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[25408] 【ネタ】プロジェクトR! (R-TYPE二次)
Name: ヒナヒナ◆2a9fd0bf ID:ec2c350f
Date: 2011/01/13 02:23
『プロジェクトR』



作者のヒナヒナです。
その他板で普段書かせていただいているのですが、
唐突に電波を受信したため、別枠で書いてみました。
その他板の「提督が往く!」とは微妙に相関があったりなかったり。



拙作を読んでくださる方にご案内します。
以下の事項にご注意ください。




・R-TYPEの二次小説です。

・完全なるネタです。宇宙から電波を受信したので書くことになりました。

・設定はR-TYPE FINAL準拠です。設定が多すぎるので書いていません。
 初めての方は、バイドっていう生物・無機物に憑いてゾンビっぽくしてしまう、生命体と戦っている世界で、
バイドに抵抗するために異相次元戦闘機R機っていう戦闘機を作っているTeam R-TYPEという開発チームがいると思って頂ければ。

・その他板で連載中の「提督が往く!」のスピンアウト小説ですが、
根本的に世界が違うため、むしろドロップアウト小説かもしれません。
「提督が往く!」でギャグ成分が切れたのでこちらで補給。

・「提督が往く!」のキャラが一部出てきますが、名前とか性格を新しく考えるのが面倒だっただけです。本編には関係ありません。



ではお楽しみください。



[25408] TL-T “CHIRON”
Name: ヒナヒナ◆2a9fd0bf ID:ec2c350f
Date: 2011/01/13 02:14
・TL-T “CHIRON”



散乱する書類、所狭しと置かれた端末、大型の機器類。
それはいかにも研究施設ですといわんばかりの光景だった。
端末のキードードを叩く、気だるそうで無精ひげを生やした中肉中背の男と、
機器の調整をする、眼鏡を掛けた細身の男がいた。
首から下げたセキュリティカードにはそれぞれ、メイロー、フェオと書いてあった。
両方とも肩書は研究員…つまり下っ端だ。
そこに、突然扉が開き、血色の悪い男が入ってくる。


「やばい、皆聞いてくれ。」
「うっ、班長。顔青い上に酒臭いぞ。」
「どうしたー。二日酔いで、重要書類にゲロぶっ掛けたか?」


メイローが鼻を摘まみながら嫌な顔をすると、フェオもはやし立てる。
この3人がこの研究室の主だ。


「いや、昨日の会議の後、軍部のお偉いさんと飲む事になったんだけど、
そこで昔のアニメーションについて、意気投合しちゃって…
そっから記憶無いんだが、さっき気が付いたら、この構想書もって、床で寝てた。」
「ん~。人型R機構想書。人型ってお前いつの時代の…うわ、これ決済印付いてるぞ!」
「メイローそれ貸して。…マジだ、ありえねぇ。決済印ついたら仕様書だけでも作らなきゃやばいだろ。」
「酔った勢いで、上に構想書出すとか班長やるな。俺も次から決済は酒の席で取る。」
「俺、人型の仕様書作らなきゃダメか?」
「だって決済印ついてるじゃん。引き戻しとか許されないだろ。処理済だから、引き戻すなら相当上の人に頼まないと無理じゃね。」
「…」


フェオが良い笑顔で止めを刺すと、二日酔いで青くなっている研究班長は撃沈した。



________________________________________



「と、言うことで人型R機の検討会を行います。」
「班長唐突じゃない。なんで、ホワイトボード持ってきてんのさ。」
「良い事に気がついたなフェオ。班長である俺が決済取ったので、この件は自動的にウチの班の連帯責任になります。」
「ふざけんな、俺たち巻き込むな。」
「聞こえんなぁ。大体お前ら俺すべてを押し付けて、面倒な会議欠席しやがったろ。その報いだ。」
「自分のミスだろー。」
「だべっていても始まらん。さあ、方向性をきめるぞ。ブレインストーミングだ。人型兵器といって想像するものを言え。メイローから交互に!」


強引に話を進める班長。とりあえず何でも良いから案を出させる事にしたようだ。


「無駄に足がある」
「機動兵器なのに超近接武装」
「センサー類は頭部につける」
「コックピットは胸部」
「精神論でリミッターが外れる」
「変形する」
「宇宙でチャンバラ」
「恥ずかしい二つ名がつく」


「…誰がダメだしをしろと言った!しかもそれほとんど昔のアニメーションの事じゃねーか!」
「人型兵器なんて真面目に議論する馬鹿は居ないから。発想が偏るのは仕方が無い。」
「お、じゃあ真面目に議論するの、俺ら世界初じゃね。」
「もういいや、仕様書だして突っ返されれば終わるだろう。
とりあえず、議論だけ詰めるぞ。人型兵器を想像して。はいもう一回メイローから。」


「軍人より素人のほうが操縦が上手い。」
「軍人の方は後で訓練施設送りだな。何故か量産機より試作機の方が強い。」
「むしろ本当の試作機は不具合の数が尋常じゃないんだがな。最後は愛でどうにかなる。」
「ちょ…バイドに愛を説くのかよ。さすがメイロー。あ、設計者は父。」
「フェオ…俺ら子供いないから無理だろ。家族…特に兄弟は裏切る。」
「甘い。裏切るが、終盤に古巣に戻ってくる。」
「裏切って戻ったら普通死刑だろ。むしろ固定武装を使わず殴る。」
「一発でマニュピレータがイカレそうだな。無駄に感情的なAI」
「ギャルゲーの仮想人格インストールしとけ。必殺技が音声認証式。」
「おい、波動砲撃つたびに叫ぶのかよ。物量には根性で勝つ。」


「おまえら、これまとめて提出するんだぞ!少しは使えるのをだせ!」
「誰の所為だ!」
「班長も意見だせよー」





________________________________________



ぐったりとした三人。
ホワイトボードは真っ黒になり、所々に丸や×がついている。


「なぁフェオ、俺たち一日かけてなにやってんだ。」
「いうなよメイロー、班長、俺達帰って良い?」
「仕様書の確定まで帰さん。この案の中から怒られない程度で、実現不能と思われるものをチョイスする。そうすれば課長に書類を突っ返されて終りだ。」
「もういいから、とっととやろうぜ。」
「じゃあこれとか。」
「これ無理過ぎて良いんじゃない。」
「さすがにそれは怒られるだろう。」
「どうせマトモなのないだろ。」
「あ、これ使える。」






________________________________________



「課長:レホス」と書かれた研究室の執務机の前には、班長が立っていた。
席には30代くらいの男。仕立てのいいシャツ、折り目正しいスラックス、ブランド物の靴下、
そして汚れた白衣を着て、履き潰したサンダルを履いている。
課長席に座っているから彼がレホスだろう。
レホスは仕様書と書かれた書類を見ている。


