【コラム】歪曲教科書の被害者は日本だ

金基哲・オピニオン部次長
 「原爆投下当時、自分が生きているという事実を確認した後、最初に頭に浮かんだのは、日本人に責任を押し付けられ、虐殺されるかもしれないという恐怖だった」

 広島の平和記念資料館の音声解説で流れる在日朝鮮人の声は恐怖に満ちていた。火の海を生き残ったこの人物が思い浮かべたのは、その22年前の関東大震災での記憶だった。1923年9月1日に14万人が死亡した大地震が起きた際、日本政府と極右勢力は「朝鮮人が井戸に毒をまいた」「朝鮮人が放火して回っている」などと根拠のないうわさを広め、6000人近い朝鮮人を虐殺した。日本政府が未曽有の災難を経験した国民の不満を解消するため、弱い立場の朝鮮人に責任を押し付けたのだ。

 先月の東日本巨大地震で被害を受けた日本を助けようと募金運動が行われた際、どこか心に引っ掛かったのは、88年前の関東大震災の記憶のせいだ。過去に被害を受けた韓国が、世界で最も豊な日本を助けるために募金活動を行うことに対し素直に受け入れられなかった。企業や韓流スターはもちろん、従軍慰安婦のおばあさんまでもが支援の手を差し伸べ、500億ウォン(約39億円)近い募金が集まった。それは日本との悪縁を過去に洗い流し、新たな隣人関係を築こうとする素朴な善意の表れだったはずだ。

 しかしこうした中、日本は先週「独島(日本名:竹島)は日本領だ」という内容を含む歪曲(わいきょく)教科書と外交青書を相次いで発表した。隣人が困っているときに助けようとして、ほおを殴られたかのような侮辱を覚えるのも無理はない。だが「支援してくれたことは有り難いが、韓国側が教科書の内容に干渉する権利はない」という日本政府の主張が間違っているとも言えない。自国の学生を自分たちの思い通りに教えようすることを、隣人のわれわれが阻む権利はない。韓国や中国がいくら反発しようとも、歴史歪曲教科書は日本が自ら解決すべき国内問題なのだ。

 日本の指導層と国民が深刻に受け止めるべきことは、1905年の日露戦争中に奪い去った土地を今も自国領だと主張し、アジアの侵略戦争の責任を認めない教科書で学んだ次世代が、どんな歴史観や世界観を持つかという点だ。19世紀後半に日本はアジア各国の中で最初に近代化を成し遂げ、列強の一角に浮上できたが、これには世界情勢に明るく、開放的だった明治維新の元勲たちの指導力が大きな役割を果たした。しかし、彼らがこの世を去り、天皇中心の国体論と国粋主義の洗礼を受けた政治勢力と軍部が権力を握るや、侵略戦争へと突き進んでいった。閉鎖的で自己陶酔的な教育が国を滅ぼし、2000万人近いアジア人を犠牲にする出発点となったのだ。

 脱線地点に向かって走る機関車を止め、レールを乗り換えるための機関士が必要なのは日本にほかならない。独島をめぐる歪曲教科書は韓国ではなく、日本の将来にかかわる問題なのだ。

金基哲(キム・ギチョル)オピニオン部次長

朝鮮日報/朝鮮日報日本語版
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