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[27016] 【習作】インフィニット・ストラトス ~蒼い雫と蒼き騎士~(IS・オリ主)
Name: 雷光◆2c4c4cde ID:cbe6150b
Date: 2011/04/06 13:27
初めまして。

友人がISの二次創作を始め、それを読んだ所原作が気になり色々調べた結果……見事にハマりました。
そして自分もISの二次創作が書きたいと思い、欲望が解放されてしまいました。
その結果がコレです。反省はちょっとありますが後悔はありません。

最初にちょっと注意事項を。
・ISを使える男オリ主あり。
・原作の設定変更あり。
・タイトルから分かるようにメインヒロインはセシリア。
・各所各所にネタあり。

以上のような地雷が仕込まれていますが私は一向に構わない! という剛の方はこの先へお進みください。
原作者の弓弦イズル様とISを教えてくれた友人、そして読んでくださる皆様に感謝を込めて。



[27016] プロローグ
Name: 雷光◆2c4c4cde ID:cbe6150b
Date: 2011/04/06 13:33
 IS――正式名称「インフィニット・ストラトス」。
 元々は宇宙空間での活動を想定して開発されたマルチフォーム・スーツだったのだが、ISが
発表されてから間も無く起きたとある事件によってその驚異的な戦闘能力が露見。
 開発者の意図とは裏腹に飛行用パワード・スーツとして軍事転用が行なわれていった。
 だが、ISには一つだけ致命的とも言える欠点がある。それは――――どういうわけか女性に
しかISは動かせない事。
 この欠点により、世界は実際には平等とは言い切れない男女平等から急速に女尊男卑の世界
へと変わって行った。いやまぁ、元々の世界でも一部は女尊男卑だったような気がしないでも
無いんだけどね俺としては。

 ……さてさて、ここでISの説明をしたのには訳がある。
 先程も言った様にどういう原理化は知らないがISは女性にしか動かせないものである。
 ここで問題。もし、もしもだ。ISを動かせる男が存在したらどうなると思う?
 世界的に大ニュースになる? ノンノン。世の男からヒーロー的扱いを受ける? ノンノン
ノン。世の女性から好奇心向けられまくる? ノンノンノンノン。
 正解は――――徹底的に政府の手によって隠蔽されて監視と言う名の軟禁状態に晒される、
だ。正確には半軟禁状態か。そこそこ自由はあったぞ。

 そんな感じで、男なのにISを動かしてしまったおかげで華の中学三年間を黒服マッチョメン
ターミネーター風味の監視下かつ専用の施設で過してしまったのがこの俺、白河 雷人(しらかわ
らいと)である。学業の方は通信教育とか政府の人の直々コーチやら何やらでどうにかなったが、
問題は入学先。この状態では間違い無く高校三年間も同じ目に合うだろう。
 華の中学三年間を潰された身としては、同じく華の高校三年間も潰されてはたまらない。
 でも手の打ちようが無いのが現実である。現実って非常だね。

「貴様に荷物だ」

 そんな現実と一人自室(という名の軟禁部屋)で戦っていると、愛想という物が全く何も無い
黒服マッチョメンが部屋に入ってきて、手裏剣の如く封筒を飛ばして来た。
 毎度毎度コイツは手紙やら何やらを手裏剣の如く飛ばしてくるんだが、何なんだろうねコレ。
 その飛んでくる封筒は、どうせいつも通り政府の高官からの無駄に長くて読む気が失せる奴
なんだろうと思った俺は無愛想返ししつつ封筒をナイスキャッチ。
 燃えるごみ用のゴミ箱をそばに用意してから、封を開けて出てきた手紙を読む。

「えーっと何々。この度はIS学園への御入学、誠におめでとうございます――って何ぃッ!?」

 入っていた手紙はIS学園の合格通知。書かれている受験者の名前は白河 雷人。
 驚きのあまり軽く三回は見返してしまったが、間違いなく俺の名前だ。
 IS学園というのは、名前通りISの操縦者を育てるための学園で日本の国立特殊学校だ。
その門戸は非常に広く開かれていて、人種・国籍問わず世界各国から操縦者候補が集まる。
 そして、ISの操縦者と言う事はIS学園に入学できるのは少女のみ。環境的に考えれば恐らく
教員も女性で固められているのだろう。
 そんな訳なので、男でISを動かせる俺なのだがIS学園を受験した記憶も志望した覚えも無い。
 と言うか今は世間一般では受験シーズン真っ只中の二月後半であり、IS学園の試験は二月の
中旬に終わってしまっている。
 ってそうじゃない。そうじゃなくて!!

「おいこらちょっと待て! 一体全体どういうことだこれ!?」
「今回ばかりは答えてやろう」

 受験も志望もした覚えが無い学園からの手紙に対して説明を要求すると、普段は何を聞いて
も無視する黒服マッチョメンが答えてくれる素振りを見せた。
 ……黒服マッチョメンが微妙に焦っているように見えるのは気のせいかね?

「先日行なわれたIS学園の受験にて、貴様と同じく男でISを動かした者が現れたとの事だ。
公式発表ではそちらが世界初のISを動かした男になるから、事実上は世界初のISを動かした
男である貴様もIS学園に入学させなければ色々とマズイのだ。
よって、勝手ながら政府が貴様の入学をIS学園に打診し、この結果となったのだ」
「……マジで?」
「残念ながらマジだ。マージ・マジ・マジーネ」

 真顔で答える黒服マッチョメンだが、何故か後半は某魔法戦隊の母親の呪文だった。
言葉の作り的に本当だと強調できるけどさ、ここでボケるか普通。と言うか何故知っている。
 ……まぁ、それはともかく。どこの誰だか知らないが、ISを動かしてくれた人には感謝だ。
おかげでとりあえず高校三年間はIS学園の特性で自由に過せる。
 そんな感謝を込めつつも、やっぱり誰が動かしたかは気になる所なので聞いてみる。

「で、そのISを動かした男って一体全体どこの誰なんだ? まだTVのニュースや新聞に載って
ないけど……アンタ等の上はもうとっくに知ってるから情報は来てるだろ?」
「うむ。本来ならば明日が情報の公開日なのだが……特別だ、貴様には先に教えてやろう。
貴様も良く知る人物だ」

 そう言って黒服が取り出したのは一枚の写真。
 ずずいっと近づけてくるその写真に写っていたのは――――――――

「い、一夏……だとぉっ!?」

正真正銘、紛れも無く幼稚園時代から中学入学までの付き合いである男ファースト幼馴染、
織斑 一夏であった。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
後書き
プロローグは原作1巻の冒頭よりほんの少し前からです。
なお、入っているネタは私の趣味・趣向が約10割。
……実は魔法戦隊は劇場版とVSしか見ていないのですが。

こんな調子ですが、生暖かい目で見ていただけると幸いです。



[27016] 第1話「男女比率は0.7:9.3」
Name: 雷光◆2c4c4cde ID:cbe6150b
Date: 2011/04/06 13:25
「はーい、それじゃあSHRはじめますよー」

 黒板の前でにっこりと微笑むのはこのクラス、IS学園一年一組の副担任こと山田 真耶先生。
 背丈は生徒とあまり変わらず、おまけに服と眼鏡のサイズが合っていないため『子供が無理
して大人の服を着ました』的な背伸びした感が伝わってくる。

「それでは皆さん、一年間よろしくお願いしますねー」
「……………………」

 先生が喋るも返って来るのは沈黙――――だけじゃなかった。

「先生、一人足りないみたいですけど大丈夫なんですかー?」

 自己紹介していないので誰が誰なのか全く分からないが、クラスメイトの一人が山田 真耶
先生に問いかける。
 そう、実はこのクラス――IS学園一年一組は入学式直後のSHR早々一人欠員が出ている。
しかもその席は俺の隣……なんだが、正直言って今はあまり気にしていられない状態だ。

「あ、白河さんなら入学式前に連絡があってちょっと遅れてくるとの事です。何でも、家から
学校に向かう途中に電車が事故で止まってしまったとの事で……」

 ちょっと聞き覚えのある苗字に反応すると同時に心の中で合掌。
 入学式初日に電車の事故で遅刻ってどういう運の悪さなんだと思う。
 そういえば、三年前から行方知れずになった男ファースト幼馴染も同じ苗字で運が悪かった
気がする。…………アイツ今何やってるんだ?

「そういう訳なので、始めてしまっても大丈夫なんです。では、自己紹介をお願いします。
 えっと……出席番号順で」

 そう言って自己紹介を促すのだが、まだ涙目でうろたえる副担任。何か反応するべきだった
のかもしれないが、今の俺にはそんな余裕は無い。
 何故か。――――答えは簡単だ。俺以外のクラスメイトが全員女子だからだ。
 まだ来ていない白河ってやつが男の可能性もあるが即座にそれは無いと却下。これも答えは
簡単。世界でISを動かせる男は俺しかいないのだから。
 おかげでほんの二ヶ月前は世界的大ニュースの人になって大変な目にあったし、今はクラス
メイト全員からの視線を冗談一切抜きで受けるハメになっている。
 ――――正直言ってこの状態、想像以上にキツイ。

「……………………」

 何かしらの救いを求めて、視線をちらりと窓側に振るも薄情なことに六年ぶりに再会した女
ファースト幼馴染である篠ノ之 箒はふいっと窓の外に顔をそらした。なんてやつだ。
 それとも俺、嫌われているのか。だとしたら六年の歳月は思った以上に長いな。

「では、次は……織斑 一夏君」
「あ、はいっ」

 物思いに耽っていると、いつの間にか俺の番になっていたらしい。
少々裏返り気味に返事をして後ろを向くと、周囲から僅かだがくすくす笑いが聞こえてきた。
 何と言うか、物凄くやり辛い。むしろ落ち着かねえ…………。

「えー……えっと、織斑 一夏です。よろしくおねがいします」

 当たり障りの無い挨拶をし、儀礼的に頭を下げて上げる。
 ――――って何だその『もっと色々喋ってよ』的な視線は。目が輝いて見えるのは俺の気の
せい……じゃないよな? そして何だこの『これで終わりじゃないよね?』的な空気は。
 そんな視線を空気を送られても、喋ることなんて殆ど無いぞ。
 箒に助けを求めて視線を送ると……またそらされた。この薄情者め。
 このまま黙っていて余計な期待をされるわけにも行かないので、もう一度俺は口を開く。

「以上です」

そう言った瞬間、女子が数名がたがたっと音を立ててずっこけた。だから何を期待したんだ。

「あ、あのー」

 背後から掛けられる声。涙声成分が二割ぐらい増している。やっぱダメだった?
 ……と思ったのもつかの間。気付いたら俺はパアンッ! と小気味の良い音を響かせて頭を
叩かれていた。少々遅れて頭から結構な痛みが伝わってくる。
 覚えがありすぎる叩き方・威力・角度・速度にまさかと思い、恐る恐る後ろを振り向く。
 そこに居たのは――――――――

「げえっ、デカマスター!?」

 スパァン!! とさっきよりも良い音を響かせて飛んでくる二発目。勿論威力も上だ。

「誰が百鬼夜行をぶった切る地獄の番犬か、馬鹿者」

 トーンの低めの声が聞こえるが、脳内では実にトロンベとでも言いそうな声もする。
 ――――ってまてマテ待て。何で千冬姉がここに居るんだ? 職業不詳かつ月一、二回ほど
しか家に帰ってこない我が実姉は。

「あ、織斑先生。もう会議は終わられたんですか?」
「ああ、山田君。クラスへの挨拶を押し付けてすまなかったな。それと、遅れていた彼も先程
到着したとの事だ。もう間も無くクラスへ来ると言っていたが――――」

 先程までのトーン低め声はどこへやら。優しげな声の千冬姉が言葉を切ると同時に廊下から
何やらドタバタという音が……そう、誰かが全力で廊下を走っているような音が聞こえてきた。
 その音が次第にこちらに近づいて来ると――――――――

