2010年末以降、AMDはRadeon HD 6000シリーズ、NVIDIAはGeForce 500シリーズへと世代交代を進めてきた。両社ともハイエンド〜ミドルクラスの新製品は、すでにリリース済みだが、今月に入ってローエンドの新製品が発表された。ここでは、それらの製品をチェックしてみたい。
●新世代でさらにローエンドのモデルを用意ローエンド製品の世代交代はまず、先週の4月12日にNVIDIAが発表した「GeForce GT 520」がある。主な仕様は表1の通り。
GeForce GT 520 | GeForce GT 430 | GeForce GTX 550 Ti | |
GPUクロック | 810MHz | 700MHz | 900MHz |
CUDAコア/SPクロック | 1,620MHz | 1,400MHz | 1,800MHz |
CUDAコア/SP数(SM数) | 48基(1基) | 96基(2基) | 192基(4基) |
テクスチャユニット数 | 8基 | 16基 | 32基 |
メモリ容量 | 1GB DDR3 | 1GB DDR3 | 1GB GDDR5 |
メモリクロック(データレート) | 1,800MHz相当 | 1,600〜1,800MHz相当 | 4,104MHz相当 |
メモリインターフェイス | 64bit | 128bit | 192bit |
メモリ帯域幅 | 14.4GB/sec | 25.6〜28.8GB/sec | 98.5GB/sec |
ROPユニット数 | 4基 | 4基 | 24基 |
ボード消費電力(ピーク) | 29W | 49W | 116W |
GeForce 400世代で非OEM向けにもリリースされた製品としてはGeForce GT 430が最廉価モデルということになるが、これと比較すると、CUDAコア、メモリ帯域幅といった主な仕様は劣る。末尾が20番台のモデルということで、GeForce GT 430よりも下のクラスの製品であることが分かる。
ただし、GeForce 500シリーズらしくコアクロックはGeForce GT 430を上回る。仕様上、GeForce 500は実稼働するトランジスタ数がより少ないため高クロック動作させることができる可能性と、物理設計を改良したことで高クロック化できた可能性の2つが考えられる。消費電力もより低く収まっているが、これは1クラス下であることを考えれば当然のラインともいえるだろう。
今回テストに使用するのは、アスクより借用したZOTACの「ZT-50601-10L」である(写真1〜2)。ロープロファイル対応の製品となっており、クーラーはファンを備えている。動作クロックなどはリファレンス仕様通りとなっている(画面1)。
【写真1】GeForce GT 520を搭載するZOTACの「ZT-50601-10L」 | 【写真2】ブラケット部はDVI-I、HDMI、D-Sub15ピンの構成 | 【画面1】動作クロックなどは仕様通り |
●2つのコアが用意されるRadeon HD 6000シリーズのローエンド
一方、4月19日に発表となったのがAMDのRadeon HD 6000シリーズのローエンドモデルである。Radeon HD 5000シリーズ同様に、このセグメントには2つのコアが用意される。
1つは「Turks」のコードネームを持つコアで、480SP/128bitメモリインターフェイスのものとなる。これを用いたGPUが「Radeon HD 6670」と「Radeon HD 6570」となる。Radeon HD 6570ではメモリの仕様にバリエーションが設けられており、GDDR5だけでなくDDR3もサポートする。
もう1つのコアが「Caicos」のコードネームを持つ、160SP/64bitメモリインターフェイスのコアである。こちらを用いた製品が「Radeon HD 6450」で、やはりGDDR5/DDR3の両対応となっている。
Radeon HD 6900ではVLIW4という新アーキテクチャが採用されたが、TurksとCaicosはともにRadeon HD 6800シリーズの「Barts」コアと同じVLIW5アーキテクチャを採用している。
余談ながら、Radeon HD 6000シリーズは、「Northern Islands」のコードネームを持つシリーズとなっており、今回の両コアのコードネームはタークス・カイコス諸島に由来するようだ。
主な仕様は表2にまとめた通りで、両製品とも各製品の旧世代モデルに比べてSP数が増している。一方で、動作クロックやメモリ周りの仕様、また消費電力はあまり変わっていない。つまり消費電力は従来を維持し、SPのみを増やして高性能化を図ってきた、というのがローエンドRadeon HD 6000シリーズの性格になっている。
もちろん、UVD3、HDMI 1.4/DisplayPort 1.2といった新機能のサポートも、新世代の製品のポイントである。
