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がん検診のすすめ
日本人の三分の一はがんで死亡している。日本人は世界一の長寿国といわれているが、世界一のがん大国でもある。
先進国ではがん検診が普及しており、がんによる死亡率が減っているのに、がん死亡率がふえ続けているのは日本だけである。その理由は、日本におけるがん検診の普及率が、他の先進国に比べて低いことが原因である。たとえば、乳がんや子宮がんの検診率は、アメリカやイギリスでは70%から80%に対し、日本では僅かに20%に過ぎない。
どんながんでも早期に発見して対処すれば治癒率は格段に高まる。つまり早期発見が大切なのである。
しかし、がんには早期発見しやすいがんと、早期発見が困難ながんがある。すい臓がんや白血病、悪性リンパ腫などは進行が早くて検診による早期発見は難しい。しかし、がんの頻度としては、これらの疾患はそれほど高くは無い。
胃がん、大腸がん、肺がん、子宮がん、乳がんは、頻度も高く、しかも早期発見がしやすいがんであるから、これらのがんについては検診を受けるように勧めている。これらの検診を受けることによって、大腸がんは60%、胃がんは59%、子宮がんは78%、乳がんは19%も死亡率をへらすことが出来ると言われている。
最近、検診の受診率を大幅にアップさせた国は韓国である。韓国は10%の受診率を数年間で50%超えまでアップさせた。これは政府ががん検診に力を入れて、これを奨励したからである。
人間ドックでは、通常に行われているがん検診項目は次のとおりである。
胃がん レントゲン検査
大腸がん 大便潜血反応
肺がん レントゲン検査
乳がん 触診
子宮がん 内診による子宮頸がんの組織検査
前立腺がん PSAという腫瘍マーカー
胃のレントゲン検査で、怪しい所見があれば、胃内視鏡により精査をする。
検便で潜血反応陽性であれば大腸内視鏡により精査をする。
肺レントゲン検査で、僅かでも気になる所見があれば胸部CTなどで精査をする。
子宮頸がんでは組織検査の結果でがんが判明する場合があるが、子宮体がんは超音波などで精査しなければならない。
乳がんの触診では、早期がんの発見は困難な場合が多い。乳房超音波検査又はマンモグラフィーで精査することが望ましい。
PSAは血液で検査する腫瘍マーカー(がん反応)であるが、オプション扱いの場合もある。
ここで一つ知っておいて頂きたいのは、腫瘍マーカーである。前立腺のPSAを除いては、腫瘍マーカーが早期発見に役立つことはあまり期待出来ない。かなりの大きさになってはじめて高くなり、初期の場合には異常値を示さないことが多いからである。
ただ、がん検診率がアップしたことによる問題点も指摘されている。その問題点とは、見つける必要の無いがんまで見つけてしまう過剰診断である。その典型的な例が甲状腺がんであると言われている。東大付属病院放射線科準教授の中川恵一医師によると、「甲状腺がんは、なんら人体に危害を加えることもなく、治療の必要も無い。本来は検査をする必要もないがんなのですが、韓国の場合、過剰な検査によって、甲状腺がんの患者が急増しています。このがんは、女性に多いのですが、韓国では癌患者数の一位になっています。その患者さんの100%が手術をしています。やはり、がんだとわかってしまうと、どうしても手術をせねば、と考えてしまうのでしょうが、実は、この手術は意味の無い無駄なことなのです」と述べている(週間文春8月26日号、P39)。
甲状腺がんでも91%以上は乳頭がんであり、乳頭がんは発育が遅く、10年も20年も変わらないと学生時代に習ったことがあるが、現在では、甲状腺がんでも乳頭がんなら、手術をしないで様子を見るという方針の専門医も多い。
甲状腺がんの治療方針は手術による甲状腺切除ということになっているが、手術すると生涯に亘って甲状腺ホルモンの補充療法を要する場合が多い。手術しないですむものなら様子見のほうが良い。
癌研のホームページによれば、「近年、超音波検査の普及により1センチ以下のごく小さな乳頭がんが、無症状のまま偶然に発見されるケースも増えています。これらの微小乳頭がんは、低危険度乳頭がんの最たるもので、生涯にわたり無害に経過することも多いといいます。これまでがんは見つかり次第切るものでしたが、微小乳頭がんに対しては癌研病院のように、無症状(明らかな転移、浸潤がない)で小さいままである限り、手術せずに経過観察を勧める施設も現れています。」と述べている。
甲状腺乳頭癌は、手術するかしないかは専門医の間でも意見が分かれているようである。
日本医事新報No.4514(2010・10・30日号)によれば、10mm以下の甲状腺がんは、微小がんと定義され、そのほとんどは乳頭がんである。甲状腺乳頭がんの手術方針は未だ確立されておらず、各施設で方針が異なる。
ある調査によれば、無症候性微小がんを13年間追跡したが、このうち90%は腫瘍径の変化が無く、リンパ節の腫大を認めなかった。そこで経過観察中にリンパ節腫大出現、腺外浸潤、20mm以上のリンパ節腫大、遠隔転移のいずれかを有するタイプには外科手術を推奨している。
この結果によれば、微小乳頭がんは、超音波でリンパ節腫大がなく、かつ、半回神経麻痺や気管浸潤、前頭筋浸潤の所見が見られなければ経過観察で良いということになる。95%がこのタイプに属するので、ほとんどは経過観察で良い事になろう。
このように、甲状腺がんの大多数を占める乳頭がんは、発育が極めて遅く、かつその為に死亡する例が殆どないために手術をすべきかどうかを決める事が難しいということらしい。
2010.11.01改定