維持基準の導入は、データの公開と第三者の検証が必要と下記の文章でも訴えてきました。(改訂された法は、この条件を満たさず、電力会社が自分で評価し、国にすら報告しない制度で、データは公開されません。)
維持基準は、現状の傷が今後5年で進展しても安全上影響はないと予測するもので、現状の傷を把握するところから始まります。ところが、この傷を把握するための超音波探傷試験の精度に問題があり、傷を正確に把握できないことが明らかになりました。
東北電力女川原発の再循環系配管のデータでは、超音波探傷試験と切り出して実際に測った傷は、次ぎのように差がありました。
超音波探傷試験による傷の深さ | 実際の傷の深さ |
測定不能 | 6.1ミリ以下 |
測定不能 | 7.2ミリ |
2ミリ | 12.2ミリ以下 |
1ミリ | 8.5ミリ |
これでは、将来の予測どころではありません。維持基準の大前提が崩れた以上、施行を中止し、制度を見なおすべきです。
10月1日から維持基準は施行されるものの、再循環系配管については対象としないことが、2003年9月1日、総合資源エネルギー調査会小委員会で、明らかにされた。
ひび割れ容認の維持基準に反対の声を!
ひび割れ隠し事件等の概要
原発のひび割れ隠し事件の発端は東電でした。シュラウドという原子炉の中にある部品や配管等にひび割れを見つけながら、報告しないでそのまま原発を動かしていたのです。もしもひびが進展して部品や配管が破断したらチェルノブイリのような大惨事に発展する可能性があるにもかかわらず。
さらには国の検査官立会いの圧力容器の密閉度検査でも、漏洩を隠すために空気を注入するという工作が発覚して、福島第一原発1号炉は運転停止1年間の処分を受けることになりました。「五重の壁で放射能を封じ込めます」と宣伝してきた壁の一つが不完全だったのです。検査での工作は明確な犯罪です。
ひび割れを隠していた電力会社は、東電だけではなく、東北電力、中部電力、中国電力、四国電力、日本原電でも次々と問題が明らかになりました。検査をする側の国から「ひび割れの兆候」と書いた報告書は受け取れないと言われ、虚偽報告を指示されていたとの証言も飛び出し、国と業界の原子力ムラぐるみの犯罪であることも明らかになりました。
当然、関西電力も無縁ではないはずです。海外でひび割れが多発した圧力容器上ぶたを東電と同じように「予防保全」のためと称して交換し、疑惑を指摘されても交換済みのものは調べる必要がないと開き直っています。そのような姿勢こそが今回の事件で問われていることに今だに気づかないとしたら、もはや原発を運転する資格はないと断じざるを得ません。
プルサーマル計画の事前了解撤回
これまで国の原子力政策に協力を強いられ翻弄されつづけてきた自治体や地元の推進派の受けたショックは大きかったようです。福島と柏崎刈羽原発のプルサーマル事前了解は撤回され、核燃料サイクル計画は完全に破綻しました。
それにもかかわらず、青森県六ケ所村の再処理工場では、配管に硝酸などを流して行う化学試験が2002年11月1日から開始され、2003年6月からはウラン溶液を用いる試験が予定されています。ウラン試験が始まれば再処理工場自体が放射能で汚染されてしまいます。また、受け入れプールの水漏れ原因もわからないまま、使用済み燃料の搬入も続いています。
使い道のないプルトニウムを取り出すための再処理工場の操業開始を許すのかどうか、私達は今大きな岐路に立たされているのです。
ひび割れ容認の維持基準
ところが、国は「新品同様の基準」が損傷隠しを招いたとして基準緩和を盛りこんだ電気事業法及び原子炉等規制法改正案を臨時国会に提出しました。
法案を提出した原子力安全・保安院は「自主検査時に発見されたひび割れ等の不具合について、事業者は、その進展を予測し、安全性の評価 (設備の健全性評価)を行い、その結果を記録・保存することが義務づけられる。評価の手法は、安全水準を維持することを前提に、ひび割れ等の進展が安全性に与える影響を科学的・合理的な根拠に基づき評価するもので、今後国が民間規格の活用を含めて整備することとしている。」と説明しています。
しかし、その該当条文(電気事業法改正案第55条3) を見てみると「定期自主検査を行う特定電気工作物を設置する者は、当該定期自主検査の際、原子力を原動力とする発電用の特定電気工作物であつて経済産業省令で定めるものに関し、一定の期間が経過した後に第三十九条第一項の経済産業省令で定める技術基準に適合しなくなるおそれがある部分があると認めるときは、当該部分が同項の経済産業省令で定める技術基準に適合しなくなると見込まれる時期その他の経済産業省令で定める事項について、経済産業省令で定めるところにより、評価を行い、その結果を記録し、これを保存しなければならない。」と書かれているだけ。
わかりましたでしょうか。事業者は、ひび割れを見つけても報告義務もなく社内的に評価を行い、結果を記録・保存さえすれば良いことになっています。しかも、法案では基準を満たさなくなる予測時期以外になにを評価するかや評価手法は全て省令に委ねられていて国会審議もなしに決められる仕組みになっています。
技術的にも未解明なひび割れ
今回ひび割れが多く見つかった部品シュラウドの全周に及ぶひび割れについては、アメリカの維持基準にも評価方法はないそうです。応力腐食割れが起こりにくいはずの低炭素ステンレス鋼(SUS316L ,SUS304L )にもひび割れが多数見つかっており、ひび割れのメカニズム、対策等全て分かっているとは言えない状況のなかで、妥当な評価手法がつくれるはずがありません。
原発のひび割れ隠しが、安全性よりも稼働率、すなわち経済性を優先させた結果起こったことを考えれば、維持基準により事故の危険性が格段に高まることになるでしょう。仮に維持基準を導入するのであれば、国に報告を義務づけるとともに、データを公開し、第三者が評価が妥当であるか検証できるシステムにする必要があります。
法案は、2002年12月11日、問題点をそのままにして可決成立してしまいました。しかし、省令作成はこれからで、まだまだ取り組みは続きます。また、維持基準を前提とした運転を認めないよう自治体への働きかけも重要になります。
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