|
きょうの社説 2011年4月17日
◎大震災と新幹線 「北陸」の重要性も高まった
東日本大震災で被害が約1200カ所に上った東北新幹線の復旧が急ピッチで進み、4
月末から5月初めにかけて全線運転再開のめどが立った。駅構内の崩落や架線切断など損傷は広範囲に及んだが、新潟県中越地震でみられたよう な営業車両の脱線はなく、緊急停止して事なきを得た。今回の大震災で新幹線システムの耐震性は証明されたといえるのではないか。 東北新幹線は昨年12月に新青森まで全線開業し、国内最速の「はやぶさ」がデビュー した直後に被災した。全線営業が再開すればビジネスや観光需要を引き出し、人の流れを呼び込むことができる。復旧・復興へ向けた象徴的な存在として、新幹線が果たす役割はさらに大きくなっている。 整備新幹線に関しては、鉄道建設・運輸施設整備支援機構の利益剰余金をめぐる議論が 再燃している。政府は剰余金の大半を年金財源の穴埋めに使う方針だったが、復興財源に流用する案が浮上し、自民党内から鉄道事業への充当を求める声が強まったためだ。 剰余金の復興財源化は政府内でも足並みが乱れ、議論は迷走気味だが、懸念されるのは 巨額の財政出動を理由に、整備新幹線の位置づけがさらに低下し、後回しにされる雰囲気が見え始めていることである。大震災の危機に対応できず、全体に目が行き届かない政権の混迷はいつまで続くのか。 被災地の復興を考えれば、公共事業の優先順位などについて見直しは避けられない。だ からこそ、日本にとって何が必要なのか長期的な展望に沿って見定めていく必要がある。 広範囲に及ぶ復興計画では、大動脈である東北新幹線が地域再生の主軸になろう。さら に日本の国土軸を強くする大きな視点で復興を位置づけるなら、延伸を含めた整備新幹線の推進は大きな意味を持つ。東海地震などを想定すれば、太平洋側の代替ルートとしての北陸新幹線は極めて重要である。 大震災直後は北陸の自治体からも「新幹線の話題を言い出せる状況にない」との声も出 ていた。だが、遠慮して声を抑える理由はどこにもない。むしろ停滞している議論を前に進めるときである。
◎日本支援のG20声明 急がれる復旧・復興事業
東日本大震災に見舞われた日本が世界経済の下振れリスクという認識が国際的に共有さ
れ、日本支援で連帯する共同声明が20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議で採択された。世界経済の足を引っぱりかねない「日本リスク」への警戒感の強さを示すものでもあり、日本にとってまず重要なことは、震災の復旧・復興事業を速やかに行い、景気の底割れを防ぐことである。そのことはG20で国際公約になったといえる。各国の理解と協力を得ていく上でも、 復旧・復興の道筋を示し、事業を着実に進める必要がある。財源論で足踏みを続けることは許されない。 復旧・復興事業は何よりもまず被災者のために行うものだが、復興需要によって景気を 支えることもまた重要な狙いである。破壊された経済社会の基盤や機能を復旧するための政府の財政出動が景気を下支えし、押し上げる効果があることは、1995年の阪神大震災でも明らかである。 震災直後の1〜3月期を含む神戸市の94年度GDPは、長期不況の影響もあり前年比 マイナス4・6%だったが、95年度は復興資金の投入で7%増に急回復した。 国際通貨基金(IMF)は、震災後の日本経済について「復興の資金需要に対応できる 財政余力はある」とした上で、2011年度の実質成長率を0・2ポイント減の1・4%に下方修正したが、12年度は復興需要もあり2・1%になると見込んでいる。復旧・復興事業による成長維持は国際社会の期待、要請であり、日本政府はそれにこたえる責任がある。 日本経済のリスクを高めている福島第1原発事故を、これ以上悪化させずに沈静化させ ることや、自動車部品などの供給力を早期に回復させる必要も当然ある。 日本経済への支援に関連して、野田佳彦財務相は原発事故で農産物や工業製品の輸出で も風評被害が広がっているため、G20各国に冷静な対応を求め、基本的に理解を得たという。ただ、協力要請だけではなく、現実対応として輸出品の放射線検査体制の強化も急がなければならない。
|