高エネルギー加速器研究機構(KEK) 2003年度一般公開

「はかるくん」の測定結果について


2003年9月15日のKEK一般公開につきましては,炎天下にも関わらず大変多くの方々のご参加頂きましたこと感謝申し上げます。
さて,放射線科学センターでは身の回りにある放射線を知るために,放射線計測協会からKEKに貸与された簡易放射線測定器「はかるくん」を利用して一般公開中の所内測定を実施し,58組100名様以上の方々のご協力を得られました。以下に示す集計結果は測定に参加された皆様の測定記録に基づくものであります。

ご参加頂いたグループの内訳

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測定グループ58組は,代表者の内訳からも小学生を含むご家族が7割以上であったことがうかがえます(小学生,会社員等,主婦の合計から推測)。中学生以上の組はお一人か2,3人のご友人でのご参加のようでした。地元茨城からご参加頂いたグループには放射線に関する知識をお持ちの方が比較的多く見受けられました。これは原子力広報に触れる機会が多いことからも推論されます。また「はかるくん」のご使用経験をお持ちの方も若干名いましたがほとんどの方は初めてのご使用であったようです。そして次の図は各グループの調査に当たられた時間の分布を示しています。測定方法としては,測定開始後1分間過ぎてから10秒ごとに3回記録する方法を採用しました。
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測定結果

「はかるくん」で測定した場所は,のべ204ヶ所,測定回数は500回を超えていました。中には10ヶ所以上の場所について60以上のデータを記録されたグループもありました。図に示しました結果は,ご報告頂きました測定値の平均値として示してあり,単位は時間当たりのマイクロシーベルトです。なお,測定場所の番号は一般公開パンフレットに書かれている施設番号(1〜21)ですので当日お配りしたパンフレットをご参考ください。
屋外では花崗岩など天然の岩石にやや高い測定値を示すものがありました。これは天然の放射性物質が多く含まれているためです。逆に低い測定値であったバスの車内などは,車体が放射線を遮るためと推定できます。同じように芝生の上は岩石などからの放射線が土などで遮られているので低くなりました。平均すると屋外での放射線の量は毎時0.04マイクロシーベルト,年間でおよそ350マイクロシーベルトという結果が得られました。
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一般施設(放射線施設でない建物)の建物内の測定結果が下の図です。コンクリートの建物では,コンクリートに含まれる天然放射性物質のために屋外よりやや高くなる傾向があり,今回もそれを確認することができました。平均すると毎時0.05マイクロシーベルトくらいになりました。工作センターと研究本館(小柴先生の講演場所)が低いように見えますが,コンクリートの少ない建物のためなのか,測定した場所が壁などから離れているために低くなったのか理由は良くわかりませんでした。また,地上階と展望台など高い場所の違いもはっきりとは確認できませんでした。全体としては,広い室内を持つ建物のほうが「はかるくん」とコンクリート壁との距離が遠くなることから測定値も低くなる傾向にあると言えるかもしれません。年間でみますとおよそ430マイクロシーベルトという結果になりました。
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高エネルギー加速器研究機構の加速器は大きく二種類に分けられます。一つは「陽子加速器」,もう一つは「電子加速器」です。陽子加速器の代表は「陽子シンクロトロン」が挙げられます。陽子シンクロトロンの下流には「ニュートリノビームライン」や「中性子中間子研究施設」などがあります。「電子加速器」の代表には「KEKB(Bファクトリー)」があります。
今回,放射線施設内で測定された人工放射線は,加速器の運転は停止していましたので,運転中に発生した人工放射能からの放射線でした。この人工放射能は加速器の部品の中で生まれるためにその部品に閉じ込められた状態で放射線を出しています。
下の図は放射線施設の測定結果ですが,横軸の測定値は対数表示になっていますのでご注意ください。グラフは紫色が陽子系,黄色が電子系を表しています。陽子シンクロトロンの主リングは「はかるくん」の測定上限である毎時9.9マイクロシーベルトを超えていました。もう一つ他より高い場所に毎時0.13マイクロシーベルトという測定値の出たKEKBトンネルがあります。測定された正確な位置が不明ですので,コンクリートからのものか,あるいは加速器からの人工放射線なのかはハッキリしませんでした。
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まとめ