「すいません電車事故で思いっきり遅れましたぁぁぁぁぁっ!!」

 壊れるんじゃないかと思うぐらいの勢いで教室の扉を開けて飛び込んで来たのは、俺と同じ
IS学園の男子用制服を着た奴だった。
 同年代の男子平均と比べると低めの背、少々クセっ気の強い無造作に跳ねた黒髪と黒色の瞳。
そして普段は割と真面目だが今のように時々妙にテンションが高くなる声。
 …………間違いない。俺の男ファースト幼馴染の白河 雷人だ。
 だが、どうして三年前突如姿を消したコイツがここにいる。ここに居ると言う事は、雷人も
俺と同じく男なのにISを動かせると言う事なのか。
 しかしそんな事実は毎日ニュースと新聞をチェックしていたが一度も出なかったぞ。

「入学式早々電車の事故で遅れたのは不運だったな、白河。だが廊下を走るんじゃない!」

 そう言って千冬姉が繰り出したのは出席簿による物理攻撃。先程俺が叩かれたやつだ。
 しかし、雷人は肩を上下させるほど息を切らしている状態だと言うのにその一撃を右手一本
で難なく防ぎやがった。どういう反射神経しているんだ。

「その状態で今の一撃を防ぐとは、相変わらずの反応速度だな」
「いえ、千冬さ……織斑先生の叩き方とかが昔と変わってなかったから防げたんです。
あと出席簿は人を叩くものではないと思いますよ……」
「ツッコミも相変わらずか。自己紹介を済ませたらさっさと席に座れ。織斑の隣だ」

 千冬姉にそう促されると、すーはーすーはーと深呼吸を数回して呼吸を整える雷人。
 呼吸を整え終えると、クルリとこちらを向く。

「初めまして、白河 雷人です。先程も言いましたが電車事故で到着が遅れてしまいました。
慌しい入り方で驚かせてしまいましたが、これから一年間よろしくお願いします」

 先程までのテンションと息切れはどこへ行ったのか。俺はよく知る普段のテンションと口調
に戻ると挨拶をし、ペコリと見事な90度直角お辞儀を披露してくれた。
 頭を上げるといきなりの登場と挨拶で反応が遅れている女子達を気にする事無く歩き出し、
何事も無かったかのように俺の隣の席に座る。
 俺としてはどう言う事か色々聞きたかったのだが、その前に千冬姉が喋り出しそうな気配が
あったので断念する。流石にこれ以上は叩かれたくない。






「諸君、私が織斑 千冬だ。君達新人を一年で使い物になる操縦者に育てるのが仕事だ。私の
言う事はよく聴き、よく理解しろ。出来ない者には出来るまで指導してやる。私の仕事は弱冠
十五歳を十六歳までに鍛え抜くことだ。逆らってもいいが、私の言う事は聞け。いいな」

 俺が席に付くと同時に千冬さんが喋り出した。うわぁ……この鬼っぷり全然変わってない。
 だが、この言葉が響いた後の教室に広がるのは困惑ではなく黄色い声援。凄まじさのあまり
一瞬ソニックブームが発生したのかと勘違いしたぞ。

「……毎年、よくもこれだけ馬鹿者が集まるものだ。感心させられる。それとも何か? 私の
クラスにだけ馬鹿者を集中させてるのか?」

 本気でうっとうしがっている千冬さん。うん、本当に全然変わってないなこの人は。
 あと、貴方の場合多少なりともISの事を知っている女性なら誰でも馬鹿になると俺は8割程
本気で思っています。
 ……そう思っている間にも女子の声援は過熱。何か言葉の端々に叱ってやら罵ってやら躾し
てやら聞こえるのは俺の幻聴――じゃねえな、うん。

「で、挨拶も満足に出来んのかお前は。駆け込んで来た白河の方がまだマシだぞ」
「いや、千冬姉、俺は――――」

 右に顔を向ければ一夏が千冬さんの一撃を喰らっていた。さっきは何とか防げたけどアレは
マジで痛いから困る。……あ、一夏が喰らった箇所押さえて悶絶してる。

「織斑先生と呼べ」
「……はい、織斑先生」

 このやり取りでクラス中に一夏と千冬さんが姉弟なのが知れ渡ってしまった。
 おおう、今俺に向けられている視線とはまた違った視線が一夏に集中してるぜ。
 俺のは多分さっきまで一夏も向けられていたはずだから、視線のダブルパンチで大変そうだ。
……いや、多分俺も事の顛末話したら視線のダブルパンチ喰らいそうなんだがね。
 とか何とか思っていると、SHRの終わりを告げるチャイムが聞こえてきた。

「さあ、SHRは終わりだ。諸君らにはこれからISの基礎知識を半月で覚えてもらう。その後実
習だが、基本動作は半月で体に染み込ませろ。いいか、いいなら返事をしろ。よくなくても返
事をしろ、私の言葉には返事をしろ」

 またも千冬さんから飛び出す鬼――もとい鬼教官っぷり。流石に今度は声援は上がらず、
一糸乱れない返答の声が上がる。
 なおこのクラスの総勢は三十一名。うち男子は俺と一夏の二名で残る二十九名は女子。その
男女比率何と0.7:9.3というとんでもない比率である。
 学園全体で考えたら下何桁まで行くんだろうかとこっそり考えつつ、一時間目のIS基礎理論
授業が早速始まっていくのであった。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
後書き
取り急ぎ、完成しているプロローグと1話を。
気付けば殆ど原作と変わっていない1話。ドウシテコウナッタ……
情報が極端に少ない主人公ですが、2話から情報を出していきます。
そして次は勿論、メインヒロイン(ツンモード)登場です。

ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます。
執筆ペースは少々遅めですので、期待せずに次の話を待っていただけると幸いです。



[27016] 第2話「ただし、決闘の手袋は白手袋に限る」
Name: 雷光◆2c4c4cde ID:cbe6150b
Date: 2011/04/07 14:09
 一時間目が終わった後、久々に一夏と話したり六年ぶりに再会した一夏と俺の共通の幼馴染
である篠ノ之 箒と話したりして外見はともかく内面は昔とあまり変わっていないことを確認。
 特に箒は見た目こそ変われど中身は全然変わっていなかった。
 ……当然、一夏一筋なのも変わっていないわけで。ちなみに一夏の鈍さも全然変わらず。
 全く持って何なんだろうねアイツの鈍さは。天然記念物に指定できるレベルだぜ。

 そして、一夏が入学前に配布された必読の参考書を貴方の街の電話帳と間違えて捨てていた
のが発覚して千冬さんに俺が見る限り本日三度目の出席簿アタックを喰らったり、山田先生が
何故か妄想の世界に突入したりと色々あったが気付けば二時間目も終了。
 なお、授業に全く付いていけなかった一夏は現在進行形で分厚い教科書五冊の内の一冊を枕
代わりにして頭から煙を出しそうな感じにつっぷしている。
 この場に千冬さんが居たら本日四度目のアタックが飛んでくるな、うん。
 なお、二度目は二時間目の開始直前。タッチの差で間に合わずに一夏は喰らったのだ。

「雷人……何でお前授業に付いて行けるんだよ……」
「お前がボッシュートした参考書に基本的なことは書いてあったからな。後はまぁ……何だ、
実践で覚えたと言うか覚えざるを得なかったと言うか……」

 一夏の恨めしそうな声に後半はちょっと言葉を濁しつつ答える。
 どういうことだ? と言いたげな顔の一夏であったが、実際にはその問いを口に出すことは
なかった。

「貴方がた。ちょっとよろしくて?」

 俺達の後ろからそんな声が聞こえてきたからだ。
 振り向いてそちらを見れば、鮮やかな長い金色の髪の先端を僅かにロールさせ、白人特有の
透き通ったブルーの瞳を持つ少女が一人。
 身に纏う雰囲気から結構いい所の出だと分かるが、態度もそれ相応でいかにもって感じだ。

「訊いています? お返事は?」
「ああ、聞いているけど?」
「それで、用件は?」

 俺と一夏が応答すると、その子は何やらオーバーなリアクションを見せてくれた。

「まあ! なんですの、そのお返事。わたくしに話しかけられるだけでも光栄なのですから、
それ相応の態度というものがあるのではないかしら?」

 押し黙る俺と一夏。……訂正しよう、いかにもって感じじゃない。いかにもだ。
 ISが登場してから世界の軍事力は一気に変わった。ISの前では戦車や飛行機、実用化されて
居ないがMSやくろがねの城的なロボットですら鉄屑同然だ。実用化されていない奴は個人的に
はそう思いたくないが。
 そしてISを動かせるのは原則女性だけ。よって今じゃ優遇を通り越して女性=偉いの図式だ。
そうなると男の立場は奴隷ないし労働力扱い。やや極端に聞こえるかもしれないが、街中で男
が見知らぬ女にパシリにされると言うのも珍しくは無い。
 心が伴わない力なんて、単なる暴力だ。そして暴力は振りかざすものではない、絶対にだ。

「悪いな。俺、君が誰か知らないし」

 そう言ってのける一夏だが、こいつは多分本当に知らないな。
 SHRで全て終わらず一時間目の冒頭で簡潔に行なわれた自己紹介の時、一夏は心ここに有らず
と言った様子だったからな。大方、千冬さんが担任なのとここで教師をしていたのがショック
だったんだろう。
 当然の如く、その答えは目の前の彼女にはかなり気に入らないものだったようで。既に吊り
上っていた目をさらに細めて、見下した口調で続ける。

「わたくしを知らない? この――――――――」
「セシリア・オルコットさん。イギリスの代表候補生で入試は主席。専用IS持ちで機体は第3
世代型の蒼い雫ブルー・ティアーズ。……こんな所か?」
「あら、貴方はわたくしのことをご存知なのですね」
「そりゃあ、まぁ一応は」

 割り込みだったが、俺の説明に多少は気分をよくするオルコットさん。
 まぁ、言っていたことの殆どが自己紹介で言っていた事だからな。流石に専用機持ちとかの
部分は言ってなかったが、俺はとある事情で知っている。

「あ、質問いいか?」
「ふん。下々のものの要求に応えるのも貴族の務めですわ。よろしくてよ」
「代表候補生って、何?」

 一夏の質問を聞いた瞬間、周囲で聞き耳を立てていた女子数人がずっこけ、俺は思いっきり
額を机に打ち付けてしまった。おかげで若干額が痛い。

「あ、あ、あ……」
「あ?」
「貴方っ、本気でおっしゃってますの!? こちらの方は分かっておられるようなのに!」
「おう。知らん」

 物凄い剣幕のオルコットさんと本気で言っている一夏。
 ……多分、一夏は知らない事は素直に言おう。見栄は身を滅ぼすとか思っているのだろう。
 それは良い事なんだが……時と場合と空気を選ぼうな。と、俺は言いたい。

「信じられない。信じられませんわ。極東の島国というのは、こうまで未開の地なのかしら。
常識ですわよ、常識。テレビが無いのかしら……」

 怒りが一周して逆に冷静になったのか、こめかみに手を当ててブツブツ言うオルコットさん。
いやいや、イギリスも島国だろ? あと日本は結構先進国だ。

「で、代表候補生って何だ、雷人?」
「俺に聞くか俺に。ったく……代表候補生ってのは国家代表IS操縦者――つまり前の千冬さん
だな。その候補生として選出される人の事。平たく言えばIS操縦のエリートだ。何となくでも
単語から想像できないか?」
「そう言われればそうだ」

 何故か俺に説明が振られたので説明すると、納得したような声を出す一夏。
 ……簡単なことほど見落としやすいって本当なんだなとか思ってそうだ。コイツ一回マジで
殴ってもいいかな? 一応答え聞くけど。

「そう! エリートなのですわ!」

 あ、オルコットさんが復活して一夏に人差し指近づけてる。しかも無茶苦茶近い。

「本来ならわたくしのような選ばれた人間とは、クラスを同じくすることだけでも奇跡……幸
運なのよ。その現実をもう少し理解していただける?」
「そうか。それはラッキーだ」
「……馬鹿にしていますの?」

