東日本大震災で大きな被害を受けた宮城、岩手、福島3県の沿岸部では、地震発生から1カ月が過ぎた今も、診療の中止や診療時間短縮などの診療制限を余儀なくされている医療機関が少なくない。3県沿岸部の病院のうち約2割が休診したままだ。壊滅した地域の医療体制をどう立て直すのか、課題は山積している。【福永方人、樋岡徹也、堀智行】
処方箋を手にしたお年寄りらでごった返す待合ホール。避難所から来た被災者も多い。岩手県大船渡市の県立大船渡病院には、1日500~600人が薬を求めて訪れる。
市内の自宅が全壊し、約10キロ離れた避難所から同病院に通っている無職の男性(64)は「高血圧や緑内障の薬をもらいに行っている。津波でやられた病院や薬局が多く、遠くても混んでいても、開いている病院に行くしかない」と話す。
同市と陸前高田市、住田町からなる「気仙医療圏」では、入院患者が多数死亡した県立高田病院をはじめ、49ある病院・診療所の約半数、30ある調剤薬局の約3分の2が休業に追い込まれた。震災から1カ月がたった今も「多くが再開できず、薬を流された被災者も多い」(県健康国保課)状況だ。
このため、高台にあって難を逃れた大船渡病院には震災直後から患者が集中した。今月7日までの1カ月足らずで、薬を取りに来た人は延べ約1万4000人と通常の2倍程度に達している。
救急搬送も相次ぐ。同病院の救命救急センターには震災発生後、多い時で通常の2倍以上の1日40~50人が搬送される。
最近は、避難所で重い肺炎にかかって運ばれてくる高齢者らが増えているという。ベッド数20床のセンターだけでは対応できないため、一般病床370床のうち約100床を救急患者用に確保。比較的軽症の入院患者は内陸部の県立病院に移さざるを得ない状態だ。
医師の当直体制も通常は3人だが、県内外からの応援者も含めた5~6人に増強している。
約500人いる大船渡病院の職員の中には、自宅が流されるなど被災した人も多い。約50人が現在も病院に泊まり込んで勤務を続けているという。
同病院の村田幸治事務局長は「震災発生当初と比べれば支援物資で薬不足は解消し、医師、看護師らの応援ももらって多少は落ち着いてきた。しかし、いまだに救急対応と薬の処方に追われ、一般の診療が十分できていない。職員の疲弊も心配だ。応援が途切れたら地域医療はすぐにでも破綻してしまう」と危機感を募らせている。
3県の医療担当部署や医師会に診療状況を把握できた医療機関を確認したところ、宮城県では、津波の被害が大きかった沿岸12市町にある36病院のうち4病院が休診し、8病院が診療時間の短縮や外来制限などの診療制限を実施している。石巻市立病院は津波で大きな被害を受け、機能不全となっている。約320ある診療所も、2割強の約70診療所が休診のままで、再開した診療所でも何らかの診療制限をしている施設が少なくないという。
岩手県では、沿岸8市町村にある15病院中2病院が診療を休止。約120ある診療所も約40診療所が休診している。県は「休診中の医療機関は津波で流されるなどしており、再開のめどが立っていないところが多い」と説明する。
福島県では、いわき市を除く沿岸12市町村の16病院のうち診療休止は8病院で、うち県立大野病院(大熊町)など7病院が避難指示の出ている東京電力福島第1原発から20キロ圏内にある。診療を制限しているのは公立相馬総合病院(相馬市)など5病院。いわき市では28病院のうち4病院が休診中で、22病院が診療を制限している。同市に約230ある診療所のうち約10診療所が休診している。
宮城県の担当者は「身近な診療所が全部流された地域もあり、軽症患者は診療所、重症患者は高度医療機関で対応するという従来の医療システムが崩れてしまい、再構築が必要だ。これまで沿岸部で診療していた医師が内陸に移り住むケースもありえるため、必要な医師数を確保することも今後の課題になる」と話す。
宮城県石巻市の状況を調査した日本赤十字社の安藤恒三郎・医療参事監は「高度な救急医療を担う病院が、被災した他の病院や診療所の患者を受け入れざるを得ず、本来の機能を発揮できなくなっている。仮設的な病院などを造り、被災した医療機関が再開するまで初期診療を受け持たせた方がいい」と指摘し、同市で開設の準備を進めているという。
被災地の自治体は、県内外の医療スタッフによる長期的な応援や、仮設住宅などに併設する仮設診療所の整備について、国に支援を要望している。
厚生労働省は「現在は全国から多くの応援者が集まっているが、各地で医師不足が指摘される中、いつまで続くかは分からない。継続的な派遣を全国にお願いするが、被災自治体にも応援者の効率的な活用を求めていきたい」としている。
毎日新聞 2011年4月16日 1時02分