「ふうーん、で?これが仕様書?‘局所戦闘用人型R機について’ねぇ。」
「は、はい。その…これは…。」
「可変機、背面スラスター、武装はビームサーベル・鞭・背負い式波動砲…」
「………」
「音声認証式コマンドってなんのため」
「え?あー、えーと、それは、あれです。今のR機のように全てパネル選択式にすると、手が足りなくなります。音声認証式にすれば、操作の簡略化に繋がります。」
「ふーん…」
「…(やばい)」
「この外付け集中センサードームっていうのは何さ?」
「今のシステムですと、センサー類に不備が生じた際に、
機体を分解してそれぞれのセンサーを取り出す必要があります。そこですげ替えが簡単な外部ユニットとして取り付けます(誰だよ頭付けろって言った奴。)」
「これは何?」
「これはアレです。えーと…」
「こっちはどうすんの?」
「あー、あそこの技術を引っ張ってきて…」
「何これ?」
「うーあー…」






______________________________________



自分達の研究室で、寛いでいたメイローとフェオ。
そこに、息も絶え絶え帰ってきたのは彼らの班長だった。


「やっと終わった…」
「お、班長帰ってきたのか。」
「班長、ドアの前に寝られると邪魔なんだけど。踏むよ。」
「ふっふっふ…レホス課長の質問地獄に耐えたぞ。」
「…もうダメだな。おいフェオ、班長はほっといて飲みに行こうぜ。」
「外でなくても、精製水に炭酸ガスを注入した奴で、エタノールを割ればいだろ。」
「何だその不味そうな酒は。アルコールを摂取すればいいってものじゃないぞ。」
「体に入れば同じだろ。」
「ほう、ではそんなフェオ君にエタノールを直接注射してやろう。」
「ちょ…ばか、注射器でかい。99%エタなんて死ぬから。」
「大丈夫だって、実験用の特級試薬だから、変な不純物ないし。」
「ホントに血管注射は洒落にならん。メイロー迫ってくんな。」


平和なじゃれあいをした後、フェオとメイローは復活する気配の無い班長を残して帰って行った。


_____________________________________



翌週。再び課長室。
課長のレホスと班長が再び向かい合っていた。



「あのレホス課長。なんですか?これ?」
「ん?命令書。」
「…なんのです?」
「この前、君が持ってきた仕様書あったでしょ。ちゃんと上に上げといたから。」
「…。」
「顔が青いけど、どうしたのかなぁ。」
「い、いえ…。」
「あ、君の班は人型R機開発班ということで専属にしたから。あの仕様書盛りだくさんだからねぇ。
一機じゃ盛り込めないだろう。系統化することになったから。計画書よろしく。」



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「こんのアホ班長っ!頭悪いぞ。」
「人型R機開発班…うわぁ、マジかよ。」
「…スミマセン。」



班長が課長の部屋から戻ってきて10分後、
土下座する班長と、怒り狂うメイロー、ドン引きするフェオの姿があった。



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6ヵ月後…
人型可変機体のプロトタイプ
TL-T ケイロンが完成した。



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すみません。
その他版の「提督が往く!」を書いていて、ギャグ分が切れてしまったんです。
どうにかギャグ分を摂取しなくては…って結果がこのアホな短編です。
でも、書いていて楽しかったから、後悔はしていない。

またギャグ分が切れたら続くかも。



[25408] R-9DV“TEARS SHOWER”
Name: ヒナヒナ◆2a9fd0bf ID:ec2c350f
Date: 2011/02/07 20:20
・R-9DV“TEARS SHOWER”


「なあ、羨ましいよな。俺もあんな開発したかったさぁ。なんでうちはこんなんなんだ。そう思わないか、トレン。」
「目的語がないから分からん。」
「人型兵器だよ。ヒ・ト・ガ・タ。機械が好きでここに来たんだけど、やっぱり戦闘機タイプじゃ燃えないよな。ちゃんと二足歩行して、手にはビームサーベルかライフルを持ってさ。」
「ああ、5班のやつらのことか。」
「5班じゃなくて、名前も人型兵器開発班に変わったんだぜ。いいよな、憧れるさぁ。番号じゃなくて名前付きだし、研究室も広くなってるし。」
「黙って作業できないのか。エル。」
「あいつらがキャッキャウフフと人型の図面と戯れて、新型機を開発しているのに、
俺たちは、防護服着てバイド種子にエネルギーを食わせる作業なんて…研究者として間違ってる!」
「真面目にやれ。手元狂ったらバイド汚染だぞ。」


そこは部外者立ち入り禁止と書かれたエリアで、
(そもそも、この研究区画自体、部外者が入れないので無意味な張り紙である)
フォースの元となる‘バイドの切れ端’からバイド種子を培養する施設だ。
様々な形をしたコントロールロッドがそこかしこに置いてあり、中には溶液に漬けられているものもある。
バイド種子と結びつく、シナプスツリーの原基を育てているのだ。
外部装甲が取り付けられていないコントロールロッドはなかなかにグロテスクだ。


そんな、一般人は頼まれたって立入りたくないエリアに居るのは、
防護服を着込んだ2人組みだった。
まだ、2mくらいのバイド種子にエネルギーを注入しているのだ。
防護服ではっきりした体形や顔は分からないが、背の低い方がさっきからしゃべり倒している。


「くっそ、なんで、こんなことをやっているんだ俺は。ラヴィダは何処へ行ったんだ。」
「班長は、班長会議に出ている。…これで終りだ。」
「おしトレン。こんな暑苦しい防護服を脱いで、空調の効いた研究室に行こうぜ。」
「そうだな。」


_____________________________________________________________________________


「あー、なんだラヴィダいるじゃんよ。なんだよ、サボりか?班長会議はどうした。」
「お疲れ、エル。バイド漏れ事故起きたんで途中で中止になった。」
「バイド漏れ?ラヴィダ班長それは?」
「お、トレンもお疲れ様。新型機のフォースを開発していた班がやらかしたらしい。
まったく、誰も5番ドックには居ないからよいものを。」
「5番にフォースなんてあったっけ?特殊研究班の機体が調整中じゃなかったん?」
「そうなのか?でも大事は無いって言ってたから大丈夫じゃないかな。」


研究室にいたのは、白衣よりはラガーシャツが似合いそうな男だった。
肩幅があり、胸板も厚い、腹筋も6パックになっているのが容易に想像できる。
どうみても、アメフト選手で、タックルだけでここの研究員を制圧できそうだ。


彼、ラヴィダは学生時代はスポーツ一筋で、大学ではスカウトも来たほどだった。
しかし、在学中にバイド襲撃にあい、人生が変わる。
試合中にバイドが来襲したのだ。
どんなに体を鍛えていてもバイドに侵蝕されれば肉塊になるだけ。
スタジアムを出て、キャンパス内を逃げ惑っていたところを、市警のR-11Bに助けられたのだ。
建物を縫うように表れてバイドを一気に消滅させた白い機体は、眩しかった。