Radeon HD 6670 | Radeon HD 6570 | Radeon HD 6450 | |
コアクロック | 800MHz | 650MHz | 625〜750MHz |
SP数 | 480基 | 480基 | 160基 |
テクスチャユニット数 | 24基 | 24基 | 8基 |
メモリ容量 | 1GB GDDR5 | 1GB/512MB GDDR5/DDR3 | 1GB/512MB GDDR5/DDR3 |
メモリクロック(データレート) | 4,000MHz相当 | 4,000MHz相当(GDDR5)
2,000Hz相当(DDR3) |
3,200〜3,600MHz相当(GDDR5)
1,066〜1,600MHz相当(DDR3) |
メモリインタフェース | 128bit | 128bit | 64bit |
メモリ帯域幅 | 64GB/sec | 57.6〜64GB/sec(GDDR5)
28.8GB/sec(DDR3) |
25.6〜28.8GB/sec(GDDR5)
8.5〜12.8GB/sec(DDR3) |
ROPユニット数 | 8基 | 8基 | 4基 |
ボード消費電力(アイドル) | 12W | 10W | 9W |
ボード消費電力(ピーク) | 66W | 44W | 18W(DDR3)/27W(GDDR5) |
Radeon HD 5670 | Radeon HD 5570 | Radeon HD 5450 | |
コアクロック | 775MHz | 650MHz | 650MHz |
SP数 | 400基 | 400基 | 80基 |
テクスチャユニット数 | 20基 | 20基 | 8基 |
メモリ容量 | 1GB/512MB GDDR5 | 1GB GDDR3 | 1GB/512MB GDDR3/DDR2 |
メモリクロック(データレート) | 4,000MHz相当 | 1,800MHz相当 | 〜1,800MHz相当 |
メモリインタフェース | 128bit | 128bit | 64bit |
メモリ帯域幅 | 64GB/sec | 28.8GB/sec | 〜12.8GB/sec |
ROPユニット数 | 8基 | 8基 | 4基 |
ボード消費電力(アイドル) | 15W | 9.69W | 6.4W |
ボード消費電力(ピーク) | 64W | 42.7W | 19.1W |
今回テストに用いるのは、AMDから借用したRadeon HD 6670のリファレンスボード(写真3〜4)と、Radeon HD 6450のリファレンスボード(写真5〜6)である。いずれも基板はロープロファイルに準拠する。クーラーは両製品ともにファンを備えており、Radeon HD 6670は2スロットを占有するクーラーとなっている。
ディスプレイ出力は両ボードとも、DVI-D、DisplayPort、ミニD-Sub15ピンの仕様となっている。TMDSのクロックソースは2系統で従来のモデルと同じ。Eyefinityによる同時ディスプレイ出力は、Radeon HD 6670が最大4画面、Radeon HD 6570/6450が最大3画面となっている。
リファレンスボードの動作クロックは画面2〜3の通り。Radeon HD 6450はベンダーによる幅を持たせた仕様となっているが、リファレンスボードはGDDR5を用いた最大仕様の製品となっている。
●新世代ローエンドGPUの性能テスト
【写真7】Radeon HD 5450を搭載する、玄人志向の「RH5450-LE1GH/D3/HS」 |
今回の製品はローエンド製品ということもあり、それほど性能の重要度が高いわけではないが、簡単ながらベンチマーク結果を紹介しておきたい。テスト環境は表3に示した通り。過去の製品との性能比を見るため、Radeon HD 5450搭載製品を比較対象として加えている(写真7)。
なおテスト条件は1280×800ドットおよび1,680×1,050ドットの2解像度とし、アンチエイリアスや異方性フィルタなどは原則として適用しない。また、一部のテストタイトルは普段の本コラムで行なっているクオリティ設定よりも落としてテストしている。
ビデオカード | Radeon HD 6670 (1GB GDDR5)
Radeon HD 6450 (512MB GDDR5) Radeon HD 5450 (1GB GDDR3) |
GeForce GT 520 (1GB DDR3) |
グラフィックドライバ | 8.84.2-110322a-115844E | GeForce Driver 268.03 |
CPU | Core i7-860(Turbo Boost無効) | |
マザーボード | ASUSTeK P7P55D-E EVO(Intel P55 Express) | |
メモリ | DDR3-1333 2GB×2(9-9-9-24) | |
