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注目記事

 

数々の失敗を乗り越えた国産ロケット

前間孝則(ノンフィクション・ライター)

「地に堕ちた成功神話」からの再出発

 純国産の大型ロケット「H-2」の初号機打ち上げ成功からちょうど17年の歳月が流れた。その間JAXA(宇宙航空研究開発機構)は、3度にわたる苦い打ち上げ失敗の経験をしたが、それらを乗り越えて着実に技術とノウハウを積み上げてきた。その結果、H-2の増強型である「H-2A」および「H-2B」の20回の打ち上げでは95%の成功率と欧米並みになり、信頼性が高まってきた。2011年1月には、国際宇宙ステーション(ISS)への唯一の大型物資の輸送手段となる無人補給機「こうのとり(HTV)」の2号機打ち上げに成功した。あと5機打ち上げる予定だが、こうした実績などを含めて国際的に注目を浴びつつあって、確実に存在感を増してきている。

 ロケット打ち上げは、成功と失敗による明暗が極端なほどはっきりする過酷な分野である。それだけに、その時々の悲喜こもごもの印象深い光景や、それにともなう数々の批判論議が思い起こされる。1994年2月4日、H-2の初の打ち上げ直前。H-2の開発・打ち上げ責任者にインタビューして、成功直後にその内実について「遅れて来たH-2荒波の宇宙に旅立つ」(『科学朝日』)と題するやや辛口の原稿を書いたことがある。

 種子島は欧米の発射基地と比べて狭い。これにより生じる危険を回避するため、H-2はかなりの小型・軽量化をせざるをえなかった。それにともない小型・稠密化を図った第一段エンジン(LE7)は、日本にとって実績はわずかだが高推力を出せる液体酸素、液体水素の燃料を使った二段燃焼サイクルの、野心的で背伸びしたコンセプトを選択した。このためLE7はデリケートで扱いが難しく、トラブルを重ねて成熟させるのに時間を費やしたのである。

 そんな現場の内情を少しは知っていたので、初回の打ち上げに成功したとはいえ、まだまだ「試作品」の段階に等しいことを強く指摘した。この成功に驕ることがないようにとの思いを込めて。ところが、打ち上げ成功に水を差すこの原稿に対して、宇宙開発事業団(NASDA)の幹部からクレームがついた。編集部(私を含む)とのあいだで何度か批判、反批判の応酬があったことを思い出す。

 その後のNASDAは、N-1ロケットから数えてH-2の4号機まで、「連続29回の打ち上げをことごとく成功させた」として、その信頼性の高さを強調した。「信頼性は抜群」といった自信過剰の発言も飛び出すようになった。“成功神話”がいつの間にか独り歩きしはじめていた。

 ところが1998年2月の5号機、続いて翌年11月には8号機(7号機はなし)と連続して打ち上げに失敗した。一転して“成功神話”は地に堕ちた。

 深刻な事態に、広範囲にわたる調査や改善、体制の見直しを行なった。だがこのあと、H-2の性能アップとコストダウンを図ったH-2Aの最終ステージの試験でもまた、H-2と似た重大トラブルが発生した。「H-2失敗の反省が活かされていない」「ほころびが覆い隠せなくなってきた」といったマスコミによる厳しい批判が再び高まった。

 この間、請われてJR東日本会長の山之内秀一郎が、NASDAの改革と立て直しの使命を担うべく理事長に就任していた。マスコミによるH-2批判が最高潮に達していたそんな時期に、率直な発言で知られる山之内理事長にインタビューしたことを思い出す。

 インタビューの取っつき、山之内理事長はとりつく島がないほど激昂していた。「マスコミは、リスクがきわめて高いロケット打ち上げの失敗を許容しない」。その一方で、「打ち上げの『スケジュール優先』を主張する周囲の反対を押し切り、トップダウンで、『打ち上げのスケジュールを後にずらしても、H-2Aの基本的な要素であるポンプの設計変更を行なうべきだ』と押し込んだ」と、「半年延期する」英断を下していたことも語った。そこから垣間みえたものは、明らかに、米航空宇宙局(NASA)のスペースシャトル打ち上げ失敗後の調査レポートでも指摘されていた官僚化の表われといえた。4年後にも、H-2Aの6号機が打ち上げに失敗した。

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