 売り言葉に買い言葉の要領だが一夏、そろそろ自重しておけ。
 一旦は収まったオルコットさんの怒りがまた貯まって来てるぞ。

「大体、貴方ISについて何も知らないくせに、よくこの学園に入れましたわね。男でISを操縦
できると聞いていましたから、少しくらい知的さを感じさせるかと思っていましたけど、もう
一人の方はともかく貴方に関しては期待外れですわね」
「俺に何かを期待されても困るんだが。なあ雷人」
「俺に振るな、俺に」

 嘘偽り無い本心からの言葉で一夏に返す。確かに俺はどちらかと言えばツッコミだが、この
状況で振られても困るだけだぞ。

「ふん。まあでも? わたくしは優秀ですから、貴方の様な人間にも優しくしてあげますし、
ISの事で分からないことがあればまぁ……泣いて頼まれたら教えて差し上げてもよくってよ。
何せわたくし、入試で唯一教官を倒したエリート中のエリートですから」
「入試って、あれか? ISを動かして戦う奴?」
「それ以外に入試などありませんわ」
「なら、俺も倒したぞ、教官」
「は…………?」

 一夏が言った事があまりにも衝撃的過ぎたのか、驚きに目を見開いて固まるオルコットさん。
 一夏が勝てるなら多分相手は……山田先生辺りか? 突っ込んできた所を避けたらそのまま
自滅した……ってのが一番現実的か。

「わ、わたくしだけと聞きましたが?」
「女子だけってオチじゃないのか? ……そう言えばここにいるって事は雷人もIS動かせるん
だよな。どうだった?」
「……引き分けたには引き分けたが……すまん、正直あまり思い出させないでくれ」

 またしても俺に振ってくる一夏。そして俺もまたしても嘘偽り無い本心からの言葉で返す。
  一夏が男でISを動かしたと言う事を受けて俺の入学も決まったので、半分形式上の物だが
入試試験自体は別の日に受けている。
 筆記試験は良いんだが、実技だけは本気で思い出したくない。だって相手千冬さんだぜ?
 打鉄に近接ブレード装備の仕様だったが、流石は第1回IS世界大会(モンド・グロッソ)総合
優勝者。本当に第2世代型の量産機かって思うぐらいの機動だった。
 最後の捨て身が決まったおかげで何とか引き分けたけど……おかげで手持ちのパッケージは
全部全損させられるわ、機体は大破するわ……ああ思い出すだけで嫌な汗が。

「貴方! 貴方も教官を倒したって言うの!?」
「うん、まあ。多分」
「多分!? 多分ってどういう意味かしら!?」
「えーと、落ち着けよ。な?」
「これが落ち着いていられ――――――――」

 自分でも分かるぐらいヤバイ顔をしていたためか、オルコットさんはそれ以上俺の入試には
触れようとせずに一夏に噛み付いていた。……正直言って本当助かる。
 そして噛み付かれていた一夏だが、ここで三時間目開始のチャイムが鳴ったためやや一方的
な言い争いは中断された。オルコットさんは少々不服そうだったけどな。






「授業を始める前に、再来週行なわれるクラス対抗戦に出る代表者を決めないといけないな」

 三時間目の授業で教壇に立ったのは山田先生ではなく千冬さんだった。
 その千冬さん、今回の授業内容を言う前にこんな事を思いだしたように言った。
 そんな、調味料や何かが切れたような感じで重要そうなこと言わないで下さいよ……。

「クラス代表者とはそのままの意味だ。対抗戦だけでなく、生徒会の開く会議や委員会への出
席……まぁ、所謂クラス長だ。ちなみにクラス対抗戦は、入学時点での各クラスの実力推移を
測るものだ。今の時点では大した差は無いが、競争は向上心を生む。代表は一度決まると余程
の事が無い限り一年間変更は無いからそのつもりで」

 突然の事にざわめく教室。まぁ、当然だろうな。隣を見れば、一夏は最初は意味が分からな
そうな顔をしていたが、最終的にはなる奴はご苦労様だ的な顔になった。
 ……お前と俺が一番なる確率高いの気づけよ。

「はいっ。織斑君を推薦します!」

 案の定推薦される一夏。おい、こらそこ織斑ってこのクラスにもう一人居るのかって顔する
な。確かに千冬さんもいるが生徒で織斑はお前一人だ。

「私は白河君を推薦します!」

 そしてやっぱり推薦される俺。いやもう、予想通り過ぎて逆にありがたいんだが。
 一夏は一夏で俺以外なら誰でも良いぜーって顔するな。推薦されてるんだぞ。

「では候補者は織斑 一夏と白河 雷人……他に居ないのか? 自薦他薦は問わないぞ」
「お、俺!?」

 自分の名前が出てきてようやく推薦されていることに気付いた一夏。遅いぞ。

「織斑。席に着け、邪魔だ。さて、他にはいないのか? いないならこの二人で投票をするぞ」
「ちょ、ちょっと待った! 俺はそんなのやらな――」
「自薦他薦は問わないと言った。他薦された者に拒否権などない。選ばれた以上は覚悟をしろ」
「い、いやでも――」

 必死に反論しようとする一夏だが、この調子じゃ反論は無理そうだな。というか、千冬さん
相手に反論は無駄だと思うぞ?
 ちなみに俺は話が出た瞬間に腹を括っている。人間、時に諦めは肝心なのさ。

「待ってください! 納得がいきませんわ!」

 そう言いながらバンッと机を叩いて立ち上がったのはオルコットさんだ。
 性格からして出張ってくるだろうと思っていたが、本当に出張ってくるとは。

「そのような選出は認められません! 大体、男がクラス代表だなんていい恥さらしですわ!
わたくしに、このセシリア・オルコットにそのような屈辱を一年間味わえと!?」

 おーおーおー言い切った言い切った。ここまで言い切れるなんて珍しいぞ。

「実力からすれば――片方少々不明ですが――わたくしがクラス代表になるのは必然。それを
珍しいからと言う理由で極東の猿にされては困ります! わたくしはこのような島国までIS技
術の修練のために来ているのであって、サーカスをする気は毛頭ございませんわ!」

 いやいや、さっきもツッコんだけどイギリスも島国だろ。国土の面積的にはイギリスの方が
日本よりも狭いし。と言うか何気に人を猿扱いすんなよ。
 
「いいですか!? クラス代表は実力トップがなるべき、そしてそれはわたくしですわ!」

 興奮が冷めるどころか、エンジンがヒートアップしてマキシマムドライブ領域になってきた
オルコットさんは怒涛の剣幕で捲し立てていく。
 ……流石にここまで来ると、日本人として腹が立ってくるんだが。
 
「大体、文化としても後進的な国で暮らさなくてはいけない事自体、わたくしにとっては耐え
難い苦痛で――――」

 オルコットさんが喋っていたが、そんなの気にする余裕が無いくらいカチンと来た。
 
「イギリスだって対してお国自慢ないだろ。世界一不味い料理で何年覇者だよ」
「日本の文化舐めんな。職人さんの業と底力甘く見るんじゃねーぞ」
「なっ……!?」

 気付いたら一夏と俺が続くように反論していた。
 どうやらカチンと来ていたのは一夏も同じだったらしい。打ち合わせ無しで反論内容に被り
無しの前者に続いて綺麗に後者も続く。素晴らしいねこの連携。

「あっ、あっ、貴方がた! わたくしの祖国を侮辱しますの!?」
「ほぉう、自分が先にこっちの祖国を侮辱したのは棚に上げるか。見上げた根性だ」

 そして後ろを振り向けば、そこに居たのは顔を真っ赤にして怒りを露にするオルコットさん。
 一夏は怒りに任せて言ってしまったようなので追撃しなかったが、俺はまだまだ余裕がある
のでおまけも言っておく。

「白河 雷人! 貴方に決闘を申し込みますわ!!」

 バァン! と机を叩いてからこちらに人差し指を向けるオルコットさん。
 残念ながらオルコットさんは白手袋をしていないので、由緒正しき決闘の申し込み方法では
なかったのだが。……個人的には本場の申し込み方を見て見たかった気もするが。

「そうだな、ここでグダグダ言いあうよりはそっちの方が良い。方法は?」
「IS学園らしく、IS同士の勝負で決着をつけましょう。よろしくて?」
「ああ、その条件で構わないぜ」
「言っておきますけど、わざと負けたりしたらわたくしの小間使い――――いえ、奴隷にしま
すわよ。覚悟なさい」
「誰が真剣勝負で手ぇ抜くかよ。そっちこそ手ぇ抜くんじゃねえぞ?」

 互いに口で相手を牽制しつつ、視線をぶつけ合ってバチバチと火花を散らす俺とオルコット
さん。その様子と俺が決闘を了承したことでクラスの面々がわっと沸きあがる。
 ……全く持って何てノリの良いクラスなんだ、ここは。

「決まったようだな。それでは勝負は一週間後の月曜。放課後、第三アリーナで行なう。
白河とオルコットはそれぞれ用意しておくように。あと、ここに居る時点で薄々分かっていて
さっきのやり取りで確定しただろうが、白河は織斑に次いで二人目の世界でISを扱える男だ」

 話が纏まったのを見て、千冬さんが決闘の日時と場所、今更な俺の事実を話す。
 それを聞いて先程の決闘了承とはまた違った形でクラスが湧き上がる。
 今日ここまでで特に騒ぎが起きなかったのは、諸事情で政府からの公式な俺が世界で二人目
のISを動かせる男という発表がまだされていないからだ。確か発表されるのは今日の夕方だ。
 ……尤も、俺の場合色々と裏があるから公式発表がここまでされていなかったんだがな。

「詳しいことは今日の夕方からの政府の発表を待て。間違っても本人に聞こうとするなよ。
白河は発表があるまで聞かれても答えるな。いいな?」
「了解です」
「よし。ならば授業を始める」

 ぱんっと手を打って、話を締める千冬さん。
 それを皮切りに教室の騒ぎも収まり、俺とオルコットさんも席に座る。
 初日早々大変なことに巻き込まれたが……まぁ学生生活特有のトラブルイベントだと思えば
多少は苦労度合いも減るだろう。…………多分。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
後書き
まさかこれほど2話が早く仕上がるとは。
私自身もビックリです。恐るべしメインヒロイン登場補正。
そしてこれでもまだ初日が終わっていないという進みの遅さっぷり。
初日はもうちょっとだけ続くんじゃよ~。
……こう書くと、確実に初日が続くフラグですね。



[27016] 第3話「真実は一部の胸の中に」
Name: 雷光◆2c4c4cde ID:cbe6150b
Date: 2011/04/09 16:03
「うう……………………」

 放課後、俺の隣の席でグッタリと机に突っ伏す物体I――――もとい、一夏。
 その突っ伏しぷりっといったら頭から煙どころか口から魂が出そうなほど。

「い、意味が分からん……。何でこんなにややこしいんだ……?」
「まぁ、専門用語分からないとそうなるよなぁ……ほれ、とりあえずノート」
「すまん……本当に助かる」

 一夏にツッコミを入れた通り、ISに関する授業はとにかく専門用語の羅列なのだ。少しでも
参考書に目を通した者ならともかく、全く目を通していない一夏は辞書でもなければやってい
けないレベルだ。そして残念ながらISの辞書なんてものは存在しない。
 なので隣で見ていたが一夏は今日一日殆ど全く何もやれていなかった。仕方ないから今日の
授業のノートを差し出しておく。参考書は……実家だったか。取りにいくの面倒だな……。
 ちなみに、放課後なのにクラスの中に人は全くと言っていいほどいない。むしろ教室に居る
のは俺と一夏の二人だけだ。
 その理由は夕方からある政府からの公式発表――つまり、俺が世界で二人目のISを動かせる
男である事――をいち早く見ようと授業が終わったら皆TVがある寮に行ってしまったからだ。

「それで、昼休みに俺に話しておきたい事があるって聞いたけど……一体何なんだ?」
「いやな、一夏には色々と真実を話しておこうと思って。三年前の事とか」

 そして、俺と一夏が教室に二人して残っているのは俺の事でちょっと一夏に話しておきたい
ことがあるから放課後残っててくれと頼んだからだ。
 話の内容的に他の奴に聞かれると色々まずいので、本当は人払いでもしようかと思っていた
のだが、夕方からの政府の公式発表が上手い具合に効いてくれたのはラッキーだな。

