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  真っ赤なIS 作者:アリー
第八話・チョークは時に弾丸を凌駕する
~通行 SIDE~

 翌日、朝のSHR。俺はこれから起きる展開が見えているので笑いを堪えるのに必死だった。

「では、一年一組代表は織斑一夏くんに決定です。あ、一繋がりでいい感じですね!」

 山田先生は嬉々として喋っている。そしてクラスの女子も大いに盛り上がっている。暗い顔をしているのは一夏だけだった。

「先生、質問です」
「っぷ、くく・・・」

 ヤバイ、笑いが抑えられない。

「はい、織斑くん」
「なぜ俺が代表なんですか?昨日の試合はドローでしたし、ISの操縦は通行のほうがうまいですし」
「それは――」
「俺が辞退したからだ」

 そこで俺が喋る。一夏は面食らったような顔をした。

「クラス代表とかさァメンドクセェのやりたくねェ。(俺は集団をまとめる力がねェからなァ、代表には向いてねェンだよ)」
「おい、本音と建前が逆だぞ。じゃあ、セシリアは・・・」

 一夏が話をセシリアに振る。チィ、往生際の悪いやつめ。

「わたくしも辞退させていただきましたわ。というか、私を倒した通行さんと引き分けになった一夏さんのほうがいいに決まっていますもの」
「いやあ、セシリアわかってるね!」
「そうだよねー。せっかく男子がいるんだから、同じクラスになった以上持ち上げないとねー」
「私は一方君が良かったんだけどなぁ・・・・・」

 はーはっはあ!クラスもそれっぽい空気になってきたんだし、諦めろぉ一夏ァ!

「そ、そうですわね」

 セシリアはコホンと咳払いをして、あごに手を当てる。いつもと違うポーズなのは何か意味があんのか?

「わたくしのように優秀かつエレガント、華麗にしてパーフェクトな人間がIS操縦を教えて差し上げれば、素晴らしい成長を遂げ―――」

 バン!机を叩く音が響く。音源を見ると篠ノ乃だった。立ち上がっている。

「あいにくだが、一夏の教官は足りている。『私が』、直接頼まれたのだからな」

 いや、頼まれたのは俺なんだが、面白そうなので黙っておく。

「あら、あなたはISランクCの篠ノ乃さん。ランクAのわたくしに何かご用かしら?」
「ラ、ランクは関係ない!頼まれたのは私だ。い、一夏がどうしてもと懇願するからだ」

 お?お?修羅場ってきたな?コイツは見ものだなぁ。ちなみに俺のランクはS-だ。

「え、箒ってランクCなのか・・・・?」
「だ、だからランクは関係ないと言っている!」

 一夏のやつ、横槍入れやがって。あ、千冬さんだ。

「座れ、馬鹿ども」

バシン!

 すたすたと歩いていってセシリア、篠ノ乃の頭を出席簿で叩く千冬さんが低い声で告げる。

バシン!

「その得意げな顔はなんだ。やめろ」

 ついで・・・なんかな?一夏も叩かれた。

「お前たちのランクなどゴミだ。私からしたらどれも平等にひよっこだ。まだ殻も破れていない段階で優劣を付けようとするな。
「ケケケ、言われてらァ」

バヒュン!ゴス!

「い、痛みがァ!額が陥没したような痛みがァ!」

 いま投げたのって本当にチョークだよな!?またかよ!めっちゃいてぇよ!!

「お前も笑うな」

 千冬さんは俺に一括すると話をもどした。

「ともかく、代表候補生でも一から勉強してもらうと前に言っただろう。くだらん揉め事は十代の特権だが、生憎今は私の管轄時間だ。自重しろ」

 やっぱ、教師って感じだな。なんだかんだで憧れの人なんだよな。人生の先輩として。ん?俺が転生したのは十五歳だから、俺のほうが年上か?いや待て、0歳からやり直したからやっぱ、アレ?アレレ?

シュウウウウゥゥゥ

「わあ!一方くん大丈夫ですか!?」

 山田先生に声をかけられた。あ、ヤベ。心配かけたな。

「あー、ハイ大丈夫ッスよ。知恵熱ですから」
「は、はぁ、そうですか・・・」

 そんな会話をしていると、

バシン!