消防士に救われた子供が憧れるように、大病を完治した患者が医者に憧れるように、
彼はR機に憧れ、猛勉強した。脳筋な部活にいた彼だが、猛勉強の末に望みをかなえる。
…研究職としてTeam R-TYPEに入ったのだ。
友人達は明らかに入る場所を間違えていると感じ『何故パイロットにならなかった』と言ったが、
本人は天職であると考得ていた。
実際、真面目な性格で、仕事が丁寧なので基礎研究には適性があるのだが…
ちなみに彼のチームメイトは士官学校に行ったらしいが、こっちが正しい道だろう。


「そうそう、ラヴィダ、人型開発班来てたん?今、新型やってんだよね?アスク…アスクレなんとか。」
「アスクレピオス。」
「そうそう、それ。トレンよく知ってるな。さすが雑学マニア、でもインプットだけじゃなくアウトプットもしないと本当に無駄になるぞ。…で、ラヴィダどうなん?」
「来てたけど、なんか人型開発班の班長、げっそりして血色悪かったぞ。鬼気迫るというか…話しかけられる雰囲気じゃなかったな。」
「くぅぅ、俺も人型やりたいな。そうだラヴィダ。俺らも人型の企画立ち上げよう。ラヴィダも好きだろ、そういうの。」
「んーまあ、個人とすれば確かに燃えるものはあるが、趣味で機体を開発するのはな…。
同じコンセプトで2系統開発しても意味無いだろう。」
「たしかに二番煎じはカッコ悪けどぉ…。いやでも人型のコンセプトを変えて…」
「諦めろ。そういえば、種子0143の調子は?」
「あー元気元気。今日もエネルギーガブ飲みだったさぁ。」
「よし、そろそろこの試験も終りだな。エル、トレンそろそろ昼だ食事に行こう。」


ラヴィダはそう言うと、食堂に向う。エルとトレンも後に続く。


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肉体労働者向けの量の多い料理に挑戦するには、研究者の基礎代謝ではつらい。
山盛りのポテトの乗ったバーガープレートを前にゲンナリして、つついているのが
エル、トレンで、ラヴィダはすでにプレートの半分を胃の中に収めている。

「ラヴィダ。なんでそんなに食べれるんだよ。俺このポテトの山だけでお腹いっぱい。
フレンチフライを腹いっぱいに食べるのが、子供の頃の夢だったけどコレは無い…」
「夢…叶ってよかったな。」
「嫌味かトレン。」
「エル、食べきれないならせめてバーガーとサラダを食べろ。ポテトだけじゃ栄養が偏るぞ。」


マッチョ体形のラヴィダは軽々とバーガープレートを平らげていく。
普通、白衣は大きめに作られているのだが、パッツンパッツンだ。
190cm超の身長に、ぴっちりサイズになっている白衣。
捲られた袖から見える筋の波打つ腕。首も太い。
明らかに異様だ。


「トレン、バーガーあげるさぁ。」
「押し付けるな。」
「なんで、わざわざチーズバーガーなんだよ。」
「エルは小食だな。」
「ラヴィダがおかしい。なにコーヒー飲んで寛いでるん?」


ゲイルロズの食堂のうちの一つで食事を取る3人。
ここのTeam R-TYPEはゲイルロズに間借りしているため、
食堂、購買などの施設は一般軍人と共有のものを利用している。
しかし、3人は座っている席の周囲は微妙に空席だ。
別に食堂が空いているわけじゃない。
なぜか?


答えは彼らが白衣だからだ。
ゲイルロズで白衣を着るのは軍医か、研究員だ。
お世話になることの多い医師は、みな顔を覚えているし、大概彼らの白衣はきれいだ。
医務室で見たことなくて、汚れた白衣を着ている連中は、Team R-TYPE。
平和を愛する基地要員にとって絶対に関わってはならない要注意人物達なのだ。


曰く、Team R-TYPEでは試作機でバイドの群の中に叩き込まれる。
曰く、Team R-TYPEでは犯罪者や浮浪者が輸送されている。
曰く、Team R-TYPEの研究員と目が合ったら、異動命令が来た。
曰く、Team R-TYPE研究区画の近くの通路を一人で歩いてはいけない。
曰く、Team R-TYPE行きは拷問代わり…
など…


総括すると「狂科学者集団」というのが一般的な評価だ。
何をおいても白衣に近づくべからず。
ゲイルロズの新しい不問律だ。
ぴっちり白衣マッチョが目の前に居れば尚更だ。


………


しかし、Team R-TYPEの研究員という人種は、基本空気を読まない。
警戒心を伴った無関心が漂う食堂で、彼らは今日も食事を取っている。


_______________________________________________________________________________


昼食を終えると研究室に戻り、備え付けの席について班会議を始める3人。
ホワイトボードが引っ張り出される。


「今回のテーマはなんだラヴィダ班長。」
「トレン、やる気あるな。俺はもう気持ち悪くてダメ…」
「エル、だからフレンチフライだけじゃなくサラダを食べろと…。
まあ、フォースの評価試験は直に終わるから、次の研究課題を選定する。」
「マジで!次は基礎研究じゃなくてちゃんと開発しようぜ。俺がんばるから。」
「エル、現金だな。」


膨れた腹を抱えて、机に伏していたエルが突然元気になると、
トレンとラヴィダだ呆れる。


「ただし、人型はNG。すでに研究班が立ち上がっているからな。」
「…ラヴィダのけち。」
「けちで結構。すでにメイン系列機には専属開発班がつけられているから、
開発なら独自案を提出するのが望ましい。もしくはフォース、波動砲の技術検証などとなるな。」
「エルじゃないが、フォース、波動砲の研究は基礎研究班の範疇だろう。我々は開発を行うべきだと思う。」
「方針を決定しよう。現在のR機に無いもの、欠点はなんだ。」


「浪漫に決まって…」
「却下。」
「じゃあ変形機構を。」
「目的を先に述べろ。」
「大型バイド殲滅のために必殺技を。」
「なんのための波動砲だ。」
「サーベルを…」
「単純にバイド切っても増えるだけだろ。」
「あとは…」


