宇土市走潟(はしりがた)町の医院長方で04年、妻の中津千鶴子さん(当時49歳)が殺害され、現金などが奪われた事件。強盗殺人罪などで16日起訴された無職、田尻賢一被告(39)は今年2月の熊本市渡鹿の夫婦殺傷事件でも強盗殺人罪などで起訴されている。遊興費ほしさに借金を重ね、返済に困って強盗を繰り返し2人の命を奪ったとされる。今後開かれる裁判員裁判では厳刑が求刑される可能性もある。【澤本麻里子、遠山和宏】
関係者によると、田尻被告は熊本市内の高校を卒業後、美容専門学校に進学。半年ほどで中退し県外で就職した。その後熊本に戻り、96年秋から03年春まで宅配会社に勤務。月収は40万円ほどで、生活するには十分だったとみられる。しかし、収入のほとんどをパチンコや風俗店などにつぎ込み、借金を重ねていった。親の力を借りて数回清算するも生活態度は改まらず、事件当時はこれ以上借りられない状態に陥っていたという。
04年3月初旬、田尻被告は「大金がほしい」と強盗を計画。熊本市内のホームセンターで凶器のスパナを購入した。事件前日は当時勤めていた会社を休み、宅配会社時代に担当していた宇土市内の裕福そうな家を思い出して4軒ほど下見。中津さんが1人になるところを見計らってインターホンを鳴らした。「ぜんそくの発作で苦しい。吸入器をください」。中津さんが慌てて玄関ドアを開けると一気に押し入った。
事件後しばらくは発覚を恐れていたが、日がたつにつれてまた遊びに没頭していったという。7年後の今年2月初旬、母親に借りた金の返済期限を過ぎていることに焦りを感じていた。無職にもかかわらず、母親には「昼も夜も仕事をしている」とうそをついていた。同居女性にも「600万円ほど預金がある」と話していたが、実際は消費者金融などに400万円以上の借金があったという。
「生活費や遊ぶ金がほしい」。2月中旬、再び強盗を計画した田尻被告は運送会社の仕事で来たことがある熊本市渡鹿の会社役員方を下見した。約1週間後の23日「車を壁にぶつけてしまった」とうそをついて家に上がり込み、応対した妻の右田美子(よしこ)さん(当時65歳)をバタフライナイフでいきなり襲った。
事件から2日後。会社役員方のカメラ付きインターホンに自分が映っているとの報道を知り「逃げ切れない」と思った田尻被告は出頭し、殺人容疑などで逮捕された。被害者の顔や頭を何度も執拗(しつよう)に襲う、うそをついて誘い出すなど二つの事件の手口が似ていることに捜査員は気付いた。県警が追及すると、7年前の事件を認めた。田尻被告は「自分がついたうそに追い詰められた」と話しているという。
毎日新聞 2011年4月17日 地方版