「そうそう。お前三年前――中学一年の時にいきなり居なくなったからな。何があったんだ?」
「端的に言っちまえば、俺がIS動かしたせいで大パニック発生」
「……うわぁ」

 思わず一夏がうわぁと言ったのは、一夏もその時の大変さ――男でISを動かしてしまった時
のこと――を良く知っているからだ。
 確か聞きかじった話だと、一夏がISを動かしてしまった時は家にマスコミだの各国大使だの
果ては遺伝子工学研究所の人間までやってきた――とか。
 いやまぁ、俺も同じ目に会ったけどさ。誰が生体調べさせるかってんだ。

「って、それじゃあもしかして…………」
「その通り。正確には俺が世界で初めてISを動かした男だ。けど、政府の公式発表だとお前が
世界で初めてISを動かした男ってのは変わらない。俺は二番目になる」

 そう、本当は世界で初めてISを動かした男は俺なのだ。
 けどそのことを知っているのは当人の俺と親父と母さんと実家のおっちゃん達、後は政府の
関係者ぐらいだ。
 ……あー。多分千冬さんと束さんも知ってるかな? 千冬さんはここの教師だからある意味
政府の関係者だし、束さんはIS作った張本人で恐ろしいまでの情報網持ちだしな。

「そうか……でも、何でIS動かしちまったんだ?」
「ISが開発されてから俺の実家の工場の生産のメインがISに変わってな。それで当時、データ
収集用で打鉄が運び込まれて――――」
「触ったら動いた……と?」
「その通り。歳が歳だからIS学園にも入れなくてな。おかげで俺の存在は国家機密扱いされて
徹底的に秘匿されるわ、専用の施設に入れられるわ、外出時は必ずターミネーター風味の黒服
マッチョメンが付いてくるわ……息が詰まりそうだったぞ」

 表情は8割程クセになっている苦笑だったんだが、話の内容は我ながらとんでもない物だ。
事の顛末は大体俺と一夏が言った通りだ。付け加えるなら、触ったのは興味本位って事か。
 そして実家の工場と言ったが、俺の実家は白河重工という大きな会社を経営している。
元々は工業用のパワード・アーマーを生産・開発していた家だったが、ISが開発されてからは
ISのパーツや武装の生産・開発がメインになっている。
 特に純国産の第2世代型の量産機、打鉄の生産に関しては国内シェア1位を誇っている。
 今は一応第3世代型ISの開発・研究もしてるな。ちょっと他の所とは方針違うが。

「まぁ、そのまま発表すると色々面倒だからさ。一夏がIS動かしたのを受けて他にも居ないか
周辺探したら俺が引っかかったって形で二人目ってのが政府公式発表だ」
「なるほど……そういえば雷人の家って結構有名だもんな。やっぱ家の手伝いしてるのか?」
「ああ、IS動かしてからずっと実家のテストパイロットやってるし専用機も貰ってる。これも
政府公式発表だと俺がIS動かせたのを受けて実家がテスパイ任命&専用機用意って形だけどな」

 ここら辺の発表の調整は全部政府が辻褄を合わせて真実がバレないようにやっている。俺の
存在の公式発表が遅れたのは、ここら辺の調整のためだ。
 まぁ、実際の作業は政府の担当の人が勝手にやって俺は入学前に完成した奴を見ただけだ。
だから詳しいことは知ったこっちゃねえ!!

「専用機か……セシリアも持ってるみたいだけど男としては羨ましいな」
「いや、お前にも用意してるって話だぞ? 現に開発の一部と最終調整はウチでやってる」
「マジか!?」
「お、おう。専用機の話は政府からだし、ウチでやってるのは親父からだから確実だ……」

 自分の専用機があると聞いた途端、今まで死に掛けていたのはどこへやら。身を乗り出して
途端に食いついてくる一夏。
 しまった、コイツ昔は俺の趣味に付き合って色々見てたからこう言う話大好きなんだっけ。
元凶は俺だけど微妙に忘れてた。

「そうか、俺にも専用機かぁ……って雷人、さっきからの話俺が聞いても大丈夫なのか?」
「お前だから話したんだよ。当然、他言無用の口外厳禁な? 箒ぐらいなら良いけど」

 当然の如く、ちゃんと釘は刺しておく。一夏はたまに口が軽い所があると言うか、うっかり
口が滑ることがあるからこうして置かないと少々不安だ。
 まぁ、箒とは共通の幼馴染って事もあって会う機会が一番多いだろうから、知っていた方が
何かと良いかもしれないから特別OK出したが。
 箒は口堅いから、聞いても口外するような事はないだろうし。






「あ、織斑君に白河君。まだ教室にいたんですね。調度良かったです」

 調度一夏に話し終えたタイミングで山田先生が書類片手に教室に入ってきた。
 いいタイミングで入ってきてくれて本当助かります。

「山田先生。俺と雷人に何か用ですか?」
「そうです。えっと、織斑君と白河君の寮の部屋が決まりました」

 そう言いながら、俺と一夏に部屋番号の書かれた紙と部屋の鍵を渡す山田先生。
 ここIS学園は全寮制で生徒は皆寮で生活を送ることを義務付けられている。何でかと言うと
将来有望なIS操縦者達の保護のためだ。国防や研究、開発のために学生の頃からあれこれ勧誘
しようとする国がいてもおかしくないし、現実問題勧誘はどこの国もやってる。
 ……が、俺と一夏の場合はちょいと問題がある。

「あれ、俺と雷人の部屋ってまだ決まってないんじゃなかったんですか? 俺は一週間は自宅
から通学してもらうって聞いていたんですけど」
「俺も一夏と同じです。政府からは特に通達無かったんですけど?」

 そう、IS学園は今まで女子生徒しか居なかったので当然生徒用の寮にいるのは女子。
 すなわち生徒用の寮は女子寮である。そこに男である一夏と俺をそのまんま放り込むわけに
はいかない。だから最初は自宅通学をしてもらうと聞いていた。
 当然、こう言う事に関しては事前に政府――俺も一夏も日本政府――から通達が来るように
なっているのだが今回はそれが無い。

「それが、事情が事情なので一時的な処置と言う事で部屋割りを無理矢理変更したんです。
通達が無いのは、急すぎるのと今白河君の発表をしているからですかね?」

 なるほど、確かに急すぎる話なら対応は出来ないし今発表しているなら通達出来ないか。
 ……どうしても政府は俺に保護と監視の両方を付けたいらしい。保護は別に構わんが監視は
正直言ってそろそろ勘弁してもらいたい。黒服マッチョメンはもういい……。

「ただ、今は空き部屋が無いので二人とも一人部屋に無理矢理組み込ませてもらったそうです。
一ヶ月もすれば男子用の部屋が用意出来ますから、それまで相部屋で我慢してください」
「分かりました。相部屋ってことは女子と……ですよね?」
「ええ、申し訳無いですけどそうなります。部屋割りは一年生の寮長も務める織斑先生がした
ので多分問題は無い……はずだったんですが」

 一夏の質問に答える山田先生だが、後半は言葉が濁っていた。
 部屋割りは千冬さんが決めたってことは、一夏に関しては全く持って問題ないだろう。あの
人、相当なブラコンだから一夏は多分箒と同じ部屋だろうな。
 が、この様子だと俺の方で問題が起きたんだな。大体想像は付く。

「その……白河君の部屋なんですが、相手が――――」
「分かりました。その先は言わなくて良いです」

 割と事態が想像通りだったため瞬時に理解し、俺は山田先生の言葉を遮る。
 確かに初日早々あそこまで火花散らした相手と同室だなんて言いにくい。つーか言えない。
 そして俺はそんな相手と一緒の部屋にいられるほど神経は太くない。

「なので今、織斑先生が教員寮の空き部屋を使えないか交渉しています」
「……だったら最初から俺か一夏、そちらに入れればよかったのでは?」
「空いている部屋が個室しかなかったからな。最後の手段として考えていた」

 俺の質問に答えたのはいつの間にか教室の入り口に居た千冬さんだった。おおう、何と言う
測ったようなナイスタイミング。思わず出待ちしていたのかと言いたくなるぐらいだぜ。
 いや言ったら出席簿アタックが飛んでくるから言わないけど――――ってあだぁっ!?

「い、いきなり何するんですか織斑先生……」
「貴様が失礼なことを考えていたような気がしてな」
「滅相もございません」

 いつの間にか俺の背後に来ていた千冬さん。その手に握られているのは煙を上げる出席簿。
 ……煙を上げるような速度で頭を叩かないで下さい。というか人の心を読まないで下さい。
昔から若干そんな素質はあった気がしますがいつの間に読心術を習得しているんですか貴女は。
 そんな事を思いつつも体勢は座ったままだが体は90度曲げた最敬礼。
 一撃で喰らった後頭部が激しく痛むんだ。連続で喰らったら絶対に危ない。

「結果だが、教員寮の空いている個室を借りることが出来た。白河は来週のオルコットとの試
合が終わるまではそちらで寝泊りしろ。終わったら元々の部屋割り通り同室だ、いいな?」
「分かりました。……えっと、荷物は?」
「心配するな。白河の荷物は既に教員寮の部屋に送ってある。織斑のは先程手配してきた。
着替えと携帯の充電器があれば十分だろう?」

 うわぁ、やっぱりこういう所も全然変わってないぞ千冬さん。確かにそれだけあれば何とか
なりそうな物ですが、個人的には日々の潤いとなる物も必要だと思います。
 そして予想通り俺とオルコットさんは同室か。ダンテ――――もといナンテコッタイ。

「えっと夕食は六時から七時、寮の一年生用食堂で取ってください。白河君もそちらでお願い
します。生徒用の寮の各部屋にはシャワーがありますけど、大浴場もあります。使える時間は
各学年ごとに違いますが……今の所織斑君と白河君は使えません」
「そりゃそうでしょうね……教員寮の方はどうなってます?」
「教員寮は部屋にシャワーがありません。大浴場だけです。そちらの大浴場は男女別ですから
白河君でも使えますね」

 教員寮は大浴場を使えると聞いて思わずガッツポーズしてしまった。
 生徒用の寮は大浴場を使えないのを聞いてガックリと肩を落としていた一夏は、恨めしそう
にこっちを見ている。一夏も結構大浴場というか風呂好きだからな。

「数日もしたら織斑にも男性教員用大浴場の使用許可が出る。それまで我慢しろ」
「わ、分かりました」

 千冬さんのその言葉で多少は持ち直したのか、一夏からの恨めしそうな視線は消えた。
 普通同時に許可が出ても良さそうなのだが出ていないのは、やはり一夏と俺の入学が相当な
イレギュラーだったのだろう。ドタバタなのがよーく分かる。

「それでは、私達は会議があるのでこれで。織斑君も白河君もちゃんと寮に帰るんですよ?
道草くっちゃダメですよ」

 そんな事を言う山田先生だが、ちょっと遠い教員寮の俺は分からないでもない。しかし生徒
寮はこの校舎から50mぐらいしか離れていない。道草食うのは無理だろ。
 ……本当はアリーナとか色んな施設を見て回りたいのだが、一夏がこんな調子だし俺も正直
言えばそこそこ疲れているので今日は寮に直行することにしようか。