エルが意見を出してラヴィダが切る。切る。切る。
5分ほど続けた後、今まで黙っていたトレンが発言する。


「対小型バイド用の攻撃方法が少ないことが問題だ。」
「それは必要か?基本的に小型バイドは固定武装のレールガンで十分撃破できるだろ。」
「トレンの意見は聞くのかよ…」
「突入戦では、四方から狙われる。」
「ああ、確かに小型機に波動砲を使用するのは効率が悪いし、実際小型機の群に飲まれるパイロットも多いな。」
「固定武装はレールガンだけだからな。数で押されたらそらー飲まれるさー。オプションも通常はミサイル、フォースくらいだしー。ビットはエース専用だろー。」
「エルふてくされるなよ。
フォースシュート中、R機の武装は非常に限られる。レーザーはフォースなしに撃てないし、
ビットは予算上ほとんどの場合つけられない。
ミサイルは発射スピードが遅いから手数が明らかに足りない…か。」
「人型ー、ビームサーベルー、可変機ー…」
「そう…だから、波動砲をバルカン式にするのはどうだろう。」
「波動砲をあえてばらすか。面白い案だなトレン。バイドの群を突破するための支援機として有用かもしれんな。」
「どうせ、オリジナリティの無い2流研究者ですよー…」
「障害物の少ない宇宙空間の支援ではR-9D系列の長距離精密射撃機が有用だが、
突入作戦時に閉所で使うには取り回しにくい。」
「威力は無くとも手数を増やすか。」
「ラヴィダもトレンも無視しやがって、それでも仲間か。」
「火線を集中すれば、大型バイドにも対抗できるように調整しよう。」
「よし、それでレホス課長に上げよう。」
「…」





「トレン、企画書の素案を頼むよ。内容は明日検討しよう。」
「分かった。数字を出して置こう。」
「ああ、威力不足で波動砲が豆鉄砲だったなんて笑いものだからな。」
「どうせどうせ俺なんて…」


机の上に「の」の字を書いてふてくされるエルを置いて、
ラヴィダとトレンが書類を片手に部屋を出る。


_______________________________________________________________________________


【課長室】


「ふーん、バルカン式波動砲ねぇ。」
「はい、閉所突入支援に特化したR機です。」


ラヴィダが課長席に企画書を提出して説明している。
課長のレホスは、清潔感のあるワイシャツに、落ち着いた色のスラックスと靴下。
そして全てをぶち壊す汚い白衣と、かかとの潰れたサンダルを履いて席に座っている。
何時も通りだ。


「どっかの誰かさんみたく、遊んでるのかと思ったけど意外と真面目な内容だねぇ。」
「どっかの誰か?…はい、実地検証はまだですが、支援機があれば突入時の事故も減少するかと。」
「裏づけ資料もある…と、そうだね。
ここの所データも取れないうちにR機を壊してくれるお馬鹿さんが多いからね。」


書類から目を上げずに、資料を読み続けるレホス。
口調はふざけているが、書類を読んでいる表情は真面目だ。


「波動砲の特殊化、高威力化が進みチャージ時間も増加しています。
もっとも事故率が高いのは波動砲発射後で、チャージ中に迎撃態勢が取れずに、
バイドに落とされる例が多いのです。支援機があれば、突入の際の突破率も上がります。」
「大型バイドに対する効果は?」
「火線を集中することで、スタンダード型の波動砲に匹敵する威力はでます。
ただ、一発一発の威力は大きく無いので、貫通能力には乏しいですが。」
「よろしい。では上に上げておくから、詳しく説明できるようにしておいてね。」
「わかりました。」
「あ、でも、この内容なら支援機じゃもったいないから、一応単独運用も視野に入れてね。」
「はい。」


________________________________________________________________________________


カチカチカチカチ


一人残された研究室。すねたエルが机に突っ伏して、
手元にあるノック式のボールペンを弄くりながら、呟いている。


「くっそー。ラヴィダもバルカン機なんて企画とって来て、浪漫って物が…」


カチカチカチカチカチカチカチカチカチ


「トレンの奴も、言ったもん勝ちってか?俺も次のために考えておけばいいのか。」


カチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチ


「人型は2番煎じだからダメだし、波動砲は粗方改良されたし…熱い企画は…」


カチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチ


「でもしょうがないのかなー。俺、器用貧乏だからなーオリジナリティ無いし。」


カチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチ


「んー…ん?」


カチ。


「これって…」


カチリ。


「ふふふふ…。熱い企画あるじゃないさぁ。」


椅子を倒して立ち上がり、不気味に笑うエル。
そのまま、ボールペンを掲げて叫ぶ。


「パァーイルッバンカァァァーーーー!!!」


________________________________________________________________________________


3ヵ月後
光子バルカン装備型R機 
R-9DV ティアーズ・シャワー完成


派生系統機、帯電式パイルバンカーテスト機の開発開始。



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そうだね。またなんだ。
昨日の睡眠時間が1時間でね。頭がジンジンするから、アホ短編かいてみたよ。
でも今回の夜更かしはネット小説の一気読みした所為なんだ。読書ジャンキーだからね。
会議中に寝てしまって、先輩に起こされたよ。

今回も思いつきで書いた。ティーズシャワーと見せ掛け、落ちはパイルだったり。
どっかで、バルカン機からパイル機が派生するのはオカシイってかいてあったから、つい。
「分の悪い賭けは…」ネタにしようかとも思ったけど、ケンロクエンじゃないとアルトにならないからね。



[25408] R-9WF “SWEET MEMORIES”
Name: ヒナヒナ◆2a9fd0bf ID:ec2c350f
Date: 2011/02/20 13:26
・R-9WF“SWEET MEMORIES”


Q.R-9W系統機についてどう思いますか?


A.
 ・パイロット殺し
 ・悪夢の試験管
 ・人間の生物学的スペックを無視している
 ・パイロットは部品
 ・パイロットは充電池
 ・精神クラッシャー
 ・もう高性能AIを開発しろ
 ・バイドに殺される確率<機体に殺される確率
etc.


「…ですって。ワイズマンのイメージ最悪ですね。」
「ほとんど、ハッピーデイズは無かった事になってるじゃない。」
「なんでこんなアンケートが…」


3人が居るのはWシリーズ開発室。
中肉中背の男は影が薄いと評判のランド。一番年少でまだ勤めだして2年だが、
存在を忘れられて実験室に閉じ込められ、何回かフォースの明りで夜を明かすという経験をしている。

紅一点のセフィエは30代でジーパンにタンクトップで痛んだ金髪を結い上げている。
白衣を着ていなかったら仕事をしているとは思えない格好だ。

太り気味の男はジョー、眼鏡をかけて、サスペンダーでズボンを吊っており、
外見は完全にとっつぁん坊やだ。一応班長。


彼らが覗き込んでいるのは、パイロットに行ったアンケート結果である。
皮肉の効いた抗議文として、パイロットの有志達から送付されたそれは、
R機各機への意見を図ったアンケートだ。
今見ている項はR-9W系統の代名詞ワイズマンなど…所謂‘試験管機’を問うたものだ。


試験管機R-9Wワイズマンは、搭乗パイロットに精神面での大きな負担を与える機体として有名だ。
試験的に実装したナノマシン波動砲(誘導式)を装備しているが、
この武装はパイロットの意識で軌道を変えられるが、代償にパイロットに多大な精神負担を強いる。
トレードマークである試験管型のキャノピーは脱着可能になっており、
消耗の激しく自力で機体を降りることができないパイロットの乗り換えを簡単にするため、
パイロットをキャノピーごと入れ換えるためだ。
試験管の中で、動けないまでに消耗した同僚が、部品のように換装される様子は、
多くのパイロットに恐怖心を植え付けた。