さまざまな場所を測定することで,身の回りにある放射線を確かめることができました。また,その放射線は場所によってその量が違うことが判りました。屋外よりも屋内のが高く,それはコンクリートに囲まれているからであること,屋外であっても岩石などに放射線の高いものがあるということでした。また,測定結果を紹介できませんでしたが,ラドン温泉の素や蛍光物質入りの時計,ウラン鉱石,また植物の実なども測定してくれたグループもありました。
そして,良くわからなかったこともあります。地上より高い場所が測定値は低くなるのか,コンクリートでない建物の中は低くなるのか,乗り物であれば何でも放射線は低くなるのかなど新しい疑問が出てきました。これらはぜひ皆さんの力で解明してください。
「はかるくん」で測定できる自然放射線は大地からのものが中心です。実は自然放射線は大地からばかりでなく宇宙から降ってくる宇宙放射線や気体などで漂っているラドン・トロンというものもあります。これらからの放射線は「はかるくん」では正確に測定できませんので,測定結果は「はかるくん」で感じた分の自然放射線ということになります。
最後になりますが,屋外,屋内の自然放射線の傾向,そしてKEK内の放射線施設の状況を「はかるくん」で調べることが出来ましたのはご参加された皆さまのご協力のお陰と感謝しております。この場ををお借りして感謝申し上げます。

補足

  1. 一般公開時の放射線施設の立ち入りについて
KEKの一般公開では,一部の放射線施設(例えば陽子シンクロトロン主リング)で通常よりも放射線の量が多い場所があります。このような場合,次の次項に従ってご見学頂いております。また,その際の人体影響については次の「補足2」をご参考願います。
  • 見学は職員が10−20人を引率するツアー形式を取っています。
  • 入口において当該施設の見学コースにおける放射線の量の程度及び健康影響をご説明します。
  • 出発前に,ご参加される方のご同意を署名にてご確認させて頂きます。
  • 施設内で階段や配管など注意を要するとき,小さいお子様等のご見学をお断りする場合もあります。
  • 必要と判断した場合には,ご見学者の方に安全ヘルメットの着用をお願いしております。
  1. 一般公開中に受けた人工放射線の影響について
  2. 「はかるくん」ではかられた数値はマイクロシーベルト毎時という値です。例えば0.2マイクロシーベルト毎時とはその場所に1時間いると0.2マイクロシーベルトの放射線を受けるという意味です。「はかるくん」の結果で一番放射線が高かった場所は陽子シンクロトロントンネル内で、20マイクロシーベルト毎時ですが、そこでは立ち止まらないように見学していただきました。通過に30秒(0.5分)かかったとしても、1時間(60分)いて20マイクロシーベルトの場所に0.5分しかいなかったことになりますので、20/60*0.5=0.16マイクロシーベルトの放射線を浴びたことになります。この値は1年間に自然界から人間が受ける放射線の総量2400マイクロシーベルト(世界の平均値)の0.007%に相当する非常に少ないもので、健康上の影響はないと考えられます。
  3. マイクロシーベルトという単位について
  4. 人体が放射線を浴びた場合、放射線の種類や浴びた場所によって影響が異なります。シーベルトという単位は放射線防護の目的のために、異なる種類の放射線それぞれに対して人体に対する影響の程度を考えて定められた単位です。この単位で放射線の浴びた量を表せば、異なる種類の放射線を同じ単位で計ることができ、人体に対する危険度の目安となります。 マイクロシーベルトはシーベルトの100万分の1の単位です。
    これらの詳しい話は暮らしの中の放射線でご覧になれます。