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米国:福島と同型、バーモント・ヤンキー原発 稼働延長、地元が反発

 ◇老朽化、相次ぐトラブル 更新期全国で23基、影響も

 東京電力福島第1原発の事故は、同型原子炉(マーク1)が稼働する米バーモント州のバーモント・ヤンキー(VY)原発の周辺住民を不安に陥れている。VY原発は稼働開始から40年近くたち、放射能漏れ事故などを繰り返してきた。地元州議会は昨年2月に稼働延長を否決したが、米原子力規制委員会(NRC)が今年3月に20年間の延長を採決、東日本大震災はその翌日に起きた。世界最多の104原子炉が稼働する米国にはマーク1が計23基あり、更新期を迎えている。VY原発の今後は、米国の原発政策に影響を与えそうだ。【ブラテルボロ(バーモント州)で山科武司】

 ◆住民

 「福島と同じことがVY原発でも起こり得る」。今月1日、バーモント州南部ブラテルボロの街角。行き交う市民にクレイ・ターンブルさんが訴えていた。

 「コネティカット川が氾濫すれば、原発は危険なんでしょ」。足を止めたキャロル・ホワイトさん(12)が言うと、「原子力に頼らない大切さを知って」とターンブルさんがうなずいた。

 ターンブルさんは非営利団体「ニューイングランド・コアリション」メンバー。同団体は約40年前のVY原発計画時から専門家らと反対運動に乗りだし、放射能漏えいなど事故が起きるたびに報告書を公表してきた。

 VY原発はブラテルボロから南約8キロ、同州最南端の人口2000人の町バーノンにある。ターンブルさんは「(福島第1原発と)同型のVY原発も廃止すべきだ」と言う。同じメンバー、ジョージ・ハーベイさんも「VY原発は『想定しうる災害に対応している』というが、日本では想定できていない事態が起きた」と指摘した。

 バーノン中心部から車で10分。木立に囲まれた原発が姿を見せた。周囲には「バーモントのために原発を」と原発存続を訴えるポスター。バーノン唯一の小学校は原発からわずか500メートル足らずだ。NRCは3月10日に更新を採決し、同21日正式承認。その前日に住民の4分の1に当たる500人以上が、原発前で東日本大震災の犠牲者を哀悼し、「脱原発」を訴えた。

 ◆州議会

 コネティカット川右岸にあるVY原発が稼働開始したのは72年11月。運営企業エンタジー社の担当者は「バーモント州の総電力の3分の1、ニューイングランド地方の25万世帯に電力を供給している」と説明した。

 一方で当初の稼働予定年数を超え、老朽化によるとみられるトラブルが相次ぐ。

 07年には冷却塔が壊れて冷却水があふれだした。08年にも冷却塔が壊れた。09年には地中のパイプから「放射性物質を含む冷却水が漏れている」疑いが浮上。原発側は否定したが、10年2月、国の基準値の37倍の放射性物質トリチウムが地下水から検出。同年3月にはセシウム137も土中から検出された。

 敷地内に貯蔵されている33年分の使用済み核燃料棒にも改めて懸念が高まっている。原発施設はマグニチュード(M)6・2の耐震設計だが、この地域で記録に残る最大地震はM6(1791年)。過去のものより大きな地震が起こりうるとの認識が広がり、「現在の安全基準は甘い」との批判が広がっている。

 バーモント州上院は10年2月、12年3月下旬に失効するVY原発の更新を否決した。全米で唯一拒否権を持つバーモント州議会が拒否できるのは「原発の安全性」以外の「環境保全違反」などに限られている。NRCの決定は州議会より優先するとされ、エンタジー社が「環境は改善した」と運転を継続することは可能。しかし、州議会が反発すれば混乱は必至だ。

 ◆経済界

 地元経済界には、「稼働継続」を求める声が大きい。2月にバーモント州の産業界と電気産業労働組合が連名で知事に公開書簡を提出。「原発廃止は州経済の回復や雇用に打撃を与える」と訴えた。

 州経済への影響を調べたコンサルタント会社によると、VY原発を2031年まで稼働すれば、現在の従業員650人に加えて1200人の雇用増、50年までの21億6500万ドルの賃金増が見込まれるという。

 エンタジー社は毎日新聞の取材に、「州に年1億ドルの経済効果をもたらしている」と運転継続に自信をのぞかせた。

 ◇「リスク負うのは市民」 原子力工学者・ガンダーセン氏

 約40年間にわたり米原子力産業に携わってきた原子力工学者、アーノルド・ガンダーセンさんが毎日新聞の取材に、バーモント・ヤンキー(VY)原発と福島第1原発は、「冷却系に共通の弱点がある」と指摘した。

 福島と同型の原子炉のVY原発には、冷却用としてコネティカット川の水をくみ上げるポンプがある。福島は、非常用ディーゼル発電機に加えて海ぎわのポンプも破壊された。ガンダーセンさんは「ディーゼルが生き残ったとしても冷却機能は失われていた」と指摘し、「VYも洪水でポンプ破壊の危険性がある」と語った。

 ガンダーセンさんによると、洪水対策で老朽化したポンプの交換費用は約1億ドル(約85億円)。放射能漏れが起きた場合の除去費用は、1基あたり50億ドルに上るという。

 「原発の解体費用は7億5000万ドル。米国では州負担なので、州政府の不足分を州民1人が約500ドル追加負担することになる」と試算。「優遇されるのは電力会社、リスクを負わされるのは市民」と言い、福島事故の事後処理や廃炉でも多額の国民負担が生じると指摘した。【バーリントンで山科武司】

毎日新聞 2011年4月10日 東京朝刊

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