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野口裕之の安全保障読本 自衛官に名誉を授けよ

産経新聞 4月14日(木)7時56分配信

 東日本大震災における、自衛官の目覚ましい活躍に、多くの国民が「瞠目(どうもく)」している。だが、小欄は「瞠目」などしない。自衛官の日常、使命感、覚悟、練度…に日頃から接してきたから、驚いては礼を欠く。ただ、無残に傷んだ数多(あまた)の骸(むくろ)が目に、頭に焼き付き、本当に泣きたいのは自衛官であるのに、黙々と任務を果たす自衛官から放たれる「まぶしさ」は、こちらの眼(まなこ)を潤ませる。

 この際、国家・国民に問いたい。過去、無数に放たれたであろう、この「まぶしさ」を「正視」してきたのか、と。意図的か否かは別として「無視」してきた罪は免れぬ。そうでなければ、現役自衛官を叙勲しない、武人に対する不名誉・無礼が、創隊(昭和25年)以来続いてきた国家的怠慢への説明がつかない。

 ◆覚悟決めている

 自衛隊福島地方協力本部相双地域事務所は東京電力福島第1原子力発電所の北23・4キロの南相馬市にある。政府が「自主避難」を促してなお、5人の自衛官が守る。人口7万1千人の大半が避難し、街はゴーストタウンと化した。それでも、居残った人々が屋内退避しているから、放射能を気にしながら物資輸送などを行っている。所長は「万が一の場合、住民全員の退避を確認するまで、この場を離れない。最後に街を出るのはわれわれだ」と「覚悟を決めている」。

 「覚悟」を口にしてはいるが、菅直人首相のように「覚悟」の前に「決死の」などと“修飾語”を軽々しく付けないあたりに、真(まこと)の「覚悟」が透ける。

 5人の自衛官は特別な存在ではない。一般国民よりはるかに鍛えてはいるが「生身の人間」だ。その「生身の人間」が、洗浄を伴う1万体近い遺体収容や1千体以上の遺体搬送を担っている。担架が不足し、子供の小さな亡骸(なきがら)は抱きかかえて運ぶ。同じ年頃の子を持つ自衛官には、これがこたえる。「引きずる」のだ。

 もっとも、自衛官も数人が死亡し、自身の家族の死傷や行方不明は数百人を数える。遺体収容施設に亡骸を搬送・安置し、合掌し、再び現場に戻るそのとき、親・兄弟や愛する人を捜したい衝動を「その度に抑えている」という。

 斯(か)く闘える自衛官に、この国は名誉を与えない。武人は武勲・功績に応じて祖国から勲章が贈られるが、現役自衛官に叙勲はない。70歳を何年か過ぎて初めて勲章が贈られる。それでも、制服組最高位・統幕長や陸海空自トップ・各幕僚長ですら中央省庁の事務次官程度。現在、自衛隊を直接指揮する東北方面総監は局長級、陸将補(少将)は課長級という格の低さである。下士官・士(兵)に至っては退官後ですら叙勲されない。

 厳しい訓練や過酷な出動を重ねることから、軍隊では平時でも殉職者が多い。自衛隊員も創隊以来1800人以上が公務中に命を落としている。自衛隊員は入隊時に「事に臨んでは危険を顧みず、身をもつて責務の完遂に務め…」と「服務の宣誓」を、法により義務付けられてもいる。本来、武人に勲章が授与される所以(ゆえん)はここにある。

 勲章は礼装に飾り、日常着用する軍服には勲章の略章を着ける。しかし、防衛省が定める防衛功労章は国家が授与する勲章ではなく、省が独自に制定した“メダル”でしかない。防衛記念章の方は功労章なる“メダル”に対する事実上の略章たる位置付け。40種類も定めている割に、自衛隊内で「グリコのおまけ」と揶揄(やゆ)されるのは、こうした“重み”故だ。自衛官が外国や在日大使館における公式パーティーへの出席を厭(いと)う理由は、礼装に着ける勲章がないからでもある。

 もっとも、勲章を着けている自衛官を時に見かける。実は海外勤務・任務などの際、現地政府から授与された勲章だ。

 ◆徹底している海外

 英国では軍人に「ナイト爵」の一つである「功績勲章」を1902年のエドワード7世の、「大英勲章」を17年のジョージ5世の、それぞれ時代から設けている。時の君主が受章者の肩に剣で触れる儀式は今も続く。フランスには「レジオン・ド・ヌール勲章」「国家功労勲章」▽スペインには国王と政府が授ける陸海空軍別「功労勲章」▽イタリアにも「イタリア共和国功績勲章」などが制定されている。米国では、民間人向けの「大統領自由記章」以外の多くは、軍人向け勲章という徹底ぶりだ。

 日本では国家・国益のために貢献したとも思えぬ政治家や首長、官僚が恥ずることなく受章する。組織には「信賞」があるから「必罰」がある。国家の統治も同じで、法による「罰則」の一方で、栄典制度による「顕彰」があるから成り立っている。現職自衛官には「必罰」だけで「信賞」が存在しない。

 武人が威張る国家は滅びる。だが、武人の名誉を称(たた)えぬ国家もまた、滅亡を免れない。

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最終更新:4月14日(木)8時6分

産経新聞

 

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