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2011年4月19日(火)付

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原発工程表―これ以上悪くせず前へ

「長い闘い」の長さが、数字で見えてきた。福島第一原発の事故収束をめぐって、東京電力が発表した工程表である。3カ月くらいかけて、事故炉や燃料プールを安定して冷却できるよう[記事全文]

避難指示―住民本位で、柔軟に

春の陽光が降り注ぐ山あいに、手入れの行き届いた田畑が広がり、牛たちがのんびりと草をはんでいる。美しい田園風景だ。それなのに米や野菜の作付けどころか、そこに暮らすことさえ[記事全文]

原発工程表―これ以上悪くせず前へ

 「長い闘い」の長さが、数字で見えてきた。福島第一原発の事故収束をめぐって、東京電力が発表した工程表である。

 3カ月くらいかけて、事故炉や燃料プールを安定して冷却できるようにする。その後3〜6カ月ほどで、炉を冷温停止状態に落ち着かせる。

 原発周辺の人々の生活再建はさらに長い闘いになるが、その前提である放射能源の制圧だけでも6〜9カ月かかることを、東電は初めて認めた。

 福島第一の1〜4号機は今、炉やプールに水を注ぎ続けることで小康が保たれている。これが破綻(はたん)したら、放射性物質のさらなる大量放出の恐れが高まり、周辺地域の避難のあり方を再び見直すことにもなろう。

 そうなれば、住民が背負う重荷は今の比ではない。

 こうしたなかでの収束作戦である。なによりも強く求められているのは、これ以上悪い状態にしない、ということだ。

 まず備えるべきは、不測の出来事だ。とりわけ怖いのは、先日の大きな余震のときのように外部電源が途絶え、注水が止まることである。

 工程表も余震や落雷などのリスクに触れ、外部電源系の補強を考えているようだ。この対策は急務といえよう。

 事故収束に向けた作業は、近づいて中をのぞくことのできない炉やプールを相手にする。工程を一歩進めるごとに見直しを迫られるのは必至だ。

 期限にばかり気をとられて急ぐあまり、大きな問題点を見逃すことがあってはならない。

 工程表を見て気にかかるのは長丁場に必要な人力だ。

 2号機格納容器の密閉や、4号機の燃料プール周辺の補強など難しい作業が列挙されているが、それらにどれだけの作業員がかかわるのだろうか。

 現場は、放射線を浴びる危険が大きい。1号機建屋の入り口では、作業員が1時間いるだけで被曝(ひばく)線量限度を超える放射線が測定された。工程表にも「放射線レベルの高い場所で、作業が長期化する恐れ」が明記されている。同じ人にずっと働いてもらうわけにはいかない。

 さらに、放射能源を封じなくてはならないのは1〜4号機のすべてで、これらの作業を同時に進めなくてはならない。

 東電や原子炉メーカー、関連会社の人たちだけでは、とても追いつかないかもしれない。

 応援を含め、要員をどうやって確保するか。一線で働く人たちの健康をどう守っていくか。

 政府も、この工程表を受け入れる以上は責任が重い。

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避難指示―住民本位で、柔軟に

 春の陽光が降り注ぐ山あいに、手入れの行き届いた田畑が広がり、牛たちがのんびりと草をはんでいる。

 美しい田園風景だ。それなのに米や野菜の作付けどころか、そこに暮らすことさえ一時的にせよ、かなわなくなる。住民の無念と憤りは計り知れない。

 政府は近く、福島第一原発から20キロ圏外の一部地域を「計画的避難区域」に指定する見通しだ。原発事故の影響で放射線量が累積し、健康に影響するのを避けるためとして、「おおむね1カ月をめどに」、住民が村の外に出ることを求める。

 対象になる5市町村の一つ、飯舘(いいたて)村は、「飯舘牛」ブランドを築き、農村流スローライフの旗振り役としても知られる。

 転勤が当たり前の会社員と違い、生きる糧そのものである土地への愛着はとても強い。

 放射能による多少の危険を覚悟しても、村に残りたいと考える人がいる。また、体育館のような避難所での寝泊まりで健康を損なうことをおそれ、二の足を踏む高齢者もいるだろう。

 一方で、小さな子どもを持つ若い親たちは、不安を募らせており、なるべく早期の避難を希望する声が強い。すでに自主的に避難した人もいる。

 人口6千人余りの小さな村でも、年齢や職業などによって、避難についての考え方や希望は様々なのだ。

 計画的避難というからには、そうした住民の意向を極力尊重して、柔軟できめ細かい対応を心がけてほしい。

 住民の納得に基づいた避難とするには、まず放射線のリスクに関する情報を提供することが必要だ。そのために、きちんとした解説ができる専門家を継続的に送り込んだらどうか。

 「おおむね1カ月」という期限通りには、物事が運ばないこともあろう。機械的、硬直的な実施は避けるべきだ。

 おりしも東京電力が事故収束までに6〜9カ月かかるという見通しを示した。

 これだけ長くかかるなら、着の身着のままで避難した20キロ圏内の住民についても、必要な家財道具を取りに戻る一時帰宅を早く実現させるべきだ。

 健康リスクへの考え方は違っても、住民たちに共通するのは「住み慣れた土地に戻りたい」という思いだ。菅野典雄(かんの・のりお)飯舘村長は「土壌汚染を除去して、放射線量を低減させる道筋を、わが国の英知を結集してまとめてほしい」と願う。そんな施策を早めに提示し、希望をつなぐ。それが避難する人々にとって、最重要の「生活改善」だ。

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