の唇を、俺の唇に押し付けた。



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