プルプル…
ブルブルブル…
プチン
ビリバリィッ!!
「ふっザけんなああああああああああっ!!」
「あー、やっぱりこうなっちゃったか」
真っ二つに引き裂かれた《ジャンプコミックス・ダイの大冒険9巻》。
左側は燃え尽きて灰となり、右側は凍り付いて粉々になった。
「ミストバーンムッコロス」
「ダメだよー、《こっちの》ミストさんはいい人なんだからー」
「なおさら殺す」
「その《ミストさん》でもないからー」
右半身がツララに覆われ、左半身から炎を吹き上がらせる大柄のゴーレム相手に
まだ幼い少女が必死にすがり付いて歩みを止めようとする。
「ええい、放せって…ナニやってんだテメエはあああああああああっ!?」
「ふえ?」
燃え上がる身体にしがみつけば少女は当然燃える(物理的に)。
あわてて少女を引き剥がしたが、少女の服は焼け焦げ、全身が醜いケロイド状になっていた。
…にもかかわらず、少女は相変わらずのほほんとした様子である。
「んーいつものことだしねー。それに《治癒(ヒーリング)》唱えればすぐに…」
「…《ベホマ(完全回復呪文)》」
「ほえ? …おおー」
氷の右手から暖かな光が溢れ少女の傷を瞬時に癒していく。
「すごーい! いつ回復呪文なんて覚えたの《フレイザード》?」
「ああン!? テメエが事あるごとに火傷も凍傷も気にせず俺に抱きついてくるからだろうが!
俺はその都度大騒ぎになるたびにバーン様に大目玉食らってんだよ! いい加減隠蔽工作の一つも覚えるってんだ!」
「あはー、フレイザードは優しくていい子だねー。いーこいーこ」
「撫でんなぁ! また焦げるだろうがぁ!」
喧々諤々。
「…というわけで、フレイザードを創るのにがんばってくれたのはミストさんなんだから喧嘩しちゃだめだよ?」
「わーったよ」
「ちゃんと聞いてるー?」
「聞いてるっての。いいから続き読ませろ…なんだこれ、バランのオッサンマジパネェ」
「あはー、今は完全にマイホームパパだけどねー」
「…それもテメエの仕業ってか。滅茶苦茶だな《チートオリ主》ってやつは」
「んー、わたしがやったわけじゃないけど…まあ、間接的にはそうかもねー」
黙々と《ダイの大冒険》を読み進めるフレイザード。
至極のんびりと会話を交わす少女。
ものすごいシュールな光景だった。
「…なあ」
「どうしたのー?」
「この《メドローア(極大消滅呪文)》ってヤツだが…俺にも使えるか?」
「できるよー。うーん原作どおりだと習得に3年くらい掛かるかもしてないけど、今のフレイザードなら半月も在れば完全習得できると思うよー」
「へえ、そりゃ上等…」
「なにせフレイザードのコアには高純度な風水火土の魔法石を使ってー、バーン様秘蔵のオリハルコンに溶かし込んでー」
「…おい」
「《銀鍵守護神機関》と《ゲッター線増幅炉》に一ヶ月づつほおり込んでー」
「…待て」
「《賢者の石》作成用の練成陣で作り上げた特別製だもんねー」
「だもんねー、じゃね…!」
「あ、あとわたしの卵細胞も使ってたんだった。忘れちゃダメだよねー」
「ちょと待てやコラあああああああああああああああああああ!?」
魂の絶叫であった。
「どういうことだオイィ!? 全然聞いてねえぞんなことアァン!?」
「あうー、ブロントさんと兄貴が混じってるよー」
ガックンガックンと少女を揺さぶるフレイザード。
律儀にも両手の炎とツララがちゃんと消えている。
「生体細胞使ったほうが強くなるかなーって」
「かなー、でそんなもん使うんじゃねえよ…とんだ魔改造してくれやがって」
ふう、というため息をついて少女から手を放す。
「…えと、ね? 無意味に魔改造したわけじゃないんだよー? 原作だと空裂斬でコア切られちゃってるから、オリハルコンで頑丈にしたかったし、炎と氷だけじゃ発展性に疑問があるし、ゲッター線とコルレオニスで進化の多様性も欲しかったのと、ホムンクルス技術で闘気も使わせてあげたかったし…」
「ああ、わかった。分かったから、涙目ですがり付いて来るんじゃねーっての。また焦げるぞ」
右手で少女をゆっくり押しのける。
はあ、とまたため息をつくとフレイザードは少女から視線をずらして呟いた。
「…ありがとよ《オフクロ》」
「えへー、フレイザードがデレたー」
「デレた言うなああああああっ!! そして抱きつくなあああっ! 焦げるって言ってんだろうがああああっ!!」
どっとはらい。
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萌えフレイザードという謎ジャンルが飛んできたので書いてみた。