きょうのコラム「時鐘」 2011年4月16日

 1万3591人の死者と1万4497人の行方不明者が出ている大震災報道のさなかに、脳死となった1人の少年の臓器移植が話題となった

人間の命は地球よりも重いという。命の尊さは数で示すものではなく、比較できるものでもない。だが、今も、がれきの下や海中に眠っている不明者のことを考えると、切なくてどう表現していいのか戸惑った

死者や不明者を「1万数千」などと表現すること自体が許されるものではない。一人一人に重たい人生があった。災害で突然奪われる人命を「不条理な死」と言うが、不条理なのは1カ月も捜索されなかった「命」のことではなかったか

福島第1原発の半径10キロ圏内の本格捜索がようやく始まった。これまで捜索できなかった理由が分からぬではない。が、1カ月間も助けに入れなかったことは、歴史に残る痛恨事である。犠牲者たちに深くわび、今災害の最も無念なこととして語り継がねばなるまい

臓器移植では、1人の命が5人を救うことになるかもしれない。希望と言うのも残酷だが、無念の死を抱え込み明日の命につないで行くしかない。