「・・・・・お前、今何か無礼なことを考えていただろう」
「そんなことまったくありません」
「ほう」

バシンバシン!

「すみませんでした」
「わかればいい」

 というアホな会話が流れてきた。

「クラス代表は織斑一夏。異存はないな」

 はーいと(一夏を除く)クラス全員が一丸となって返事をした。俺はコッソリと一夏に話しかけた。

(団結っていいことだなァ、一夏ク~ン♪)
(・・・うるせい)


~何日か経って~

「それではこれよりISの基本的な飛行操縦を実践してもらう。織斑、一方、オルコット。試しに飛んでみせろ」
「リョーカイッス」

 俺は千冬さんの指示を受けてイナクトを展開する。ちなみに、俺は最近になってイナクトの待機状態を指輪から首に巻くチョーカーに変更した。何故ってそりゃあアンタ、気分だよ。

 遅咲きの桜も既に散り終えた四月も下旬。俺達は鬼教官、改め千冬さんの授業を真面目に受けていた。真面目に受けないと、額が陥没する。

「ほう、一方は早いな。ほかの二人も早くしろ。熟練したIS操縦者は展開まで一秒とかからないぞ」

 二人はせかされてようやくISを展開する。

「よし、飛べ」

 俺とセシリアは一夏より一足先に飛ぶ。一夏も後から遅れてくる。

「一夏さん、イメージは所詮イメージ、自分が一番やりやすい方法を模索する方が建設的でしてよ」
「そう言われてもなぁ。大体、空を飛ぶ感覚自体がまだあやふやなんだよ。なんで浮いてるんだよこれ」
「今セシリアが言っただろォが。イメージだよ。俺の場合、ベクトルをイメージしてる」
「べくとる?なんだそりゃ」

 一夏、コイツはヤッパ馬鹿だ。

「ベクトル・・・向きですか?」
「まァそういうこった。ただしなァ、俺のケースだと『作用・反作用の法則』に『慣性の法則』、『力学的エネルギーの法則』なンちゅうメンドクセェ法則を全部頭ン中に入れとかねェといけねェな」
「うへ、それは止めとくか」
「ふふっ、そうですわね」

 二人は会話をし出した。俺は邪魔にならないように二人から離れる。セシリアのあの笑顔、楽しそうだな。

「織斑、一方、オルコット、ついでに急降下と完全停止をやって見せろ。目標は地表から十センチだ」
「了解です。では一夏さん、通行さん、お先に」

 そう言って、セシリアは地上に向かう。ぐんぐん小さくなっていく姿を一夏は感心した様子で見ている。

「うまいもんだなぁ」

 そんな呟きが聞こえた。どうやらセシリアは完全停止もクリアしたらしいな。さすがは代表候補と言うべきか。

「ンじゃ次、俺が行くぜ」

 そう言って俺は地面にベクトルを向けるイメージをした。高速で地面に近づく体、地面が近くなったところで俺は全てのベクトルを上に向けるイメージをして完全停止をした。

「地面から八センチか、まあまあだな」
「こりゃ手厳しいなァ」

 次は一夏の番だ。アイツは地面に向けて急降下して地面に近づいて、近づいて、近づいて・・・、

ズドォォン!

 墜落しやがった。立派なクレーターだな。見ろ、クラスメイトの女子がくすくす笑いしてるぞ。

「馬鹿者。誰が地上に激突しろと言った。グラウンドに穴を開けてどうする」
「一夏ァ、クレーターってのはなァ、後々偉い人の名前が付けられるンだよ。いつかこの穴も『一夏』って名前が付くといいなァ」

 俺のその言葉を火種に、クラスの女子が思い切り笑い出した。

「・・・・うるへ」

 一夏は姿勢制御をして上昇、地面から離れる。ISバリアーのおかげで白式には傷一つどころか汚れ一つない。

「情けないぞ、一夏。昨日私が教えてやっただろう」

 と、篠ノ乃が腕を組んで喋る。俺は昨日、練習の様子を見ていたがアレはなぁ。

「アレの何処が教えたなンだァ?オメェの教え方といったら『ぐっ、とする感じだ』とか『どんっ、という感覚だ』とか『ずがーん、という具合だ』とかばっかじゃねェか。わかンねェよ」
「う、うるさい!」