ストレージ | Seagete Barracuda 7200.12 (ST3500418AS) | |
電源 | CoolerMaster RealPower Pro 1000W | |
OS | Windows 7 Ultimate Sevice Pack 1 x64 |
テストは以下の通り。テストタイトルはDirectX 11タイトルが「3DMark 11」(グラフ1)、「Alien vs. Predator DirectX 11 Benchmark」(グラフ2)、「Colin McRae: DiRT 2」(グラフ3)、「Lost Planet 2 Benchmark」(グラフ4)、「Stone Giant DirectX 11 Benchmark」(グラフ5)、「Tom Clancy's H.A.W.X 2 Benchmark」(グラフ6)、「Unigine Heaven Benchmark」(グラフ7)。
DirectX 9/10タイトルが「3DMark Vantage」(グラフ8、9)、「Crysis Warhead」(グラフ10)、「Far Cry 2」(グラフ11)、「Left 4 Dead 2」(グラフ12)、「Unreal Tournament 3」(グラフ13)である。加えて、消費電力測定の結果となる(グラフ14)。
ざっくりと傾向を拾っていくと、まずRadeon HD 6670は型番通り1クラス違う性能を見せている。Radeon HD 6450に対して2〜3倍程度の性能を安定して発揮しており、クロックはやや上、3倍のSP数、2倍強のメモリ帯域幅といった仕様差からして妥当なところだろう。
Radeon HD 6450はRadeon HD 5450の後継という位置付けになるが、こちらも2〜3倍程度の性能差を見せている。このSPの増加による性能アップに加え、GDDR5仕様の製品であることから大きな差となっている。唯一、3DMark VantageのFeature Testにおいて差が出なかった理由は分かっていない。ほかのタイトルの結果から見てもボトルネックになりそうな要素が考えれず、単純にドライバのチューニング不足という可能性が高いと思われる。
GeForce GT 520は、Radeon HD 6450に近い性能となった。全般的にはRadeon HD 6450の方が性能上位にある印象で、GeForce GT 520が良好に受け取れるのはStoneGiant、FarCry 2程度となっている。
これに加えて、消費電力でもRadeon HD 6450の方が低く抑えられているのが大きなポイントになるだろう。公称値でもGeForce GT 520よりも低い値となっているRadeon HD 6450であるが、実測でも多少ながら省電力な傾向が出ている。一方で、Radeon HD 5450からの電力増も大きいが、GDDR5版のRadeon HD 6450は公称値でも消費電力は大きめなわけで、これも妥当なところである。
●このクラスに何を求めるかで選ぶ製品が変わる
以上、簡単ではあるが両社のバリュー製品の性能をチェックした。Radeon HD 6670は軽負荷なタイトル/条件であればゲームに適応可能な性能を持っている印象を受ける。
しかしながら、Radeon HD 5770の存在が気になる。今回はテストできなかったが、過去のデータから検討するとRadeon HD 6670はRadeon HD 5770よりやや低い性能レベルとなると思われる。Radeon HD 6790とローエンドの間を埋める最新世代のGPUという位置付けはできるものの、価格のこなれ具合と性能でいえばRadeon HD 5770の魅力は残るだろう。
その意味では、過去のRadeon HD 6000シリーズの製品同様、UVD3やHDMI 1.4/DisplayPort 1.2といった新機能に、どこまで価値を見いだすかが製品選択のポイントになるかと思う。
Radeon HD 6450とGeForce GT 520であるが、性能/消費電力でいえばGDDR5版のRadeon HD 6450に分がある。GeForce GT 520は3D Visionなどの付加価値で選ぶ製品になるだろう。
難しいのはRadeon HD 6450のメモリ種別である。Radeon HD 6450のGDDR5版はRadeon HD 5450のDDR3版に比べて性能の伸びは大きいものの消費電力は増す。消費電力を抑えたいというニーズがあるならばDDR3版を選択すべきということになる。その場合、メモリ帯域幅が狭くなる分、性能は落ちる。
もっとも、Radeon HD 6450の結果を見るとGDDR5版であってもゲーム用途に適するとは言い難いのも事実で、新世代の機能を享受したいなどの理由でこの世代の製品を選ぶのならば、より低い消費電力となるDDR3版でも十分かも知れない。