きょうのコラム「時鐘」 2011年4月19日

 北陸は桜前線の真っただ中。満開の花便りが届く。花に浮かれるのをはばかる向きもあるが、こんな時だからこそ、落語「長屋の花見」の心意気である

大家の掛け声で、貧しき一行が花見に繰り出す。煮出した番茶を一升瓶に詰めて酒の代わりに用意した。酒のさかなは、卵焼きとかまぼこというが、実は黄色のたくわんと半月形に切ったコウコ

懐がピンチでも陽気にやるのが我ら熊さん、八っつあんである。節電の掛け声で、首都圏の街は随分暗くなったとか。戸惑いと共に、夜空の美しさにハッとしたという声も聞く。「不夜城」などと電力の浪費を自慢する暮らしを見直すチャンスだと思えば、知恵も働くし、元気も出る

酔えぬお茶に興じた長屋の花見は、「大家さん、近々いい事がありますよ」で終わる。「だって、酒柱が立っている」。蛇足ながら、酒に見立てたから、茶柱ではなく「酒柱」としゃれた

被災地からも花便りが届く。今年の桜は悲しい、という声も報じられる。が、花まで失われたなら、もっとつらいに違いない。「桜が咲いた。近々いい事がある」。そんな言葉を早く聞きたい。