きょうの社説 2011年4月19日

◎大学の被災地調査 成果を北陸にも還元して
 東日本大震災の被災地へ北陸の大学からも研究者が足を運び、津波被害や災害医療、生 活再建など幅広い分野の活動に参加している。これらの取り組みは何よりも被災地に生かすことが大事だが、そこから得られる研究成果や災害時のノウハウは北陸の対策にも役に立つ。

 タンカー重油流出事故や能登半島地震などでは、大学も復旧・復興の一翼を担い、被災 の教訓を生かした研究も進んだが、東日本大震災はこれまでの研究の蓄積だけでは通用しない重い課題を突きつけている。とりわけ、津波対策は太平洋側と比べて大きな被害を経験していないだけに、北陸の研究は十分に進んでいない。

 地域の災害対応力を高めるうえで大学の果たす役割は大きく、住民への啓発活動の責任 も担っている。被災地調査を通じて専門性をさらに高め、研究成果を地域に積極的に還元してほしい。

 津波調査では、金大の地震工学研究者が甚大な被害に見舞われた宮城県沿岸部などを訪 れ、石川沿岸域での避難施設を含めたハード、ソフト両面の備えやハザードマップの活用方法などの検討を始めた。富大総合情報基盤センターは今回の大津波の動きをコンピューターで解析し、富山湾での被害予測や防潮堤の形状に生かす研究を進めている。

 一方、被災者の心のケアが求められるなか、金大の園芸療法研究者はハーブの苗を現地 に届け、仮設住宅での花壇設置に取り組む準備を始めた。生活再建の長い道のりを考えれば、こうした支援策は極めて重要である。

 能登半島地震では、金沢学院大の研究者らで組織された「能登歴史資料保全ネットワー ク」が被災した文化財の搬出や修復に取り組み、散逸防止に一定の役割を果たした。この仕組みは東北の被災地でも生かせるのではないか。

 福島の原発事故に関しては、全国の大学や研究機関が連携し、地元住民や土壌、海への 影響を把握する大規模調査に乗り出す。放射性物質の影響は原発事故の最も深刻な問題であり、大学の枠を超えて頭脳を結集する必要がある。北陸からも積極的に参加し、原発の備えに役立ててほしい。

◎災害時の自治体連携 強固な支援網づくりを
 東日本大震災で北陸をはじめ全国の自治体から職員が現地に派遣され、被災地の自治体 の支援にあたっている。特に災害時の相互応援協定を結んでいた自治体や日ごろから交流のある自治体からの迅速な支援物資、職員派遣が目立ち、自治体間の支援体制の重要性が示された。

 北陸でも応援協定のほか、能登半島地震、新潟県中越沖地震を契機としたネットワーク や、これまでの自治体同士の交流などが今回の大震災の支援活動に結び付いている。甚大な被災範囲によって、広域の自治体連携の必要性が浮き彫りになった。北陸の各自治体も被災地支援に最大限に取り組むとともに、現状の支援体制を見直してより強固なネットワークづくりを進めてほしい。

 北陸の自治体の中で、南砺市の場合は交流のある福島県南相馬市に対する長期的支援に 取り組んでいる。物資の搬送、市職員、民間ボランティアの派遣、被災者受け入れ、さらに南砺市に本社を置くコマツNTCによる被災者の雇用計画など、官民挙げての支援体制を整えている。

 阪神大震災の被災経験のある関西広域連合も、構成する各府県が担当する県の支援に取 り組んでいく方針である。自治体を決めて長期的に復旧・復興を後押しすることは、被災地再生に責任を持つことにもなるだろう。南砺市の取り組みが、よりきめ細かい支援が見込まれる自治体連携のモデルケースとなるように期待したい。

 輪島市や穴水町などの能登半島地震を経験した自治体のノウハウも被災地支援に活用さ れている。輪島市は東南海・南海地震に備える愛知県尾張旭市からの打診を受けて、新たに相互応援協定を締結した。

 災害時の相互応援協定は阪神大震災で重要性が認識され、各地で締結が進められてきた が、近隣地区だけでなく、同時に被災する可能性の低い遠隔地との連携強化がより求められている。連携する自治体間で日ごろから情報交換や職員の交流などを行い、被災地支援のノウハウの共有を図ることも欠かせない。