 ……結果的に言えば、寮に直行したのは成功だった。
 現在、午後九時半。場所は緊急で割り振られた教員寮の一室。
 そんじょそこらの高級マンションの一室に勝るとも劣らない程の部屋に用意されたベッドの
上で俺はグッタリとしていた。
 理由は簡単。食事と一応場所を覚えるために一夏と一緒に向かった生徒用の寮で残っていた
体力と精神力をゴッソリ持っていかれたからだ。
 調度俺と一夏が寮に来た時に政府の公式発表が終わったらしく、そのおかげで入った途端皆
からの興味の視線が俺に降り注がれた。……視線だけだったらまだマシだったか。一拍置いて
色々聞き出そうと突撃してくる女子、女子、女子。
 おまけに皆ラフなルームウェアで、男の目を気にしない格好。結構ギリギリなのも多数。
 ――まぁ、俺も健全な男子という訳で。そこで精神力をゴリゴリ削られた。さらにその面々
から逃げるのに体力を使用。結局は人数に勝てなくて質問攻めにあったが。
 おかげで相当美味い晩飯と、銭湯レベルの広さだが一人で使うには十分すぎる広さの大浴場
にゆっくり浸かったと言うのに疲れが抜けるどころか倍増しやがった。
 唯一の収穫は、必死で逃げている時に一夏の部屋はやっぱり箒と同室だと分かったことか。
 逃げ回っている時に木刀がクリーンヒットしたらしき爆音が聞こえたのと、夕食時に一夏が
頭を擦っていたのを見ると一夏が箒を怒らせたのも分かったが。
 本来ならこのままグッスリ寝てしまいたいのだが、どうしても寝る前にやっておかなければ
ならない事があるので体をベッドから起こし、枕元にあった携帯からある番号にかける。

 プルルルルル……プルルルルル……プルルルルル……

「はいこちら白河重工」
「よっす、親父。俺俺ー」

 コール三回の後に聞こえてきた声は聞き覚えのありすぎる野太い声。
 むしろこの声を忘れたら色々とマズイ、俺の父親の声だ。

「お、雷人か。こっちに掛けて来たから一瞬今日の公式発表に関する難癖付けかと思ったぞ」
「ゴメンゴメン。話の内容がアレだからさ、こっちに掛けた方が良いかと思って」

 普段ならとっくに締め切られているはずの会社への電話なのだが、どうやら今日の公式発表
で色々と難癖が来ているらしくまだ締め切られていなかった。
 おかげで親父の声にちょっとした疲労の色が見えるし、後ろから僅かにだが引っ切り無しに
電話のコール音が聞こえてくる。
 何と言うか……うん、三年前から本当にゴメン。親父も母さんも、従業員のおっちゃん達も
気にするなとは長年言ってくれているがやっぱり気にしてしまう。
 そして俺が電話を掛けた理由は、ある物のためだ。

「確かに俺も母さんも今日はこっち缶詰で家は留守電だからな。良い判断だ。で、用件は?」
「あー、来週の月曜にちょっとした事情でISバトルやることになってさ。二週間前の実技試験
で千冬さんにボッコボコにされた俺のIS、修理間に合う?」

 ……そう、ある物というのは千冬さんとの実技試験で大破にまで追い込まれた俺の専用機。
 コイツの修理がオルコットさんの試合までに間に合うかどうかの確認だ。
 まぁ、本当はちょっとした確認で間に合うかどうかは微塵も心配していないんだが。

「それなら間に合うどころか本体とお前が一番得意なパッケージはとっくに修理終わってる。
ギリギリで良いんならパッケージもあと一つは間に合うぞ」

 予想はしていたが流石親父とおっちゃん達。既に終わらせてやがった。通常ならあそこまで
ハデにぶっ壊れたら修理に一ヶ月は掛かるのを二週間で済ませるとは。
 ……いや、親父達の事だ。必要になるのを分かってて本体と得意な奴を優先したんだろう。
毎度毎度思うが全く持ってこの人達には頭が上がらない。

「いや、ギリギリだと修理終わった後の慣らしとかが出来ないからその状態で送ってくれる?」
「そうか。なら今日一夏君の専用機も完成したから、一緒にそっちに送って調度良かったか。
多分明後日にはそっちに届くはずだぞ。ガッハッハッハッハッハ!!」
「……相変わらずというか何と言うか、流石だな親父」

 流石は父親と言うべきか……何と言う予知能力。既に届け済みなのは予想してなかった。昔
から妙にタイミング良く色々用意していたがコレはタイミング良すぎだろう。
 そして一夏の専用機も完成していたとな。用意良すぎてもはや末恐ろしいレベルだこの親父。
本人から聞いた話だと、某宇宙戦艦の技師長に憧れてこの職に付いたのは伊達じゃねえ。

「ま、どっちも完璧に仕上げてるから安心しな」
「そこの所は信頼してる。……それじゃ、仕事の邪魔になるからもう切るよ」
「悪いな。お前に取っては三年ぶりの自由だ。学生の本分を大事にしつつ、青春を謳歌しろよ」
「そりゃもう、楽しませてもらうよ。それじゃおやすみ!」
「おやすみ。歯ぁ磨けよ!!」

 古いな! とツッコミを入れようとしたがやはり忙しいのか、電話は切れてしまった。
 会話の内容はともかく、俺と一夏の専用機については目処が完全に立った。
 一瞬、一夏に電話して伝えようかと思ったがアイツの事だから興奮して寝不足になってただ
でさえ付いていけない授業に付いていけないのが目に見えるので却下。
 会う機会は明日以降もタップリあるから、適当なタイミングで伝えれば良いかと思いつつ、
俺は部屋の電気を消してかなり高そうな羽毛布団にもぐりこむのであった。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
後書き
待っていただけたのなら幸いの3話です。
ようやくある程度出てきた雷人のバックグラウンド。
冷静に考えれば三年前からIS使用+専用機持ち+実家が大企業って相当なハイスペック。
それでも千冬さんに勝てないのは千冬さんが人類最強だからです(出席簿アタック

そして一夏は、完全にどこか締めるネジを間違えました。
最初は原作と同じだったのに……どうしてロマン溢るる男になったんだ。
この分だとシャルロットも締めるネジを間違えそうで怖いです。
……華も恥らう乙女の武装がリボルバー式パイルバンカーですよ。
何でその武装を装備しているのか、私は彼女に問い詰めたいそして褒め称えたいです。

次回の予定は白式お披露目+セシリアとのISバトル。
4話目にしてようやく主人公のIS登場です。いやー長かった……。
第4話、気長にお待ちいただけると幸いです。



[27016] 第4話「白と蒼」
Name: 雷光◆2c4c4cde ID:cbe6150b
Date: 2011/04/17 01:10
 IS学園の入学式から二日後。俺と一夏の周囲は素晴らしいほどハチャメチャでドタバタだ。
 公式発表で俺の事が知れ渡ってからは、俺も一夏と同じような目に会うようになって来た。
具体的には質問攻めとか、食事の時に隣の席争奪戦とか。
 初日の一夏の苦労を身を持って知る羽目になるとはな……本当よく頑張ったな一夏。
 他には……箒がISの開発者である束さんの妹である事が知れ渡った事と一夏の剣道の腕が
鈍っている事に箒が怒って稽古を名目に会う機会を作った事とぐらいか、特筆事項は。
 前者はそのせいでちょっと箒がクラスから孤立しかけたが、そこは一夏がナイスフォロー。
こういう所のフォローは本当一夏は上手い。俺が入る隙間なかったぜ。
 後者はどうも一夏の奴、中学時代は三年間帰宅部だったため剣を握っていなかったようだ。
一夏の家の事情は知っているから、こればかりは仕方ないかもしれない。昔は箒より一夏の方
が強かったからなぁ……箒としてはそれが許せないんだろう。
 尤も、箒は一夏と一緒に何か出来る。それが一夏の力になるのが嬉しいのだと思うが。
 恋する乙女の思考回路だなと思うのは、俺が傍観者だからだろうかね?



 さてさて、そんな風に過去を振り返ったところで今に戻ろう。
 現在はその入学式二日後の放課後。場所はIS学園の敷地内に複数あるアリーナの一つ、今度
俺とオルコットさんがバトルをする第三アリーナのピット。
 ここにいる面子は一夏・俺・箒・千冬さん・山田先生の五人。
 ……そう、入学式の夜にあった親父との電話通りの日程で俺と一夏の専用機が届いたのだ。
多分と言っておきながら確実に来ているのは親父の場合はいつもの事なのでツッコミは不要。
と言うか親父のする事に一々ツッコミを入れていたら身が持たねえ……っ!!

「それで、このコンテナに一夏の専用機と雷人の専用機が入っているのだな?」
「ああ。二人が来る前に確認したが右が俺の、左が一夏のだ」

 目の前に鎮座している人一人がスッポリ入れるサイズのコンテナ×2(側面にデカデカと白河
重工の社名入り)を見ながら箒の言葉に答える。
 この場にいるのはさっき上げた五人だが、順番的には俺、千冬さんと山田先生、一夏と箒の
順でここに来ている。俺が一番なのは、俺じゃないとこのコンテナは開けられないからだ。
 先生方にもロックの解除コードを教えておいてやれよ親父……。

「とりあえず、初期化フォーマット最適化フィッティングがあるから一夏の方から開けるぞー」

 そう言いながら、コンテナに備え付けられたテンキーの前に立ち、開ける準備をする。
ツッコミが来ないのは、ここにいる面々は俺の真実を知っているからだ。……つまり、教師の
二人はともかく箒に関しては一夏が即行でバラした事になる。箒には許可は出してあるが、
だからって早速バラすなよと俺は思う。
 ……と、それはともかく。テンキーを叩いてロックの解除をする。9・8・1・4……何で解除
コードが某サイドカー型バリアブルビークルの命令コードの一つなんだよと思いつつも入力。
 ピッという短い電子音の後にロックが解除され、空気が抜ける音も聞こえる。そして、コン
テナが鈍い駆動音を響かせながら開きその内部に隠された物の正体が暴かれていく。
 そこに居たのは――――白。真っ白。飾り気の無い、無の色。眩しい程の純白を纏ったISが
その眩いばかりの装甲を解放し、自らの主となる操縦者を待っている。

「これが、俺の……」
「ああ、コイツが一夏専用のIS『白式』だ。元々は倉持技研で開発されていた機体を束さんが
貰い受けて作ったものとの事だ。一部システムの組み込みとその調整、最終開発は白河重工ウチ
やったんだけどな」

 実は昨日、親父から電話が掛かってきて白式の開発についてある程度の事を聞かされた。今
話した事はほぼその時聞いた事そのままだ。
 が、ISの一機や二機、簡単に作っちまう束さんが何で白式の一部開発を実家に頼んだのかは
俺も親父達も詳しくは知らない。一応、ウチにしかないアレだと当たりは付けているが。
 まぁ、あの天才と何とかは紙一重を地で行く人の事だから、考えても仕方ないだろう。

「……ってことは、俺も白河重工のテストパイロットになるのか?」
「いや、今はそうじゃないが一夏さえ良ければ登録できるぞ?」
「白河君は既に企業所属で登録されてますが、織斑君は登録がありません。ですので今も一部
の国から政府に織斑君の引き渡し要求が来ています。今は学園が保護していますが、卒業後は
流石にどこかに所属しないと厄介な事になります……」

 そう、山田先生の言う通り俺は公式発表で実家のテストパイロットに登録されているし今は
IS学園に通っているおかげで保護されている。一夏も学園の保護を受けているが、登録が無い
ので少々厄介な事になっている。

「ならば一夏、雷人の実家に登録してもらえれば調度良いのではないのか? 昔から雷人の親
は何かとお世話になっているから、信頼も置けるだろう?」
「おう、昨日の電話で親父も一夏なら大歓迎って言っていたぞ。それに、テストパイロットと
言っても時々稼動データを取って送ってくれれば良いだけだ。それで給料出るぞ」
「マジか!? なら雷人、親父さんに登録頼んで良い?」
「任せろ」

 サムズアップしながら一夏の言葉に答える。
 しっかし、ここまで露骨に給料に反応するとはな。そんなに千冬さんに養ってもらっている
のを気にしていたか。……そーいや、帰宅部だったのもバイトしてたからって聞いたな。

「纏まったようだな。時間が無いから始めるぞ。織斑、ISスーツは着ているな?」
「は、はい」

 ISスーツも一緒に送られていたので、一夏がここに来た時に渡して着替えさせている。尤も
一般的なISスーツは女性用なので水着やレオタードに近い形状だが、俺と一夏のは専用で上と
下に分かれている。
 上は腹部が丸々出るぐらいの丈で、袖も二の腕の上三分の一ぐらいしかない。下は逆に長く
膝丈ぐらいまである。腹部はIS展開時に装甲に覆われるから出ても問題無い。

「よし、ならばISに背中を預けるように座れ。後はシステムが最適化する」

 千冬さんの言葉に促され、白式の開いている装甲に身を預ける一夏。装甲は一夏の体に合わ
せて閉じていき、空気が抜ける音がして固定されていく。
 これで装着自体は完了したが、まだ一夏の専用機という訳ではない。装着した瞬間から白式
内部と外部で行なわれている初期化と最適化が終わって初めて一夏の専用機となるわけだ。
 今もこの瞬間、装甲は変化・形成され内部は一夏に合わせて書き換えられている。

「ISのハイパーセンサーは問題なく動いているな。一夏、気分は悪くないか」
「大丈夫、千冬姉。いける」
「学校では織斑先生だ。いい加減に覚えろ、馬鹿者が」

 ISに搭載されているハイパーセンサーは顔を動かさずとも360度全てを見渡せる。なので今は
一夏の後方にいる俺達の顔も見る事が出来る。普段ではありえない感覚なので、人によっては
酔う事があるが一夏は大丈夫そうだ。
 口では厳しい事を言っているが千冬さんも何だかんだで一夏のIS起動は心配だったようだ。
現に一夏の呼び方がいつもは苗字なのに名前になってて……ごふぅ!?

