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[事件]ニュース トピック:from Editor
【from Editor】3・11大地震 「誰も正しいことを知らない」
「南相馬で取材をさせてください」と社会部の中堅記者から詰め寄られた。
福島県南相馬市は避難指示区域、屋内退避区域と、どちらの対象にもなっていない区域の3つに分かれていた。福島第1原発から20~30キロ圏内の屋内退避区域にある市役所で、桜井勝延市長が陣頭指揮に当たるなか、多くの住民が避難所や自宅などで暮らしている。
しかし、支援物資は放射性物質による健康被害の不安から、隣の相馬市などにしか届かず、市の職員が避難所などに運搬している状況だった。3月末の段階で全国紙は30キロ圏内の取材を控えていた。
「記者の安全のため、もし現地入りを認めないとすれば、屋内退避している住民の健康も守られていないと考えていることになり、政府の指示を信用していないことにつながります。であれば住民に危険なので避難するよう報道すべきではないでしょうか」
記者の思いは強かった。編集局で議論した結果、南相馬市への取材許可がおり、今月4日、2人の記者が入った。
取材の注意点を確認した。県庁の対策本部に詰めている福島支局長と連絡を取り合いながら、各自が放射線量計を所持し、互いにチェックする▽屋外取材はせず、マスクをして肌を露出しない服装をする▽積算の放射線量が1千マイクロシーベルト(1ミリシーベルト)を超えた場合、取材をやめる-などをルールとした。
現地では、3月15日の屋内退避指示直後は、物資が一切入らなくなった産婦人科医院でずっと医療活動を続ける院長や、風評被害を受ける避難所の住民らに取材をし、孤立した生活を送る被災者の切実な声を拾い上げた。福島県内で5日間取材した記者の積算の放射線量は23マイクロシーベルトで、記者やドライバーには健康被害はなかった。
その後、政府の新たな指示で、1カ月をメドに避難を求められる「計画的避難区域」が指定され、南相馬市の屋内退避区域の一部も入った。どこが安全でどこが安全でないのか。住民の戸惑いは増している。新聞社にとっても、どこまで現地取材をさせたらよいかの判断は難しくなっている。
先日、関西プレスクラブ(大阪市)で講演した熊本県の蒲島郁夫知事は「水俣病では当時の国や県が正しい判断ができず、数多くの被害患者を出した。原発事故では政府も東京電力も専門家も残念ながら誰も正しいことを知らない」と指摘した。誰の言葉も信用できないとすれば、これほど不幸なことはない。(大阪社会部長 内野広信)
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