そんな機体を生み出したのはこのWシリーズ開発班だが、
ワイズマン開発当初のメンバーの内2人はすでに入れ替わっており、
現在残っているのは、当時一番下っ端だった班長のジョーのみだ。 
Wシリーズは、もともと特殊な波動砲をテストするために開発されている。
ワイズマンの誘導式波動砲やハッピーデイズの分裂波動砲だ。
誘導式波動砲の有用性が確認されながらも、独自の系統機に派生しない当たり、
試験管機が軍部で問題視されているのが分かる。
まあ、テスト機にはピッタリなのでワイズマン以降のWシリーズにも引き継がれている。


________________________________________________________________________________


「なんで、私達のワイズマンばっかりこんな言われなきゃならないの。
何よ精神クラッシャーって。このくらいの精神衰弱、一日寝てれば復活するわよ。
大体ワイズマンが精神クラッシャーなら、ピースメイカーは肉体クラッシャーでしょ!?
なんで、あっちは人気で、こっちはぼろ糞に言われなきゃならないの。」
「落ち着いてください。セフィ。気にしちゃだめですって。」
「ピースメイカーは市民の味方だからな。’Police’って堂々とマーキングしてあるし、軍のパイロットにも人気がある。」
「中の人間の死亡率で言ったら、ピースメイカーの方が高いのよ。そもそも、マイクロマシン波動砲ほど有用な…」


ジョーとランドは顔を合わせ、また始まったという顔をする。
セフィエは自分の関与するR機への愛情が尋常でないのだ。
長続きすることの無いボーイフレンドの10倍以上の愛を注いでいるだろう。
もっとも。セフィエはハッピーデイズからの参加で、ワイズマンを開発したわけではないが、
研究班の担当として、追研究をおこなっているため、『自分のR機』と認識している。
自分の機体が馬鹿にされれば、いらだつ。そして周囲にまき散らす。
まあ、Team R-TYPEの研究員は、これくらいのヒステリーは可愛いと思えるほどの個性の持ち主が多いので、問題にもならない。
言いたい事を言ったら収まるので、仕事の片手間に適当に話を聞けばいい。


_______________________________________


「さて、何時ものがおさまった所で、新規機体開発案を検討しようか。」


セフィエのヒスが収まったのを見計らって班長のジョーが切り出す。


「今のトレンドは高出力機だったかしら?」
「主機の改良が足踏み状態だからな、波動砲をいかに効率よく撃てるかだろう。」
「では、僕らもその路線で行きますか?」
「いや、それならWシリーズで無くとも良い。我々に求められるのは技術革新だ。」
「ブースター機能は無いかしら?波動砲を何らかの手段で増幅するの。」
「増幅ですか…。出来ます?」
「ランド、出来る出来ないじゃない。試すか試さないかだ。ふむ、方向性としてはあり…だな。」
「さすがジョー、あなた大好き。」
「R機に人生を捧げている君に言われてもね。他に案が無いならこの方針で行こうと思うけど。ランドは何かあるかい?」
「いえ、それでいいと思います。」
「じゃあ、明日までに波動砲ブースター機能の構想案を上げくること。検討するから。解散。」


先ほどとはうって変わって機嫌が良くなったセフィエと、常に平常心のランドが部屋から出て行く。


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「これで決定かな。…感情制御によるナノマシン活性の誘発と、それによる波動砲のブースト。」
「そう、精神論に近いけれど、ナノマシンの可能性を追求する案よ。
感情によるナノマシンの異常活性を逆に利用するの。」
「ランドは?」
「僕の波動砲螺旋収束案より、想定最大威力が高いですし、そちらの案で良いと思います。」


ランドが役に立っていないが問題ない。
彼の神髄は、淡々と、ひたすら淡々とそれが可能になるまで、ひたすらと試行錯誤を続けることだ。
どちらかというと研究というより、技術に偏っている。


「それでは、R機自体はハッピーデイズからのマイナーチェンジで問題ないな。」
「ナノマシンと波動砲の同調機能はワイズマンのものを、箱だけ再利用しましょう。」
「問題は、ブースター機能と、パイロットインターフェイスの改良ね。」
「じゃあランドは、ナノマシンによる波動砲ブースターの開発、
セフィエはインターフェイスプログラムの作成草案を頼む。私は問題の洗い出しと上への書類作成だ。」


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【課長室】


今日のレホス課長のシャツはワインレッドのストライプで、全体に暖色系で揃えている。
白衣の袖も赤インクで塗装してあるのはご愛敬だ。


「…というわけで、ナノマシンブースト機能を持った幻影波動砲と、その機体を提唱します。」
「ふむ、少々イロモノ感が否めないが、Wシリーズならばそれもありかねぇ。
波動砲の威力向上に陰りが見えたのも事実だし。」
「パイロットには嫌がられますが、やはり試験管コックピットです。パイロットの育成も同時に行います。テストパイロットを下さい。」
「ああ、先週来た検体から好きなの見つくろって良いよ。
派閥争いでこっちに来た軍人だからパイロット適正が低いけど。」
「まあ、ある意味問題は感情の起伏なので、それでも構いません。」
「神経接続は従来性のものを使うの?」
「接続機器は従来性を使いますが、新しくプログラムを起こそうかと。」
「…へぇ。じゃあプログラムも実装前に提出してね。」


ニマリと笑顔になるレホスと、その笑みに引くジョー。


「レホス課長…いやなんでもないです。」
「さすがジョー。僕の事分かっているね。」


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【二ヶ月後_実験検証室】


R機は幻影波動砲ですべて撃ち落とした後、沈黙している。
生命反応はあるが、脳波の特定領域がフラットになっている…ようは「落ちている」状態だ。
幻影波動砲の威力は素晴らしく、デコイの周囲の岩礁ごとえぐり取っていた。



「で…レホス課長。何を仕組んだんです?」
「なにかなぁ、証拠も無いのにそんなこと言って良いワケ?」
「たしかに体力を取る設計になっていますが、コネクタによる精神汚染は設計していないのですが。」
「だからなんで僕だと…、でもまあ生命エネルギーを使っているんだから、精神衛生なんか瑣末なことだよね?」
「何年あなたと付き合っていると思っているんです?
課長しか居ないじゃないですか、R機のプログラム仕様書とか隅から隅まで読む人。
パイロット達の神経接続デバイスに変なプログラムが書き加えられてあったんですよ。
相当巧妙に書かれていて、専門で無い限り分からないでしょう。」