「余計な事は考えなくて良い、白河」
「はい、すみませんでした……」

 くそう、初日の一撃をガードしたせいか千冬さん、俺の時だけは叩き方変えてきやがる。
 おかげでガードが出来ないぜ……。とか何とか思いつつ体勢は最敬礼。

「織斑、用意が出来たらアリーナに出て自由に動いてそいつに慣れろ。三十分もあれば初期化
と最適化が終わって一次移行ファースト・シフトする」
「分かりました。箒、雷人。行ってくる」
「行ってこい、一夏」

 箒の言葉に力強く頷いて応えると、白式を浮遊させゲートに向かう一夏。
 カタパルトから打ち出されたその姿は、すぐにアリーナの空へと舞い上がって行った。







 千冬姉に言われた通り、アリーナの中で白式を動かす事30分。
 最初こそ勝手が分からなかったが、動かしているうちに何となくは理解できてきた。
 そう思った矢先の事だ。

――初期化フォーマット最適化フィッティングが終了しました。確認ボタンを押してください。

 そんなデータが俺の意識に直接送られてくると同時に目の前にウィンドウが現れ、その中央
には確認と書かれたボタンがある。
 データの単語の意味はまだ完全には分からないが、直感的に何かを感じ取った俺はその確認
と書かれたボタンを押す。
 すると、更なるデータが流れ込んで――――いや、違う。データが整理されているんだ。
 感覚的にそれを感じ取るとキィィィィィンという高周波な金属音と共に俺の全身を包むISが
光の粒子となり、また現れて新たなる形を構成していく。
 最初の工業的な凹凸は消え、滑らかな曲線とシャープなラインが特徴的などこか中世の鎧を
思わせるデザインへと変わる。
 どうやらこの変化が千冬姉の言っていた一次移行ファースト・シフトらしい。ISの内部も変わったからか
さっきと比べて白式が格段に扱いやすく感じる。
 これで本当にこの機体――――白式は俺の専用機となったわけか。

『お、終わったみたいだな。感じはどうだ?』
「何と言うかこう……長年使っている物みたいにスッゲーしっくりくる感じだ」
『それなら上等。本当は装備やそいつのシステムとかも説明したいんだが、それは明日以降な』
「え、何で?」
『アホ。時間だ時間。そろそろ切り上げんと飯に間に合わなくなるぞ』

 ISに搭載されているオープン・チャンネルを通して飛んでくる雷人の容赦ないツッコミ。
 ハイパーセンサーでアリーナにある時計を見れば時間は午後六時。……え、六時?

「ってもう六時!?」
『お前と箒が来るのが遅いからこんな時間になったんだろうが……。良いからさっさと降りて
来い! 片付けと移動時間含めると寮まで三十分は掛かるんだよ!!』

 寮の一年生用食堂で夕食が食べられるのは六時から七時。それ以降は売店か自炊でどうにか
するしかない。売店は夕食後もかなり競争率が高く、自炊は今食材があまり無い。
 ……って事はのんびりしてる場合じゃねえ!?

「わ、悪いすぐ降りる!」
『おう、とっとと降りて来い』

 そう言った雷人の表情は昔から良く見る苦笑だったが、身に纏っている雰囲気はこれが漫画
だったら怒りマークが一つか二つ付いていそうな感じだった。
 雷人は昔からあまり本気で怒らないタイプだが、その分一度怒りに火が付くと凄まじい事に
なるので怒らせるのは非常にマズイ。
 これ以上雷人を刺激しないように俺は至急的かつ速やかにピットへと戻っていく。……ん?
焦りすぎてなんか自分でも何を言っているのか分からないぞ?



 それから30分後。俺と箒と雷人は寮の一年生用の食堂で夕食を食べ終えていた。
 ISには待機形態と言う物があるおかげで片付ける必要が無くて助かった……。その代わり、
山田先生から貴方の街の電話帳に匹敵する厚さのIS起動におけるルールブックを貰ったが。
 これも読めとなったら参考書もあるから俺は軽く死ねるぞ。……いや読めって言われてた。
やべえ本当に死ねる。
 それと、時間が無くて見ることは出来なかったが雷人は既にISを受け取っていると聞いた。
何でも、もう一つのコンテナの中に入っていた雷人のは修理が終わった奴で俺が白式に慣れて
いる間に既に受け取ったと本人から聞いている。
 雷人のISの待機形態は金色の変形六角形のドックタグ。今も首から下げている。そして白式
の待機形態は白いガントレット――――と言うよりはリストバンド。右腕につけてある。

「……そう言えば、雷人のISの名前って聞いてなかったな」
「そうか、一昨日一夏は雷人から本当の話を聞いていて政府の発表を見ていなかったのだな」

 ふと思い出すと、頼んでも居ないのに補足してくれる箒。ちなみに一昨日の夜に箒に雷人の
ことを話したら翌朝思いっきり雷人に蹴られた。
 いやむしろ蹴られた言うよりはどこぞの黒カブト虫ばりに踏みつけてからそのままスタンプ
だったか。あれ、無茶苦茶エグイコンボだと俺は思うんだけど。

「まぁ、見た目は今度の試合で見れるからそこまで秘密にして」
「秘密なのかよ」
「そっちの方が面白いだろ?」

 当然だろと言った顔で言ってのける雷人。いや確かに初出撃で新型機お披露目ってのはある
意味一種のロマンと様式美だけどさ。

「まぁ、今の全部本気だけど機体名は流石に明かさないとな。俺のISの名前は――――――」






「――――――ブルーナイト」

 同時刻。生徒寮、セシリアの部屋にて。
 部屋の椅子――特注品のインテリア――に座り、優雅に紅茶を飲みながらセシリアは手元の
資料に書かれたそのISの名前をポツリと呟いていた。
 本当は一ヶ月の間、雷人もこの部屋なのだが現在は二人が決闘すると言う事で同居は延期。
なので今セシリアは二人部屋を個室として使っている状態だ。

「正式名称はブルーナイト・アーキ。白河重工が開発中の第3世代型ISで同社の主力製品である
同名の工業用パワード・アーマーが元。カタログスペックは……第3世代型にしては尖った所が
無いですわね」

 公式では雷人の存在もその専用ISも発表されたばかりのため、公開されている資料は少ない
のだが、そこはオルコット家の現当主及び代表候補生。
 家のつてと政府の協力でこの短い期間では十分すぎる情報が集められた。
 ――――セシリアが知る由は無いのだが、雷人の機体は既に二年前に完成している。よって
実は相当のデータがあるのだが、その殆どはまだ機密扱いで公開されていない。

「カタログ上とは言え、通常は実験機の意味合いが強い第3世代型でここまで性能を纏めるとは
中々侮れない相手になりそうですわね……」

 尖った所の無い機体と言うのは大体の場合、機体性能での誤魔化しが効き難いため使用者の
腕がダイレクトに反映される。
 そのため場合によっては一番相手にし易く、同時に一番相手にし難い。
 だが、セシリアにはそれ以外にもう一つ、気になる事があった。

蒼き騎士ブルーナイト……わたくしの蒼い雫ブルー・ティアーズと相対するには相応しい名前ですわね」

 迫る決闘の相手は自らの愛機と同じ色の名を持つまだ見ぬ機体。
 神が与えた必然か、それとも神の気まぐれによる偶然か。少なくとも、セシリアの心は迫る
決闘とその添えられた演出で心躍っていた。
 ――――その心の一部に戦いへの期待とは違う心の高まりを秘めつつ。


 現在、四月四日。決闘の日取りは月曜日、四月九日。激突の時は――――近い。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
後書き
予定ではセシリアとのバトルまで行くはずだったのに、予想以上に白式の起動が長くなった……OTL
バトルに期待していただいた方々、本当に申し訳御座いません。
主人公のISは名前だけ登場。タイトルにも冠されている名前ですので、今更感が無いでもないような……。

原作では一夏の所属は決まってないみたいなので、この小説では雷人と同じく雷人の
親の会社のテストパイロットにさせていただきました。
また、二人の決闘の日付は、原作1巻にて『今日は箒に睨まれたから、四月九日、箒記念日』という描写があったので
その日が一夏とセシリアのクラス代表決定戦なのだと推測し、この日付にしました。
なお、一夏のISスーツのデザインはアニメ準拠です。雷人も同じで、シャルロットの男装版は
後々どうするか考えますw
追記:試合はちゃんと入学式から一週間後に行なわれたようなので、日付を六日から四日に変更しました。

次回は間違いなくバトルです。ブルーナイトもちゃんと出ます。
既に大学が始まっているので執筆ペースが今より下がりますが、気長にお待ちいただけると幸いです。
そして感想を下さる方々、本当にありがとうございます。執筆の励みになります。
現在は最新話投稿と同時に返信しておりますので返信も気長にお待ちいただけると幸いです。



[27016] 第5話「激突、蒼い雫VS蒼き騎士」
Name: 雷光◆2c4c4cde ID:cbe6150b
Date: 2011/04/17 01:09
 そんなこんなで俺が白式を受け取ってから更に五日経ち、四月九日――入学式から一週間の
月曜日、雷人とセシリアの決闘当日がやってきた。
 今はもう授業も終わり放課後。二人の決闘が行なわれる第三アリーナはどこから情報を聞き
つけて来たのかクラスの面々だけではなく他のクラス、学年の人達でほぼ満員だ。
 そして俺と箒は第三アリーナのAピットにて雷人の応援をすることになった。千冬姉曰く、
アリーナでの戦闘の様子はモニターで見れるから、ピットで見た方が見やすいそうだ。

「――――なあ、箒」
「何だ、一夏」

 一週間の同居生活のおかげなのか、放課後の剣術指導のおかげなのか。はたまた箒の方から
言い出したISの特訓のおかげなのかはっきりしないが、箒とは名前で呼び合う仲に戻れた。
 どうやら俺が思っていた以上に六年の溝は浅かったらしい。

「雷人の奴、本当に大丈夫なのか?」
「見たのは一度だけだが、少なくともお前よりはISを動かせるみたいだがな……」

 チラリと視線を動かす箒。その視線の先では、袖が肘の先まである事以外は俺のISスーツと
ほぼ同じで色違いのISスーツを着て屈伸や伸脚などの準備体操をする雷人が居る。
 そう、雷人の奴は俺が白式を起動した翌日から今日までの四日間。一度も自分のISを出す事
無く俺のISの特訓――――主に実技を手伝ってくれた。
 一回何故自分のISを出さないかと聞いたんだが、その答えは俺が白式を起動した日にも近い
事を言っていたが『秘密の方が面白い』と言うもの。
 昔からそういうロボット物の新機体お披露目の時の定番と言うか、お約束みたいなのが好き
だったがまさか本当に今日まで実践するとは思ってなかった。
 箒が言ったように、雷人のIS操縦技術自体は一度だけ何とか借りられた学校の打鉄で見れた。
当然だが、俺よりもずっと上手くISを動かしていたが……それでも不安は残る。

