大学講師としての顔も持つ、芸人サンキュータツオ。大人気ポッドキャスト放送「東京ポッド許可局」のメイン局員の一人でもあり、オタクカルチャーを語らせれば恐ろしい鋭さで理路整然と周りを納得させる天下一の理詰め芸人が今、「男子」には語られることの少なかった「BL」を熱すぎるほど語る…!
(インタビュー:久田悠 写真;藤森洋介)
ー今日は宜しくお願いします。今回は、芸能界一BLについて詳しいと思われる男性、サンキュータツオさんに、BLの魅力を「男子」に解りやすく教えて頂こうと思いましてインタビューを申し込みさせて頂きました。
サンキュータツオ よろしくです。
ーBL(ボーイズ・ラブ※1)雑誌は僕らが働いているコアマガジンからも出版されてまして、昔から読んでいたんです。最初は笑いながら読んでいたのですが、段々と…普通にときめいて読むようになったんですよ(笑)でも、その魅力や面白さを上手く同性には伝えられなかったんですよ…。
※1 ここでは「BL(ボーイズラブ)」男同士の恋愛を描いた漫画、小説作品を指す。
サンキュータツオ 僕も最初は、「なんなんだろう…」ってずっと思ってたんです、オタクの教養としては、その世界があるって知ってたんですよ。でも、頭では判っていても身体では判っていなかったです。語弊があるかもしれないですけど(笑)、でもある作品に出会って「こういうことだったんだ!」って、悟りを開いたように全てを理解したんです。見えてる世界が一日で全部変わったような…もう、言うならオセロが一度で全部ひっくり返えるぐらいの…経験でしたね。
ー開きましたね(笑)
サンキュータツオ いやホントに、チャクラ開きましたね。それから、この感覚を言語化したいな…と思って。理屈でBLを説明する試みをする腐女子の人がいなかったのもあったんです、基本的には自分のコミュニティの中で完結してればいいという人も多いので、人に対して素晴らしさを訴えようとするのも、あまりないんです。そういう必要もない場所ないし、こそこそ話すのが好きっていう人が多いので(笑)
ーなるほど…。それから布教を?
サンキュータツオ 僕、基本的には「萌え」が大好きなオタクなんです。男のオタクは「あのアニメのあの子が好き」とか「あの漫画のあの子が好き」とか、声高に色んな人に言って回って、自分の好きな作品を読ませたい! っていう面倒な性格を持ち合わせているものなんで(笑)
ー凄くわかります(笑)
サンキュータツオ 最初は戸惑ったんですよ。「一体どうしちゃったんだろう」って。なんで、あれだけ柔らかくてプニプニした女の子が好きだったのに、BLにキュンとしてるんだろう…って。そこで色々整理した結果、「萌え」を突き詰めた結果、「BL」にたどり着いたんだなって判ったんです。右翼すぎて左翼に行っちゃったみたいな感じで転向したんですよ。
ーあはははは(笑)
サンキュータツオ それは僕、オタクとしての成長…進化だと思ってますから。
ー熱狂的な人気を誇る「東京ポッド許可局」で放送された「BL論」で、「世の中で成功しているものにはBL要素が含まれている」という話がありましたよね? 僕たちも無意識に「BL」というものを、受け入れているのでしょうか。
サンキュータツオ 「BL」って多分、お砂糖のような「調味料」なんです。だから「BL」とラベリングされていないものの中でもいっぱい「BL」成分が入ってたりするものは多いんです。お砂糖を売りにしているもの=スイーツが「BL」なだけで。
ー肉じゃがは砂糖たっぷり入ってますけど、スイーツじゃないですもんね。
サンキュータツオ そう。それと同じなんだなって理解して、さらにその中で更に、「BL」の中でもセクシャルな肉体関係を描いたものと、人間関係を強調したものがあるんですね。一切性描写がないものから、性描写しかないものまでもの凄いグラデーションになってて、これを一概に語るのは非常に難しいんだな、と解ってきたんですよ。BLチャクラが開いてからは、ありとあらゆるBL作品を読んで、データをとにかく、たくさん取って、今ここまで到達した感じです。
ー「BL」をよく知らない男の人はゲイ漫画と混同してる人も多いと思うんですが。
サンキュータツオ 全然違います。でも、普通はそう見えますよね。僕がBLばかり読んでると、完全にゲイに間違われるんですよ。まず、そういう大きな誤解があるんです。そういう誤解を受けるっていうことを知らずに、BL好き!BL好き!言ってましたから(笑)
ーBL漫画とゲイ漫画の話で言えば、僕も大好きなんですが、よしながふみ先生の「きのう何食べた?」※2あれはBL漫画ではなくセックス描写のないゲイ漫画だと思うんですが、いかがでしょうか。
※2 「きのう何食べた?」よしながふみ著。週刊モーニング連載中。ゲイカップルの日常を自炊を通して描いた人気作。料理レシピ本としてもかなり実用的。