喚くセフィエと、彼女をなだめようとして殴られるランドを横目で見ながら話す2人。


「ちょっとねー。人間の空想ってさ、意外と一定の枠を出ないんだね。
夢っていうのも記憶を反復する作業でさ、脳の入力作業の余波みたいなものだし、
起きた瞬間に忘れちゃうくらい印象薄い。でもさ、悪夢だけは非常に強い精神活動を伴うんだよね。
感情は強く現れるし、肉体活動も誘発する。」
「…で、ナノマシンをコンスタントに活性化させるために悪夢を誘発させたと。」
「そう。プログラムに手を加えて、‘恐怖’の刷り込みを行ったんだよ。
脳接続器具内に常駐して、恐怖を感じたときに特定の刷り込みを行う様にしたり、
睡眠中に、そのイメージを開放して、刷り込みを強固にしたりね。」
「それで、毎日悪夢を見るようになったパイロットが多かったのですね。
…でも、あれだけで落ちるとなると、改良が必要ですね。」
「まあ、作戦継続中は落ちないようにしてね。POWや工作機で機体回収ってさすがに面倒だし、未帰還率が高まるからデータ取れない。」


「ところで、…なんなんです?あのパルテノン神殿や五重塔は?」
「んー。僕の端末の壁紙集だよ。あまりありふれているものに恐怖を持たせると、
日常生活に支障をきたすからね。普段あまり見ないものにしてみたよ。」
「…選ぶのが面倒だったんですね。土星に恐怖を抱くパイロットが多くて困るんですけど…」


ここはゲイルロズ…木星―土星圏に浮かぶ軍事基地だ。


「これでまた、Wシリーズは悪評を抱えるわけですね。」
「今更だから。というか試験管式コックピットを考案したのはジョー、君だろう。」
「あれは当時の先輩達からプッシュされたんです。
ワイズマンは次期主力機になるから、どうにかしてパイロットの乗換え問題を解決しろって、
冗談であのコックピットユニット構想を考案したら、採用されてしまったんですよ。」


「常識人ぶっているけど、冗談であの発想が出る辺り、君も狂ってるよね。」
「なんですかそれ、ほめ言葉ですか?」


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R-9WF スイートメモリーズ試作機完成。


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本編がシリアス過ぎて息抜き。
ぶっちゃけ最後の言葉を言わせたかった。

初代R-TYPEの進捗は現在STAGE5です。ベルメイトが…



[25408] B-1A “DIGITALIUS”
Name: ヒナヒナ◆2a9fd0bf ID:ec2c350f
Date: 2011/04/17 02:00
・B-1A “DIGITALIUS”



「おい、エント。これ見ろすんげーぞ。」
「んん。『低汚染でのバイド素子の利用法について』。また基礎研究班の奴らか。
アホな論文を上げて…。」


オガールと呼ばれた栗毛天然パーマが分厚い論文を持ってきて、エントと呼ばれた男の机に乗せる。
読んでいた書類の上に論文を載せられたエントは、一瞬ムッとした顔をするが、
題名を一瞥して鼻で笑うとそのまま、脇にあるゴミ箱に落とそうとした。


「あ、おい題名だけで捨てるなよ。すげーんだって。あ、ラミちゃんもちょっと。」
「なーに、オガールくん。またエントくんに絡んでるのー?」


廊下から現れたのはロングスカートに白いブラウスを着た、いかにもお嬢様な格好をした女性だ。
ゆったりとした口調だが、首から提げたカードには班長と書いてある。


「ラミ班長か。問題ないオガールに絡まれているだけだ。」
「ラミちゃん、良いもん仕入れてきたんだ。これ読んでよ。」
「『低汚染でのバイド素子の利用法について』?文章は硬いけどずいぶん挑戦的な内容ねぇ。あら…これ。」


表紙を手にとって眺めていたラミが、呟いて小首をかしげる。


「さっすがラミちゃん。気付いたな。そうこの論文発表者こそ基礎研究班のやつだけど、連名がすごいんだ。レホス課長に、バイレシート開発部長がいるんだぜ。」
「え?お、おいこれ他の連名も主任クラスばっかりじゃないか!なんでこんな論文が今まで埋もれてたんだ。」
「…これ第1種機密指定が解けたってこと?」
「ああ、なんでか会議なんかで持ち上がらず、シレッと第2種機密指定データベースに降りていたんだ。」
「意図はわからないけどー、きっと早い者勝ちってことね。」
「そうそう、始めに開発を始めた班が、新技術一番乗りの栄誉を手に入れるって寸法だ。」
「俺たちは今開発計画がひと段落してフリーだ。これはチャンスだな。」


無言で顔を見合わせる3人。


「エントくん、オガールくん。明日の昼までにこの論文の調査を行って、内容を読み取るわ。それから機体開発計画の発案をするわ。みんなやるわよぅ。」


ラミの笑顔が深くなり、エントもオガールもそれに釣られて笑う。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


周囲では…


「あそこの部屋また3人で篭ってんのか。」
「本当に仲いいな、あそこの班は。」
「仲がいいというより、お嬢様とその付き人だろ。」
「ちがいない。」


という会話があったが、論文をむさぼり読んでいる3人には聞こえなかったし、
聞こえたとしても3人3様で満更でもないので、軽く流しただろう。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「では、この論文についての、調査発表を行います。じゃーまずはオガールくんからねー。」


35時間ぶっ通しでの調査の後であるが、ラミには疲労の色は見えない。
機嫌がよさそうで、いつもよりさらにニコニコしている。
対する二人は少しクマが出来ているが、意識はハッキリしていた。


「オレはこの背景にあるレホス課長のプロジェクトについて調査した。レホス課長に資料を貰うのは大変だったよ。」
「レホス課長に頼みごとをすると、後が大変だぞ。」
「そうなんだよな。まあバイド素子添加プロジェクト試作機BX-T‘ダンタリオン’の開発だったんだが、開発部長も巻き込んだ一大計画のようで、ヒラ研究員のオレらには伏せられていたらしい。内容は論文に在るとおりバイド体を機体の装甲に用いた機体を作ることだ。結果からいうとこの研究は成功している。」
「ダンタリオンねえ。ソロモンの悪魔の一柱ね。たしか知識を司る悪魔でー、
その手には全ての生き物の過去、現在、未来にわたる思考が書かれた本を持っているのだったかしら。」
「しかし、バイド素子を装甲に、か。…制御が難しいだうろうに。」
「この研究の特筆すべき点はもう一つある。サラリと書いてあったのだが、ダンタリオンに付属するのはライフフォース。これだ。」


複製禁止と書かれたデータを見せる。


「! コントロールロッドが無い…どうやって制御しているんだ。」
「これ…制御しているのではなくて、機体とフォースが同調しているの…?」
「ああ、このプロジェクトはR機のブレイクスルーだ。実際に機体番号もRシリーズではなく、BX-Tになっている。この機体はテスト機だから、ここから新たなR機の新系統が始まるということだろ。」


