「本当の事故原因を究明し、被害者の癒やしにつながる調査に」‐。運輸安全委員会が設置した検証チームは15日、国土交通省で会見し、提言に込めた思いを強調した。刑事責任を追及する捜査では限界があり、企業組織の在り方を調査すべきだと提言。メンバーでノンフィクション作家の柳田邦男さんは「これが定着すれば日本の安全文化は変わる」と訴えたが、法整備など大きな課題も残っている。
「個人の責任ではなく、『組織事故』という見方で調査をするべき、という提言は画期的だ」。会見で検証チームの畑村洋太郎・工学院大教授が胸を張った。
チームが事故調査の在り方を考えるにあたって重視したのは、事故を「組織事故」ととらえることだった。事故の原因を運転士のミスだけに求めるのではなく、背後に潜む組織やシステム上の問題点を明らかにしないと、再発防止は図れない。
とりわけ提言で強調したのは、加害企業の安全文化など組織の問題にまで踏み込んで調査・分析をするべき、と提案した点だった。
問題を明らかにするには、加害企業の協力が欠かせない。しかし、刑事責任の追及を恐れる当事者が、真実を語らない可能性もある。柳田さんは「日本は捜査と事故調査を分けにくく、加害者は不利益だとどうしても黙ってしまう。捜査や公判資料に使わないと保障しないといけないが、どうやって保障するのかは難しい」と話した。
検証チームはこの課題を解消するため、事故調査報告書の全文を刑事裁判の証拠にするのではなく、事実情報のみに限り、関係者の供述や事故原因を分析した部分は除く、という案を示した。
しかし、ミスをした個人ではなく、企業組織の責任を問う仕組みがない。座長の安部誠治・関西大教授は「法人罰の是非は社会全体の大問題。われわれだけで議論するのは無理がある。法律家を含めた議論が必要で、次の宿題として、別の枠組みで検討してほしい」と述べた。(足立 聡)
【特集】尼崎JR脱線事故
(2011/04/16 10:21)
Copyright© 2011 神戸新聞社 All Rights Reserved.