「見慣れた福島第一原発の様相は、半月ぶりに訪れると一変していました・・・。敷地内の重油タンクは津波のために大きく凹み、4号機近くにあった重量200tのクレーン車も踏み潰されたようにぐしゃぐしゃに壊れていたんです。戦場のような光景です。周囲には消防車が不規則に停まり、散在したホースが行く手を遮っています。1号機へ向かうにも、大きく迂回せざるを得ませんでした」
ようやく作業に取り掛かったA氏だが、妙なことに気づく。パラパラと、白い小さな物体が降り注いでいるのだ。
「最初は雪かなと思いましたが、よく見ると灰なんです。2号機からは絶えず白煙が上がっていたので、中で何かが燃え続けていたのでしょう。雪と勘違いしたのは、放射線量の強烈に高い2号機からの粉塵だったのかもしれません。まさに 〝死の灰〟です。もしマスクをしないで作業をしていたら・・・。考えただけで、背筋が寒くなります」
高濃度の放射線の中では、長時間の作業はできない。A氏たちは20~30分ほどで仕事を切り上げ、「免震棟(めんしんとう)」と呼ばれる、耐震機能が強化され放射線を遮る特別な素材で覆われた敷地内の建物へ、昼前に引き上げた。建物の中に入り防護服を脱ぐと、一人ひとりの作業中の被曝量を計測するのだが、A氏はそこで自分が大量の放射線を浴びていたことを知る。
「私の防護服は、首回りの部分が完全には閉まらない状態でした。他の作業員はテープを巻いていましたが、私はそうした補強もしなかったんです。それがいけなかったのでしょう。免震棟に戻り放射線量をチェックした保護官が、計測器に表示された数値を見て慌てて叫ぶんです。『アルコールで湿らせたタオルで、すぐに首を拭いてください!』
私は『被曝してしまったのか』とパニック状態になり、言われるがままに、その特別なタオルでごしごしと首を拭きました。直後に保護官が計測し直すと、どうやら問題なかったようで『数値は下がりました』とホッとしていましたが、私は安心できるはずがありません。身体が汚染されてしまったのではないかと、今でも不安でならないのです」
A氏の知り合いの作業員の中には、3号機のタービン建屋近くのマンホールを開けるために、4ミリシーベルトの放射線を浴びた人がいる。わずか4分ほどの作業だったという。A氏が昨年1年間で浴びた放射線量は、約0・03ミリシーベルト。この作業員の4ミリシーベルトという被曝量は、昨年150日ほど働いたA氏の1日あたりの被曝量、いわば通常の被曝量の1万倍以上になるのだ。
日当40万円はありえない
それほど危険な状況での作業にもかかわらず、東電の対応は、かなりズサンなものだった。
「普段は、『APD』と呼ばれる警報付き放射線測量計の携帯が全員に義務づけられているのですが、今回は違いました。何と、10人に1人しかAPDを渡されないんです。担当者は『数が足りない』の一点張り。1m離れていれば、放射線量がまったく違うような現場です。自分たちがどれほどの放射線を浴びているのか分からず、私たちは不安にかられながら作業を続けていました。しかもAPDは設定された放射線量を超えると警報が鳴る仕組みになっているのですが、その設定値が通常なら0・03ミリシーベルトなのに、今回は2.5ミリシーベルトだったんです。明らかにおかしい。
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