オガールがデータを見ながらいう。
ラミが笑顔で、仕切る。


「ありがとう、オガールくん。次はエントくんね。」
「ああ、俺はこの論文技術を実機に適用させるための問題点の洗い出しだ。」


「まず、これを見て欲しい。ダンタリオン稼動実験のときの各実測値だ。」
「実験一発目で成功かよ。レポス課長パネェな。」
「あら、これは酷いわね。パイロットのバイタルイエロー入ってるわぁ。2回目では一瞬レッドまでいってる。」
「そう、機体にバイド由来物質を用いると、パイロットが精神侵蝕を受ける。
それを緩和するためにこの実験では、パイロットの選定と、
深層精神障壁の形成、投薬処理、を行っているところがミソなんだ。
関連論文みたら、処理なしでやるとだいたい15分くらいで発狂するそうだ。」
「えげつねぇ。」
「うーん。その処理時間が掛かるし、パイロットを選ぶなんて、
テスト機ならともかく量産機では許されないわね。」


論文中にも結構エグイ画像が埋め込まれているが、
それくらいで気分が悪くなるようではTeam R-TYPEはつとまらない。
オガールの発言もパイロットが可愛そうと言う意味ではなく、
周到に準備して無理やり実験を成功まで導く熱意が、尋常ではないという意味だ。
ひとしきり感想をいったあと、ラミはエントに次の課題を促す。


「次だな、知ってのとおり素子を純粋培養するとフォース原基になる。
不純物がはいるとバイド化してしまうのだが、
機体に用いるには不純物を加えて物質化しつつ、急激なバイド化を抑える必要がある。
この不純物=誘導体の種類と環境によって、物質化が異なり、
条件によっては著しい不活性を示す…R機の装甲に使えるほどにな。」


「つまりー、誘導体の選択とノウハウの蓄積が必要になるのね。」
「素子研究か…。フォース実験とかいって素子を貰って、実験できるな。」
「楽しそうな実験ね。でもー、セキュリティの高い実験区画の申請が必要ね。」
「この論文ではテストが目的だから比較的安定するゲル状を選択したと言っている。
だが、数値をみるに装甲としては今一だな。」
「なにが装甲に適するか。調査実験か…グッドだ!」
「装甲適性だけでなく、活性値と生産性もみないとねー。」


新しいおもちゃを手に入れたような、楽しそうな雰囲気。
徹夜上がりとは思えない。


「いいわ、これで行きましょう。エントは誘導体選定実験計画の策定。できたら言って、実験は手数で勝負よ。
オガールはパイロット処理の最適化を調べて、私は実験申請と材料の確保をするわ。」


________________________________________________________________________________


クマが増えた三人が居た。ラミも化粧で隠し切れないクマが見え隠れしている。
一週間の睡眠時間が3人合計で24時間を切っているためだ。


「どうかしらー。誘導体実験の結果がでた?」
「量がすごいな。エント根性出したな。」
「俺、反復実験で死ぬかと思ったぞ。」


「とりあえず、使えそうなのをピックアップしてみた。選定条件は硬度、コスト、安全性と俺の勘だ。」
「…疲れてるな。」
「じゃあ、検討しましょうか。ダメだったやつのデータは後でまとめて論文にでもすればいいわ。」


全員発言が緩慢で、動きも怪しいところがある。
しかし、目だけぎらぎらさせてデータを見る姿は、
正にパイロット達の恐れるTeam R-TYPEの姿だった。


「硬度は機械系が成績いいが、コストに難が在る…、正直どれも一長一短なんだが、総合的に取り回しやすい一押しはこれだ。」
「なに、植物細胞を誘導体にしたの?」
「植物はさっき誘導体として没って書いてなかったか。」
「実際には、植物体のDNAを切り取った物を与えた。そのままやるとただの植物性バイドになる。」
「いいわねこれ。可愛いわ。胞子状の波動砲なんて素敵ね!」
「…」
「…」


オガールとエントが顔を見合わせる。
また始まった。と、趣味が分からない。というアイコンタクトだ。
二人ともラミのことを尊敬しているし、女性としても魅力的と思っているが、
未だに趣味やツボが分からないでいた。


「まあ、その、俺が勧めたし、気に入ってくれたようで何よりだ。」
「初期機は安定性こそ命だな。」
「やったー。じゃあ誘導体はこれで決まりね。」


無理やりまとめる二人、と喜ぶ一人。
オガールとエントはとりあえず喜んでいるから良いと考えて、
藪はつつかないようにした。


「さて、オガールくんは?」
「目処、たったぞ。とりあえず、深層精神障壁は時間とコストがやたら掛かる上に、
結果が安定しないからオミット、その代わりに投薬処理をふやすことにした。」
「5回か。多いな。」
「無茶言うな。これでも3割減だ。試行錯誤でちょうどよいバランスを探したんだから。
見ろ、オレの芸術的な投薬メニューを!」
「…綱渡り的なバランスねー。でもいいわ。これで本申請上げましょう。明日、課長がきたら上げるわー。」
「あとは実際やってみての試行錯誤か。」
「とりあえずこれで寝れるな…」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


周囲では…


「あそこの部屋まだ明りついてるよー。」
「明りつけたまま寝てるのかと思ったら、たまにうめき声とか聞こえるんだぜ。」
「一週間徹夜か。チームゾンビだな。」
「あそこの班、なんか怖え。」


という会話があったが、死んだように椅子で寝ている3人には聞こえなかった。


________________________________________________________________________________


【課長室】


今日も今日とて、完璧な服装を汚い白衣と履き潰したサンダルで粉砕している部屋の主。


「あら、レホス課長。今日のタイピン素敵ですねー。注射器ですか?」
「もらい物だ。で、君が一番手とはねぇ。外見に似合わずガッツクのだね。」
「あらいやだー。私じゃないですよ。オガールくんが見つけてきてくれたんですよ。」
「でも10日で資料をまとめて、新型の設計書を持ってきたんだから、敏腕リーダーってところかなぁ。」


レホスはデスクに座って端末を見つめる。


「ところでレホス課長。なんであの論文を会議で話さずに放置したんですか。」
「ふうん。何でだと思う?」
「釣り針…かしら?」
「言いえて妙だが、正確には試薬だねぇ。研究者はどんなときでも貪欲でなければならない。
なぜならTeam R-TYPEだから。我々の前には倫理も、理屈も、法だって意味を成さない。
そういう研究者を選定するための試薬だ。」
「あら、それは光栄ですわ。私は合格?」
「これだけのものを10日でまとめる熱意と狂気を認めて、実験と開発のGOサインを出そう。」