「白河、そろそろ時間だ。準備しろ」
「了解です」

 俺達とは向かい合う形で山田先生と一緒に様子を見ていた千冬姉に応答する雷人だったが、
その口調に普段ある程度混じっている軽さは少なく、目付きも真剣そのものだ。
 準備と言っていたが、実は元々俺達と千冬姉達は雷人がすぐISを展開できるようにある程度
距離を取っていたので特に準備も何も無いんだけどな。

「来い、ブルーナイト!」

 雷人の叫びに呼応するようにドッグタグがはじけ、雷人の体を粒子が包み込む。時間にして
約0.5秒と言ったところで粒子が再構成され、雷人のISがその姿を初めて現す。
 その姿形は俺の白式や訓練用の打鉄、教科書に載っている一般的なISとは全く違っていた。
一際目を引くのがその全身ほぼ全てを装甲で覆った姿。装甲が無いのは肘と膝ぐらいだ。顔も
後部がやけに長い――襟を飛び出して、背中にあるバックパックに付いているパーツ近くまで
ある――ヘルメット状の装甲に覆われて全く見えず、今は機体の赤い瞳が見えるだけだ。
 また、通常は非固定浮遊部位アンロック・ユニットという物がISには付いているが、雷人のISにはそれらしき物が
全く見当たらない。代わりに腕や胸、足など一部に何かを取り付けるような穴が開いている。
 さらに、通常は簡略化される事の多い脚部は人間の足そのままの形をしている。歩く、走る
どころかキックも出来そうだ。
 機体の装甲の色は名前通り蒼く、肩鎧の一部や籠手などは金色。腹部や太腿の裏など一部は
灰色とISにしては色使いが多い。機体のデザインも刺々しい直線と柔らかな曲線を併せ持ち、
騎士の名前通り西洋の騎士の鎧をモチーフとしたデザインとなっている。
 一目で試作機と分かり、今までのISとは方向性が違うのが見て取れるが……どこか、雷人が
好きなアニメのロボットやヒーローのような印象を受ける。
 実は俺の心の中にもちょっとだけあり、今は眠っているそれらへの憧れ。その眠りを覚ます
かのような姿に、気付かぬうちに俺は見とれていたのだった。






 およそ三週間ぶりに起動した俺の愛機、ブルーナイト。二週間前にスクラップ寸前まで大破
させられたのが嘘のようであり、それ以前と変わらず俺と繋がる。

 ――――機体各部、異常無し。スラスター全機、正常稼動。シールドバリアー展開完了。IS
コアからのエネルギー供給、問題無し。副動力炉正常稼動。ISコアからのエネルギーとの並行
使用率、50%台。……戦闘への支障は無し。

 ISに搭載されている各種センサーが機体の各部の状況を逐一報告してくる。この機体にだけ
搭載されている特殊システム――というか副動力炉――も普段より少々並行使用率が下がって
いるが戦う分には問題は無いとハイパーセンサーが伝えてくる。

 ――――装備選択及び単一仕様能力ワンオフ・アビリティ制限、現在設定されていません。
(装備は近接戦闘用ブレード『コアブレイド』とシールド『ブレイシールド』を展開オープン。単一仕様
能力は一部機能のみ解放し残りはロック)
 ――――了解。コアブレイド及びブレイシールド展開。単一仕様能力、一部を除いてロック。

 ハイパーセンサーの問いかけに俺は口に出す事無く、意思を伝える。
 その意思を汲み取ったISはすぐさま右手には刃渡り65cm、全長約1.3mの両刃西洋剣型近接戦
闘用ブレード『コアブレイド』が、左手には幅広の両刃西洋剣の刀身の形をしたメイン部分と
その横に一つずつ付いた小さな盾状の部分からなる全長85cmのシールド『ブレイシールド』が
展開される。
 同時に展開されていたウィンドウの一部データにロックが掛けられ、一部を除いて単一仕様
能力が使用不能となった事を伝えてくる。

 ――――戦闘待機状態のISを感知。操縦者セシリア・オルコット。ISネーム『ブルー・ティ
アーズ』。第三世代型IS、戦闘タイプは中距離射撃型。特殊装備有り。

 更に搭載されたハイパーセンサーがオルコットさんのISの存在と情報を知らせる。
 ちなみに長い事掛かっている様だがこの起動してから今に至るまでの間、僅か10秒だったり
する。基本的にISの起動やら何やらは無茶苦茶早いのだ。

「白河、行けるな?」
「勿論ですとも」
「そうか。ならば調子に乗っている天狗の鼻っ柱を叩き折って来い」
「容赦無いですね……」

 ハイパーセンサーを使い、千冬さんの方は見ずに応答する。その容赦の無い物言いに思わず
苦笑してしまった。気を紛らわすための冗談か、本気発言か……千冬さんなら後者だな。

「雷人、気をつけるのだぞ」
「頑張れよ、雷人!」
「箒、一夏。サンキュ。勝ってくる!」

 二人の幼馴染の激励にはサムズアップと共に答え、機体を僅かに浮遊させて前進。
 カタパルトとなっているピットゲートに機体を接続し、発進の時を待つ。

 ――――ゲート解放まで残り2.05718422秒。発進準備完了、どうぞ。
「白河 雷人、ブルーナイト。行きまーす!」

 某機動戦士の初代風な発進の叫びと共に機体が加速、光が見えた次の瞬間にはアリーナの空
へと機体が踊り出る。PICによって浮遊した機体は重力に逆らって上昇。今回の決闘の相手が
居る場所まで高度を上げる。

「今のタイミングでボケるか!?」
「雷人の妙なボケは昔からだ。一夏、気にしたら多分負けだと私は思うぞ」

 敵は近い。先程の俺の叫びに対するピットからの一夏と箒のツッコミをハイパーセンサーが
捉えたが、とりあえず今は聞かなかったことにしよう。後で問い質すけどな。






「あら、逃げずに来ましたのね」

 彼女がすると妙に様になる腰に手を当てたポーズで、ふふんと鼻を鳴らすセシリア。
 既に彼女のIS『ブルー・ティアーズ』は展開されており、鮮やかな青色の装甲が太陽の光を
浴びて輝いている。
 背負った四枚のフィン・アーマーと両腰サイドから伸びるロングスカートのような趣を持つ
装甲が特徴的な外見からは王国騎士のような気高さと、姫君のような優雅さが感じられる。
 セシリアの手に握られているのは全長2mを超す長大な銃器――67口径特殊レーザーライフル
『スターライトmkIII』。ISは元々宇宙空間での活動を前提として作られているため、原則宙に
浮いている。このように自身の背丈より大きい武器を扱うのは珍しくない。
逆に雷人のように取り回しを考慮して背丈よりも小さい物も数が多く、珍しいわけでもない。

「一度受けて立った決闘だ。逃げるわけにはいかんさ」

 普段の調子で言い返す雷人だが、ISの装甲が顔も覆っているためその表情は見えない。
 一応、雷人が喋るのと連動してISの赤い瞳がピカピカ光っているが……表情を読み取る助け
には全くなっていない。むしろ何故光るのかと言いたいぐらいだ。

(あれがブルーナイト……。資料には姿がありませんでしたが全身装甲フル・スキンタイプだったとは。
シールド持ちなのも踏まえれば恐らく、スペックデータ以上に防御力は高いですわね。ですが
逆に機動力と中・遠距離戦闘能力はこちらが上。かく乱し、中・遠距離戦に持ち込めば……)

 実際に見たブルーナイトの姿とその武装、既に持ち合わせているスペックデータから即座に
対処方法を構築するセシリア。
 実際、数は少ないが全身装甲フル・スキンのISは一般的なISと比べて機動力が劣るがその分防御力が高い。
一般兵器相手なら、シールドバリアーと絶対防御も相まって無敵とも言える防御力を誇るがIS
同士の戦いは高速戦闘であり、シールドエネルギーの削り合いとなる。
 その場合は逆に重装甲が災いして動きが制限されるため、全身装甲フルスキンの方が不利なのだ。
 セシリアは言動こそ高飛車だが、戦闘において最も効果的な戦術を即座に選べる辺りは流石
代表候補生と言った所か。

「最後のチャンスを上げますわ」
「チャンスだと?」

 空いてる右手を雷人に向け、ズビシッと人差し指を向けるセシリア。挑発的な笑みを浮かべ、
目を細めているがハイパーセンサーはすぐに第一射を放てるよう戦闘態勢に移行している。

「わたくしと貴方の腕の差を鑑みれば、わたくしがが一方的な勝利を得るのは自明の理。です
から、ボロボロの惨めな姿を晒したくなければ、今ここで謝ると言うのなら、許してあげない
こともなくってよ」
「残念ながらそれはチャンスじゃなくて無条件降伏だな。丁重に断らせてもらうぜ」
「そう? 残念ですわ。それなら――――お別れですわね!」

 アリーナの直径は200m。二人の位置取りと距離では発射から着弾までは0.4秒。
 開始のゴングと同時にセシリアのスターライトmkIIIが火を吹き、レーザーライフル特有の
甲高い音と共に閃光が放たれる。

「甘いなっ!」
――――敵機、ダメージ0。実体シールドによって防御。対レーザーコーティングを確認。

 その閃光が届く直前、ブルーナイトはブレイシールドを構えて防御。予めブレイシールドに
施されていた対レーザーコーティングによってダメージは0に抑えられる。
 無論、その情報はすぐにハイパーセンサーを通しセシリアに伝えられる。

(対レーザーコーティングシールドとは中々厄介なものを持ってますわね……)

 第3世代型ISの登場と同時に現れたレーザー及びプラズマを使用した光学兵器。実弾兵器と
比べて遥かに高い破壊力と速度を持つこの兵器に対抗するために開発されたのが対レーザー・
プラズマコーティングである。
 これを使えばレーザー・プラズマ兵器の威力を大きく減らす事が出来るが、その効果は永遠
ではなく、一回の塗装で完全に防げるのは直撃で精々2~3回。おまけにコストも高い。
 そんなまだ開発途上にある技術だが、兵装の殆どがレーザー系であるブルー・ティアーズに
取ってはかなり厄介な相手である。

「案外やりますわね。ならばこれで!」

 スターライトmkIIIを連射して弾幕を張りつつ、ブルー・ティアーズに搭載されている特殊
装備、特殊BTレーザー兵器『ブルー・ティアーズ』――機体名と同じ名前でややこしいので以下
ビットと呼称――を四機展開するセシリア。
 雨霰と降るレーザーの弾幕を、ブルーナイトはセシリアの予想より遥かに軽快な動きで回避
していく。

「さあ、踊りなさい。わたくし、セシリア・オルコットとブルー・ティアーズの奏でる円舞曲ワルツで!」
「OK、プリマドンナ。そのダンス、付き合わせて頂きましょう」
「あら、貴方にレディのエスコートが出来まして?」
「出来ますとも。そちらが踊り疲れるまで、しっかりさせて頂きますよ!」
「それはそれは……楽しみですわね!」

 セシリアの時代掛かった物言いにノリノリで返す雷人。
 そのノリに気分を良くした主演女性歌手セシリアはビットを二機、多角的な直線機動で向かわせる。
 対する雷人はビットとスターライトmkIIIから放たれるレーザーをある物は回避し、ある物は
着弾地点をずらしてブレイシールドで防御する。
 同じ色を持つ二機の戦いは、分刻みで過熱していくのだった。






(ブルー・ティアーズを前に20分。初見でこのダメージ量……本当に専用機を受け取って数日
の動きですの!?)