 篠ノ乃は焦ったように言うと、再び一夏の方をむいた。

「大体だな一夏、お前というやつは昔から「大丈夫ですか、一夏さん?お怪我はなくて?」・・・」

 セシリアが一夏の前に現れる。

「あ、ああ。大丈夫だけど・・・・」
「そう、それは何よりですわ」

 うふふと、楽しそうに笑うセシリア。それと対照的につまらなそうな顔をする篠ノ乃。ハッハッハ、モテモテだねぇ一夏くん。

「・・・ISを装備していて怪我などするわけなかろう・・・・」
「あら、篠ノ乃さん。他人を気遣うのは当然のこと。それがISを装備していても、ですわ。常識でしてよ?」
「お前が言うか。この猫かぶりめ」
「鬼の皮をかぶっているよりマシですわ」

バチバチッ

 二人の視線がぶつかって火花を散らした。ハッハッハー!修羅場ってきたねぇ。

 この後、武器を出す実習をやったりして授業は終わった。


~夜~

「というわけでっ!織斑くんクラス代表決定おめでとう!」
『おめでと~!』

ぱん、ぱんぱーん

 クラッカーが乱射される。そして一夏の頭に凄まじい量の紙テープが落ちた。しかし、一夏の顔は暗い。ックク、笑いが・・・、

「笑うなぁ通行・・・」

 悪いが一夏、ソイツは無理な相談だ。

「いやー、これでクラス対抗戦も盛り上がるね~~」
「ほんとほんと」
「ラッキーだったよね~~。同じクラスになれて」
「ほんとほんと」

オイ、さっきから相づち打ってるのって二組の女子じゃねぇか?よく見ると三十人以上の生徒がいるぞ。ア゛ァ!?クラスの集まりなのに何でクラスメイトの倍の数がいるんだよ!?

「はいはーい、新聞部でーす。話題の新入生、織斑一夏君と一方通行君に特別インタビューをしにきました~!」

 オーっと盛り上がる一同。何で俺まで・・・。

「あ、私は二年の黛薫子まゆずみかおるこ。よろしくね。新聞部副部長をやってまーす。はいこれ名刺」

 画数の多い漢字だな。書くやつは大変だろうな。

「ではではずばり織斑君!クラス代表になった感想を、どうぞ!」

 ボイスレコーダーをずずいっと一夏に向けて、子供ガキのような無邪気な瞳を輝かせている。

「えーと・・・・」

 言葉に詰まっている一夏。ここでビシッときめやがれ。

「まあ、なんというか、がんばります」
「えー。もっといいコメントちょうだいよ~。俺に触れるとヤケドするぜ、とか!」
「いつの時代の不良なンだよ・・・」

 思わず突っ込んでしまった。

「自分、不器用ですから」
「うわ、前時代的!まあ、適当に捏造しておくからいいとして・・・」

 オイ、新聞部が捏造とかおおっぴらに言うなよ。

「ではでは、次は紅白の悪魔こと一方君!もう一人の男性IS装着者としてコメントちょうだい!」
「オイ、その二つ名だれが考えた」

 たしかに俺は白くて、ISは紅いけどさ。しかし、俺に振られたか。じゃあ、こんなんはどうだ?

「俺はいつでも一方通行だァ。敵対するやつァ容赦なくしばいてやンよ」
「おお、ワイルドなセリフ!」

 俺の宣伝もしておいた。これで、面白いことになるといいな。

「そんじゃあ、そこに二人並んで。写真取るから」
「ヘ~イヘイ」
「ツーショットもらうよ。あ。握手してるとかもいいね」

 俺達は指示どうりに握手をした。

「それじゃあ撮るよー。35×51÷24は~?」
「え?えっと・・・・2?」
「74.375だ」
「一方君正解!」

 俺の演算能力を舐めるなよ。

パサャッ

 デジカメのシャッターが切られる。・・・・・。

「なんで全員入ってるんだ?」

 まったく見えなかったぞ!?コイツ等、瞬間移動能力者テレポーターか!?

 そんなこんなで、『織斑一夏クラス代表就任パーティー』は十時過ぎまで続いた。おそるべし、女子パワー。俺は部屋に戻った後、ベッドにダイブして泥のように睡眠を貪った。


~END~


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