そういうと端末にカードキーを通して、承認と予算をつける。
それを見たラミは満面の笑顔になって、礼を言う。


「さて、一番乗りに敬意を表して、この機体はB-Aシリーズとしようか。」
「わあ、A番をもらえるんですか!」
「そう、で、君のB-1Aになんて名前をつけるんだい?」
「それはですねー…」


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B-1A ジギタリウス完成。



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前にコメで、タクティクス参戦機は書かないって言ったきがするけど、バイド機は例外です。
名前ストックが切れてきた…なんで毎回登場人物変えるとかメンドイことしたし…



[25408] B-1A2 “DIGITALIUSⅡ”
Name: ヒナヒナ◆2a9fd0bf ID:ec2c350f
Date: 2011/04/17 01:59
B-1A2 DIGITALIUSⅡ 


「みんな、集まってー。」
「ラミちゃんなにさー、ジギタリウスが完成したから、とりあえずは基礎研究に戻るんじゃないの?」
「やっと、誘導体の論文があがったのに…眠い。」


汚い研究部屋に似合わない明るい声によって、
書類の隙間で丸まっていた男二人がもぞもぞと起き上がる。
オガールとエントだ。


「実はジギタリウスに問題が見つかってねー。対策を練らなきゃならないのー。」
「ラミちゃん、問題って?」
「ほら、あの機体ってバイド装甲維持のために保存液に漬けて保管するでしょう。
その保存液が人体に猛毒である事が分かったのよー。神経系に作用するんだってー。」
「なぜそこが問題になるんだ?保存液なんて素手で触んないし、ましてや飲まないし、
体内に入る要素ないだろう。」
「それがー、現場の作業員とかパイロットは軽装備だから、結構保存液の扱いが雑らしいのよね。」
「機体性能間に合わなかったらどの道死ぬんだから、問題ないだろ。それより波動砲を…」
「そうそう、パイロットは消耗品。機体返してくれればいいよ。」
「それがねー。軍のお偉いさんからの苦情らしくて、開発部長から直々に言われちゃって、改良しないと予算凍結するってー。」
「「それは問題だ!」」


上半身だけ起こして半分目蓋が落ちかけていた二人だが、
研究の存続に関わる事態に一気に覚醒する。
そして、ラミはホワイトボードを引っ張り出して、会議仕様に部屋を変える。
その前に男二人が椅子を持ってきて座る。


「うーん、要はパイロット、作業員が保存液に触れなければいいんだろ?」
「しかしなー微量だけどパイロットスーツを透過する上に、
アレ乗ったやつって自力で出てこれないやつ多いだろ?
そうすると、作業員の安全性も結構考慮する必要もあるな。」
「そうねー、さすがに作業員全員に特殊防護スーツを貸与するわけにもいかないし、
そもそも費用も手間も現実的では無いわ。」


ちなみに今日はこれをどうにかするまで寝れません。とラミが発現すると、
全員が唸り思い思いの格好で思索する。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


周囲では…


「ああ、またこの班が何かやりだしたな。」
「バイド機作った班だったか?」
「ああ、なんか狂ったように研究している時期あったろ?そのとき開発してたらしい。」
「…ここではこれが、普通なのかな?俺来たばかりだけど自信無くしてきた。」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「なあ、俺達一晩かけて案を出してきた訳なんだが、現実的な改良案は浮かばなかった。」
「エント、疲労感を増やすような事を言うな。」
「エントくん、何か思いついたのー?」


「発想の転換だ。問題点は二つ、保存液の処理とパイロットの保護だ。
今までの実験から保存液無しでは機体を維持できない。
だから、パイロットの保護になるわけだが…」
「だーかーらー、その話も現実的に運用できるような案はでなかっただろー。」
「オガールくん、混ぜっ返さないの。」
「いや、ラミ班長、オガールの言うとおりだ。パイロットが頻繁に搭乗する関係上、
現実的な案は無い。ここで逆転の発想だ。パイロットが乗り降りしなけりゃいいんじゃないか?」
「は?」
「無人機ってことかしら?」


明らかに何言ってんだって顔をするオガールとラミ。
R機は有人でこそ意味のある、対バイド兵器だからだ。
そしてオガールの顔がかわいそうな者を見る目になる。


「エント、論文で疲れてたんだよな。とりあえず寝ろ。」
「病人あつかいすんな。俺は正常だ。」
「でも、無人機化は無理じゃないかしら。」
「無人機化じゃない。要は一度乗ったら次のメンテナンスまで降ろさなきゃいいんだ。
そうすれば保存液で汚染される心配もない。とりあえず栄養補給とか生命維持関係は、
パイプで外と繋いでおいて、保存液で補完できるようにすればいい。
作業もアームで生命維持パイプ繋いで、保存液にボチャンだ。」
「なんという、暴論…。」
「エキセントリックな案だけど…一考に値するわね。」


ラミは面白いものを見つけた顔をし、
それを見た男二人は今日も寝れない事を悟った。


「さあ、じゃあ今晩はこの案を検討しましょう。」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

周囲では…


「またか、チームゾンビ。」
「ここのやつの生態は72時間単位なんじゃないだろうか。」
「このむちゃくちゃな生活で結果を出せるのが不思議だ。」
「俺、ここの班に配属じゃなくて良かったって心から思うぞ。」


そろそろ、奇人認定が板についてきていた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「検討した結果をまとめましょう。」


「まず、結論としてパイロット封入案は実現可能であることが分かったわ。運用上も艦艇やドック設備にもっとも負担が少ないし、従来の器具で対応可能だわ。」
「ただなぁ。」
「そうだよなぁ。これどうみても改良って段階じゃないぞ。」
「なら、後続機にすればいいわ。装甲の硬度・軽量化もさらに研究進んでるでしょう?
その成果も盛り込んで、次の機体にしちゃえばいいのよー。」
「もー、それでいいか。」


「じゃあ、また検討して、来週には新しい計画案を提出するわよ。」
「研究に殺される…。」
「過労死って戦死になるかな?」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


【課長室】


「いつもの」格好をした課長のレホスが座っている。


「で、出来たぁ?」
「はい、是が計画書になります。改良案ではなく改良を盛り込んだ後続機の設計です。」
「あー適当でよかったのに、どうせお偉いさんになんて設計わからないし、
現場の監督不十分って言い張れば流せたんじゃない?」
「それでも、開発をしらない現場の人間に欠陥機なんて言われるのはプライドが許しません。
やるなら徹底的に、です。」
「君、いつも思うけど、結構マッドだよねぇ。」
「あら嬉しい。」
「まぁ、良いでしょう。現場の声に対応したという事実が必要なんだ。
改良型という事で開発すればいいやぁ。はい、案件通したよ。」


_______________________________________


ジギタリウス2開発。


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3は書くか微妙、それより他のバイド機書きたい。
ぶっちゃけこの話は「劇薬溶液」のエピソードを1の方に盛り込み忘れたので、
補足だったり…。ちょっと手抜き気味なのもそのせいです。


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