 表にこそ出していないが、内心は信じられないといった様子のセシリア。
 彼女がそう思うのも無理は無い。決闘が始まって20分経つが、未だブルーナイトのシールド
エネルギーは三桁を保っている。
 流石に対レーザーコーティングが剥がれてブレイシールドの一部にはレーザーによる焼け焦
げたような跡が出来、ブルーナイト本体にも何箇所か損傷が見られる。しかし、全身の装甲が
厚いおかげかシールドエネルギー残量と比較すれば損傷は軽微な方だ。
 対するブルー・ティアーズは損傷は少ないながら、シールドエネルギー残量はブルーナイト
と似たような状況だ。その理由はブルーナイトが装備を時折剣から前後に銃口を持つ銃に変更。
その銃の後ろ側の小さな銃口からのレーザー弾連射ぐらいしか攻撃をしてこないからだ。
 一発一発の威力はレーザー弾にしては小さく、バリアーシールドを貫通するほどでは無いの
だが、連射力がサブマシンガン並に高い。おまけに雷人が的確にセシリアの行動の隙を付いて
撃ってくるため、損傷の割にシールドエネルギー残量は少ない。
 二機ともシールドエネルギー残量は150少々。畳み掛ければ決着は付きそうな数値だ。

(特殊レーザー兵器……それも自動規律型か。データが少ない上に、オルコットさんの扱いが
上手いから思ったより被弾が目立つな……。だが、データや癖は大体集まった。エネルギーの
残量を考えればこっから畳み掛けさせてもらうぞ!)
(ですがそれなりに被弾はしている……。残量も考えれば畳み掛けるなら今!)

 互いに相手のシールドエネルギー残量は自分と同じぐらいだと分かっていたためか、ここで
一気に畳み掛け勝機を呼び込もうと言う思いは雷人もセシリアも共通だったようだ。
 そのため、図らずとも互いのアクション開始は同時となった。

「行きなさい、ブルー・ティアーズ!」
「行くぜ、ブルーナイト!」

 左腕を横に振るい、四機のビットを一斉にブルーナイトへ向けるセシリアとブルーナイトを
セシリアのブルー・ティアーズに向けて加速させる雷人。
 ブルーナイトは四機のビットとスターライトmkIIIからのレーザー掃射を巧みに避け、すれ
違い様にビットの一機を右手のコアブレイドで切断。その爆発を背に勢いはそのまま身を捻り、
左手のブレイシールドのメイン部分でもう一機切断する。

「切断能力があるシールドですって!?」
「見た目通りだぜ? それにこの兵装の弱点、見切らせてもらった」

 驚きながらも右腕を振るうセシリア。残った二つのビットの機動は遠方からブルーナイトを
挟み込み、ISのハイパーセンサーでは捉えられるが人間の反応では遅い地点――真上と真下に
位置どる機動だ。
 だが、雷人はそれを既に予想していたのかすぐさま両手の武装を収納クローズ。換わりに今回の戦い
でも何度か使用している前後に銃口を持つ銃をおよそ0.7秒で展開オープンする。
 ビットが調度真上と真下に来た瞬間に今まで使っていなかった前方の銃口が火を吹き、威力
重視のレーザー弾がビットを二機同時に貫いた。

「この兵装は毎回命令を送らないと動かない。そして操作中は、制御に集中するためこの兵装
以外の攻撃はできない。この距離――――取ったぞ!!」
「確かに貴方の言う通りですが――――かかりましたわね」

 自らの兵装の弱点を看破され、四機とも破壊されたにも関わらずセシリアはにやりと笑う。
彼女の機体の腰部にあるスカート状のアーマー。その突起の一部が外れて動き、新たな二機の
自動規律兵器がその姿を現した。

「おあいにく様、ブルー・ティアーズは六機あってよ!」

 姿を現したビットは、そのまま一直線にブルーナイトへと突撃していく。それは先程までの
レーザー攻撃を行なう『射撃型ビット』ではなく、弾頭を発射する『弾道型ミサイル』だ。
 先程のビット撃破からブルーナイトは武装を銃に変更したままだ。武装変更速度はかなりの
物であるが、流石にこの距離ではブレイシールドへの変更は間に合わない。
 刹那、ドカァァァンッ!! という爆音と共に蒼き騎士の姿は赤を越えて白い爆発と閃光の
中に消えていった。



「雷人ぉっ!?」
「雷人……っ!」

 ブルーナイトが爆発に包まれた瞬間、ピットのモニターにて試合を観戦していた一夏と箒が
同時に悲痛な声を上げる。
 この二人、今まで雷人とセシリアの戦いを見ていて一度も喋らなかったのだが死なないとは
言え流石に良く知る幼馴染が爆発に飲まれては黙っていられなかったのだろう。
 雷人とセシリアの実力や機体特性について話しながら試合を見ていた千冬と真耶も、爆発の
黒煙に埋まった画面を真剣な面持ちで見ている。

「――――全く。一度相手をしたが改めて見ると無茶苦茶な機体だな、奴のは」

 黒煙が晴れかかった時、そこに映った何かの姿を見て呆れたように言う千冬。さらに黒煙が
晴れていき、そこに映る何かの姿が徐々に分かっていくと一夏・箒・真耶の顔は驚きに彩られ
ていく。
 黒煙が晴れた時、そこに居たのは――――――――



「あ、貴方……今まで初期設定だけの機体で戦っていましたの!?」
「残念ながら、一次移行ファースト・シフトはとっくの昔に済ませてあるぜ。ま、これがある意味ブルーナイトの
本当の姿――――だな」

 驚愕に目を見開くセシリア。彼女の目の前には、先程爆発と閃光の中に消えたはずのブルー
ナイトが姿を変えて存在していた。
 頭部は金色の鶏冠のようなパーツが大型化し、隊長機の証のような形状へと変貌。両肩・両
腕・胸には騎士の鎧のような装甲。両膝部分には銀色の長い片刃のブレード。膝に程近い脚の
側面には板を何枚も並べたような形状のスラスター。背中には大型のスラスターと今まで穴が
開いていた、あるいはパーツが付いていた箇所にパーツが追加、あるいは変更されている。
 ブレード以外は全てブルーナイト本体の物よりも濃い蒼色をしており、ブレードと肩装甲、
背部スラスターは一部が、胸と腕の装甲は縁が金色となっている。
 その両手に握られているのは、コアブレイドの刀身にブレイシールドのメイン部分が合体し、
柄の両端部分にブレイシールドの楯状の部分が合体した大剣。刀身は1mを超え、全長は雷人の
背とほぼ同等となったその剣は今のブルーナイトの姿にしっくりと馴染む。

「――――『ブルーナイト・ソード』。これがバランス重視万能型パッケージ『アーティファ
クト・ソード』を装備したコイツの今の名前だ。残念だが、隠し玉はそっちだけじゃーない」
「パッケージですって……? 情報はどこにも……それよりも貴方、いつの間に装備を!?」
「おいおい、馬鹿正直に政府とかからの情報信じてるのか? あー言うところの情報ってのは
自分等に都合が良いように程よく隠蔽、捏造、歪曲がされているんだぜ? 確実に信じられる
のは、この瞬間みたいに自分が見た情報だけさ」

 セシリアの問いに答えているようにも答えていないようにも見える回答をする雷人。ブルー
ナイトの顔を覆う装甲によってその表情はセシリアには見えないが、装甲の下の表情はどこか
ある種の諦めや苛立ち、諦観が混ざった複雑な苦笑であった。

「さて、さっきまでとは状況が様変わりしたが……当然、諦める気は無いな?」
「当然ですわ。わたくしはセシリア・オルコット。イギリスの代表候補生であり、イギリスの
名門オルコット家の現党首。この身に背負う祖国の名と誇り、そして我がオルコット家の誇り
のためにもこの試合、勝たせていただきますわ!」
「そうか。……俺はアンタほど重い物を背負っちゃいない。けれどな、俺にも譲れない物が、
守りたい物があるんだ。それらのためにもこの試合、勝たせてもらうぞ!」

 それぞれの得物を相手に向けて、高らかに宣言する二人。
 行動を起こしたのは先程と同じくどちらが合図したわけでもない同時のタイミング。弾頭を
再装填した二機のビットがセシリアの命令で再びブルーナイト・ソードへ向かい、雷人は再び
ブルー・ティアーズへ向けて加速していく。
 だが、新たに追加された背と脚のスラスターによってその速度は先程とは段違い。その加速
を載せた横一閃が多角形直線機動を取る二機のビットから放たれる弾頭を同時に両断。
 その衝撃が背に届くよりも早く、ブルーナイト・ソードの姿はブルー・ティアーズへと接近
していく。

「しまっ――――!?」
「アロン…………ダイトォッ!!」

 セシリアの懐に飛び込んだ雷人が腰溜めに構えた大剣――叫びから察すればアロンダイトと
いうらしい――を叫びと共に横一閃。そのまま一気にセシリアの後ろへと振り抜ける。
 光を纏った大剣の一撃は、回避は無理と判断したセシリアが殆ど反射的に突き出したスター
ライトmkIIIを破壊するに留まらずブルー・ティアーズの装甲を破壊し、バリアーシールドを
切断。絶対防御の発動領域にまで届いた。
 急速にブルー・ティアーズのバリアーエネルギーが低下し、ついにエネルギーは0となった。

『試合終了。勝者――――白河 雷人』

 下された勝利判定のアナウンスに歓声が巻き起こり、会場が一気に沸きあがる。
 だが、それと同時にセシリアのISが光の粒子となって消えていき、その体は重力に引かれて
地表目掛けて落下していく。

「オルコットさ……って気絶してる!? くっそ流石にアロンダイトのフルパワーはちょっと
やりすぎたかっ!?」

 調度アロンダイトを振り抜けた後、セシリアの方を見ていたので少々やりすぎた事を悔やみ
つつも、落下していくセシリアを助けるためすぐさま機体を動かす雷人。

「届いてくれよ……ブルーウイング!」

 雷人の叫びと共にアロンダイトが即座に収納され、同時に背中のスラスターも収納される。
その代わりに不死鳥の翼を模した煌くように深く、美しい青色の翼――ブルーウイング――が
背に展開される。
 翼を得たブルーナイトは先程の戦闘以上の速度を見せ、落下するセシリアに追い付くとその
手を取り、セシリアの脚と背を両手で支える――所謂お姫様抱っこの体勢で抱き止める。
 女の子の憧れ体勢&まさしく姫君を救い出した騎士という構図であるためか、観客から沸き
起こる歓声は決着が着いた時以上の物。中にはこの光景を携帯やカメラで撮る者も居る。
 そんな中、この歓声の中心人物の片割れである雷人はと言うと。

(人助けとは言え、ブルーウイングこれを出すのは流石にマズかったか……。後で絶対親父の雷が落ちるな)

 この後起こるであろう事を考えブルーナイトの頭部を覆う装甲の中で一人、程よく渋い物が
混ざった苦笑をしながら冷や汗を流していたのであった。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
後書き
はい、大学が始まったおかげでヒロイン補正ありにも関わらずここまで遅くなりました。
待っていただいた方が居るのなら、本当に感謝感激の5話です。
実はこっそり大学の空き時間を使ってノートPC持込で書いていたのですけれどねw

ようやく出来ました、ISの華の一つであるISバトル話。
ついに主人公のISも本格登場。ぶっちゃけ、武装の名前を考えるのに苦労しました。
一部は雷人を考える際にモデルになったキャラの機体の武装名が入りましたがw

名前の時点でピンと来て、今回の見た目及び武装の描写(説明下手ですが)、パッケージ名と装備後の姿、装備後の名前から
分かった人も居るかもしれませんが、ブルーナイトのモデルはボークス様より発売されているアクションロボットフィギュア
「ブロッカーズ」の同名機です。……結構マイナーな部類に入りますが、私はこれが大好きです。
ブロッカーズで検索すればすぐ引っかかるので、詳しく見た目を知りたい人はどうぞ。
ただし、今後のネタバレも満載という諸刃の剣ですが。
元から知っている方が居たら、最後に出てきた翼は……恐らく予想通りの物です。

次回予告は前回の失敗も踏まえ、無しの方向で進めさせていただきます。
第6話、待っていただけるのでしたら気長に待っていただけると幸いです。


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