公共施設も大きな被害を受けた東日本大震災。使える施設が十分にはない中、住民の避難所と子どもたちの学習の場の確保をどう両立させるのか、各自治体は難しい対応を迫られている。
「市外の施設に移った人もいるけど、うちは移ったら仕事に通えなくなる」。自宅1階が津波で浸水し、親類の家を転々とした末の3月下旬、宮城県東松島市の鳴瀬第一中学校の武道館に避難した伊沢なつよさん(71)はため息をついた。
同市は3月下旬、今月21日からの新学期に合わせ、市内の11小中学校に避難していた約1500人に対し、集会所など別の避難所に移るよう要請を始めた。
市内だけでは足りず、近隣の大崎市など1市2町の体育館など5カ所を避難所として確保したが、移ったのは約400人にとどまる。「市外移転に同意していても、当日になると半分の15人しか集まらないこともあった」(東松島市)という。
鳴瀬一中の武道館には今も約30人が残る。伊沢さんの夫は塩釜市内に通勤するが、車がなく、同じ避難所の同僚に相乗りさせてもらっている。伊沢さんは「自宅は電気も水道も出ない。ここを出ることになったらどうすればいいのか」と不安に揺れている。
移転しなかった人の中には車上生活に戻ったり、津波で1階が浸水した自宅へ戻った人もいるという。
約1800人の避難者のうち、約800人が町内の小中学校の空き教室に避難している宮城県山元町も同様の状況だ。
学校は25日に再開するが、町の半分は津波で壊滅的な被害を受け、移転可能な代替施設がない。学校再開後も空き教室を避難所として使用せざるを得ないという。町は隣接する角田市の研修センターなど町外の施設への避難も勧めているが、移った人は約100人にとどまる。
移転をあきらめ、学校を避難所専用にした自治体もある。12日に小中学校が再開した宮城県女川町は、約140人が避難する女川第一小学校を避難所専用とし、児童は女川第一中学校に間借りする。
小学校校庭で仮設住宅の建設が始まり、町は「今後の授業を継続するのが難しい」と判断したという。
小中学校7校(15日現在)を避難所にしている仙台市若林区は11~21日の学校再開を前に、避難所の住民に意向を確認。7校で最多の約350人の避難者がいる六郷中では「避難所を離れたくない」との要望が多く、避難所として残すことにした。同中は体育館が使えない状態で学校を再開した。【堀智行、曽田拓】
岩手県陸前高田市最大の避難所で約500人が過ごす市立第一中学校では一時、「2畳分のスペースに3人で暮らしてもらう」案まで検討された。
22日の授業開始を前に、体育館2階や教室にいる住民102人を体育館1階に集約する案だったが、住民から「死んでしまう」との声が上がって見送られた。
住民は2階建て校舎の教室のほとんどと、体育館の1、2階で生活。避難所を運営する避難本部は教室として使える場を広げるための集約案を13日夜、住民代表に示した。
だが、住民代表の半数が反対。避難している男性(68)は「寝返りも打てなくなる。せっかく生き残ったのに避難所にいるだけで死んでしまう」。別の女性(57)は「私たちは養鶏場の鶏なのか。家も仕事も失って先が見えず、せめて気分よく生活したいのに」と嘆いた。結局、10人程度が体育館に移ることに決まった。荷物を移せば1人1・5畳分を確保できるという。
避難本部副代表で地域の町内会長を務める横田祐佶(ゆうきち)さん(68)は「子どもたちは未来のために勉強して復興を担ってもらわないといけない。皆のストレスは高まっているが、学校との共存は私たちの行動にかかっている」と語る。
ただ、体育の授業をどこで行うかなど、課題は山積したままだ。佐々木保伸校長は「全て異例づくし。早く平穏な学校生活を取り戻したいが、どれぐらいかかるか想像もつかない」と話す。【野口由紀】
避難所の集約について、災害救援ボランティアのNPO法人「レスキューストックヤード」(名古屋市)の浦野愛・常務理事は「何回も居住場所が変わることの精神的な負担が大きな課題。気心知れた人たちがまとまって移動できれば良いが、避難所の定員によっては難しい場合もある。人間関係を一から作っていかなければならず、さらにストレスがかかる」と問題点を挙げる。
室崎益輝・関西学院大災害復興制度研究所所長は「学校は子どもの教育の場なので、いつまでも被災者がそこにいて教育を妨げてはいけないというのが大原則。学校を避難所として使うのは本来、1~2週間が目安だ。だが、今回は仮設住宅の建設がかなり遅れ、避難所生活が長期化せざるを得なくなっている」と分析する。
さらに、「統合によって避難者がヘドロのある自宅に戻ってしまうと、ケアが行き届かなくなる恐れがある。避難所の過密化や、今まで通っていた病院が遠くなるなど、いろんな面でマイナスが出てくる」と指摘する。
改善策として、統合した避難所から被災者を買い物や病院に送るバス輸送サービスの実施▽プライバシー確保のために避難所内をパーテーションで仕切る--などを挙げた。【樋岡徹也】
毎日新聞 2011年4月17日 東京朝刊
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