サンキュータツオ マーケティング上では、「きのう何食べた?」はBLっていうジャンルには入ってしまうんです。でも一つの発見があって…僕は「BLとホモやゲイは何が違うんだろうか?」「それを愛好する人は同性愛者じゃないのか」「三次元の男同士が絡み合っても萌えないのだろう、なんで二次元なんだろう」ということをずっと考えていたんですよ。そこで原点に立ち戻って、実写じゃなく何故、漫画やアニメに惹かれるのか考えてみたときに、理由が2つあって、キャラクターが記号化されていてること、もう一つは、ファンタジーだということなんです。プリキュアで女の子が魔法を使うことや、ガンダムでモビルスーツが出てくるように、現実では有り得ないファンタジーですが、皆、すんなり受け入れているじゃないですか。「BL」もロボットや魔法のようなファンタジーとして受け入れていたんですよ。だから、実際に男同士でヤッているのとはワケが違います。現実にモビルスーツがあったら、ビビリますよ(笑)現実にないから、良いんです。有り得ないものを見ている、という要素の方が僕の中では大きくて。
ーあぁ。なるほど…。
サンキュータツオ 「BL」の世界でも、男同士で愛し合っても、あいつはホモとかゲイって厳しく言われない架空の世界観は多いです。でも、よしながふみ先生の作品は…あるんです。
ーそれは意図して出してるんでしょうか。
サンキュータツオ 意図して出してますね。出してない人は、意図して出してないです。僕の中では、ホモとかゲイという言葉を意図して出していない作品はファンタジーで、出してるものは実写寄りです。日常世界で男同士が愛し合ってたら、「あいつはゲイだから~」とか言うと思うんですよ、でも漫画やアニメの中ではないんです。
ーファンタジーの中での世界だから…。
サンキュータツオ そう、そこで僕はあくまで、「ファンタジーとして描かれているBLがとっても好き」ということを解ったんです。
ーそれは、タツオさん自身が同性愛者でもないし、その道を通ってないから楽しめるんでしょうか。
サンキュータツオ 僕が同性愛者だったら、楽しんで受け入れられないこといっぱいありますよ(笑)。BLって男女の恋愛、少女漫画に出てくるような話を、同じプロットで男同士でやってるだけなんですよ。では、何が良いのか。そこに、男女のカップルには無い、男同士だからこそ生まれる迷いや葛藤が生まれて、男が苦しむ姿が見れるんですね、そこで「なんて可愛いんだろう…」となるわけです。
ー確かに(笑)。
サンキュータツオ 僕、男子校育ちなんですが……これもゲイと間違われる大きなミスリードになっちゃうんですけど(笑) 恋愛に関して、弱いところを相手に見せないっていう感覚なんなんですよね。普段見れない、そういう男の内面をBLの世界では僕ら覗き見できるわけですよ。それはファンタジーだし、BLの二次元性だと思うんです。
ー凄く納得しました。頭の中で完全にファンタジーの世界と割り切っているから楽しめるんですね。
サンキュータツオ プリキュアです。魔法です。「有り得ないこと」が起きてるんですから。でも、ここで一般の人を難解にさせているのは、腐女子の方って凄く貪欲な生き物なので、二次元でBLの良さを知ると、二次元の良さを三次元にも求めてしまうんです。仲の良いサラリーマンやアイドルグループを見たら「あの二人、できてたらいいのに…」という願望が生まれてしまうんですね。
ー関係妄想ですね。
サンキュータツオ これは難しい話になっちゃうんですけど、アニメや漫画って僕にとってはイデアなんです。理想郷なんですよ。これが理想。三次元はどうやっても敵わない。
ーはぁ。
サンキュータツオ だって僕の好きなキャラは、排泄しないですからね。三次元はしますから。キャラぶれしてるんですよ。デザインが甘い(笑)だから、二次元と三次元って決定的に違うんです。
ーあははははは(笑)
サンキュータツオ でも、腐女子の人は「絵崩れしてるのが三次元」ぐらいに受け入れられるんです。
ー許容範囲が広いんですね。
サンキュータツオ それの更に先の先に、「擬人化」があって、コップと灰皿(机の上を指差して)で「できてたらいいのに…」と脳内で近づけるんです。
ーおぉ。
サンキュータツオ オードリーは腐女子に異常な人気があるんです。仲の良いコンビは見ててやっぱりほっこりしちゃうんですね。僕らだって、テレビで見ている好きな芸人が「あの二人実は裏で仲悪いらしいよ」って聞かされると、ちょっと凹むじゃないですか。「プライベートでも仲良いらしいよ」って聞くと、やっぱいいな、って思うじゃないですか。
ーそれは、わかります。
サンキュータツオ 問題はその「程度」なんですよ。オードリーなんかは、ネタに「本当に嫌いだったらお前と漫才やってねぇよ、ハハッ」っていう下りあるじゃないですか。あれでハートを射抜かれてる女の子たちがいかに多いか。「あぁ…やっぱりできてたんだ」って(笑)
ーなるほど…凄まじいですね。
(次回、BL初心者の男子にお薦めの作品紹介をしつつBL話は更にヒートアップ!)
プロフィール
サンキュータツオ
漫才師。一橋大学非常勤講師。
居島一平とコンビ「米粒写経」として活動。オフィス北野所属。
マキタスポーツ、プチ鹿島と供にポッドキャスト「東京ポッド許可局」を配信。
とんでもない数の熱狂的リスナーを集める。理屈と情熱で完全武装され たアニメ、BL、漫画、落語についての知識は他の芸人の追随を許さない学者芸人。猫がとっても好き。
ブログ サンキュータツオの優雅な生活
ポッドキャスト 東京ポッド許可局