社説
東日本大震災 広がる風評被害/きめ細かい情報を迅速に
福島第1原発事故で、福島県内の工業製品メーカーが取引を停止されるケースが出ている。震災前に出荷した商品を返品された企業さえあった。 放射線による汚染を警戒されたためだ。問題がないことを示す分析結果を求められることも多いという。県は電子部品などの放射線測定を行っている。 原発付近の海水から高濃度の放射性物質が検出されて以来、遠く離れた東京でも魚離れが起きている。一部で出荷停止が続く農産物が受けた打撃の大きさは、言うまでもない。 風評被害が、懸念された以上に拡大している。 背景にあるのは、正確な情報が国民に即時に伝わらないことだ。あいまいな情報は驚くほどの速度で拡散していく。政府は情報発信の在り方を、あらためて吟味する必要があろう。 事の起こりは福島、茨城など4県の野菜や原乳から先月、食品衛生法の暫定基準値を超す放射性物質が検出され、出荷停止の措置が取られたことだ。規制の対象外の農産物でも、返品や契約破棄が相次いだ。 中でもホウレンソウなどの葉物は、産地にかかわらず敬遠された。深刻な値崩れは今も続いている。 政府が当初、産地ごとでなく、県単位で規制したことが乱暴だった。素早い対応で消費者を安心させ、風評被害を防ぐことが目的の一つだったが、逆効果だったと言わざるを得ない。 例えば、一部の農産物から基準値を超える放射性物質が検出されている福島県。県産品のすべてが危険だと思ってしまう人が、どうしても出てくる。 市場に出回っているものは安全だとの意識も、広がっていない。 出荷停止の発動やその解除が都道府県単位ではなく、市町村など地域ごとに細分化されたことは、やや時間がかかったものの、一歩前進だった。 週1度の検査で3回連続で基準を下回れば規制を解除できるようになり、生産地にとって朗報となった。会津地方の原乳や群馬県産のホウレンソウを皮切りに出荷再開が続く。 実態に対応がようやく追いついたと言えるかもしれない。とはいえ、風評被害が解消に向かう兆しは、まだ表れない。原発事故がいつ収束するか見通せない中、何が安全なのか判断に戸惑う人は今も多いのだ。 そもそも国民が混乱した理由の一つは、政府の説明の在り方にあった。「安全基準を超えているが、健康には直ちに影響ない」というのは明らかに矛盾を含み、説得力を欠く。冷静に対応しろと言われても、納得できる人は少ないだろう。 求められるのは、これまで以上に正確で迅速な情報の提供だ。放射線量のきめ細かい測定結果を、その意味を丁寧に説明しつつ、長期的に公表し続けることなどが欠かせない。 誰もが理解しやすい方法で、信頼性の高い情報を発信できるかどうかが鍵を握る。きちんと実行できなければ、ここまで広がってしまった風評被害を抑え込むことは難しい。
2011年04月17日日曜日
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