福島原発事故は政府による災害だ(その2)=石破茂 聞き手●田原総一朗/ジャーナリスト
2011年4月14日 中央公論
もう一つ、菅総理から始まって官房長官、東電、原子力安全・保安院、文部科学省、経済産業省、農林水産省などとバラバラに出てきて話すのはやめて、説明を一元化すべきだということも申し上げました。特に非常時においては「この人の言うことが、国の唯一の公式発表である」というふうにしないと、無用の混乱を招くだけ。情報の信用性も疑われてしまう。田原 事実、混乱しました。枝野さんの話も、国民を安心させようとしているのか不安を煽っているのか、わけがわからない。
石破 「健康にただちに影響するものではない」と聞いたら、誰でも「じゃあ、いつかは影響するの?」と突っ込みたくなりますね。「可能性は排除されない」とか「必ずしも〜ではない」とか、あとで言質をとられないように、発言に常に「保険」をかけている。
例えば、福島産のホウレンソウから放射性物質が検出されたら、「何々ベクレル」と一般国民が誰も知らない用語を持ち出す前に、「毎日これだけの量を生で食べ続けたら、何人中何人に健康被害が生じる可能性があるという量です」とか、「放射性物質は洗えば落ちるし、茹でればさらに減ります」といった情報を、明確に伝えるべきだったのです。
田原 ただ、今回は枝野さんも相当迷っているんじゃないでしょうか。入手した情報をすみやかに出すべきなのか、国民の不安を増幅させないような手立てを優先させるべきなのか。
石破 もちろん、不安にさせないためといって、重要な事実を隠蔽したり改竄したりすることは論外ですが、事実であっても政府は「可能性が排除できない」というような言い方をしてはいけない。そんな言い方しかできないのだったら、発表すべきではありません。情報を伝えるとともに、そのことによって受け手がどう感じるか、何が起きるのかを発表前に考える必要があるのに、今の政府にはそれがまったく欠けているのです。
田原 枝野さんは、最初海外メディアを会見に入れませんでした。通訳もなし。外国の新聞などでは、日本中が津波に襲われたかのような、ものすごい報道のされ方もしている。
石破 その後も、各党・政府震災対策合同会議などの場でいろいろ申し入れましたが、なかなか改善は進まない。そこで大島副総裁と気仙沼出身の小野寺衆議院議員と私とで、仙谷官房副長官のところに・直談判・に行きました。仙谷さんの評価はいろいろありますが、他に政府・民主党を仕切れる人間が見当たらない。
田原 今の民主党には、仙谷さんしかいませんね。
石破 彼に会って、発表の仕方を、被災者、国民、海外など聞く側からみたらどうなのかを基準に検証し、一新すべきだと申し上げました。自らの責任回避ではなく、国民がどう思い、行動するのかを第一に考えるべきだと。
田原 仙谷さんは何と?
石破 「今の情報発信は内向きだから、改める必要がある」と。やはり問題は感じておられたようです。
田原 さきほどホウレンソウの話が出ましたが、福島や北関東産の野菜、原乳の一部が出荷制限を受けました。この判断についてはどのようにお感じになりますか?
石破 結論を言えば、出荷停止は間違いだったと思います。人体に影響を与えるような汚染のレベルにはほど遠いのに、結果的にあの地域の農畜産業を全滅させかねない話になってしまった。
二〇〇八年に発覚した「事故米」事件のとき、私は農水大臣でした。あのときは「ごくわずかでも人体に影響を与える可能性があるものは、全量焼却処分にする」と宣言して、事態を収めました。それをやったときの影響の範囲は限られていたんですね。しかし、今回はあまりにも対象が広く、影響は甚大。基準を少しでも超えたら全量出荷を止めるというのは、正しい判断ではなかったと思います。
入閣を蹴ったのはなぜか
田原 福島第一原発では、自衛隊、警察、消防、東電などがタッグを組んで、必死の「冷却作業」を続けています。他方、政治の世界に目を転じると、団結にはほど遠い。今こそ民主も自民もなく国難に対処すべきだと思うのですが、この前も副総理として入閣してほしいという菅さんの申し入れを、谷垣さんは断った。石破 最初にも申し上げたとおり、自民党には知恵も経験もあります。そう公言しながら、手を貸してくれと言われればにべもなく断るのはどうしてかというお叱りは、山のように頂戴しています。でも、私たちからすれば、知恵や経験を生かせる提案を、なぜしてくれないのかということなんですよ。
田原 僕の口から言いましょう。谷垣さんに入ってほしいと言うのならば、菅さんも必死でやるという気持ちを形で示してもらいたいということですね。入閣には条件があるのだ、と。
石破 そうです。例えば、民主党はこの期に及んでもなお、マニフェストに掲げたいわゆる4K(子ども手当、高速無料化、農家の戸別補償、高校授業料無償化)をやるんだと言っています。もはや、個々の政策の是非が問題なのではない。この緊急事態に際して、「不急」の政策はとりあえずあとに回して、早急に必要な現場にお金をつぎ込むのは当然の話でしょう。
田原 菅さんは「この事態に鑑みて4Kはすべて当面棚上げにする。その分を東北に最優先に回す」と言えばいい。
石破 加えて、もし民主と自民が中心となる「救国連立」ができるとしたら、それは震災復興のためだけの連立ではないはずなのです。もしあの大災害がなかったら、今ごろ新聞は連日リビア情勢一色になっていたでしょう。仮にイラクのような状態になったら、自衛隊を出すのか出さないのかといった話にまでなっていたはず。
もう一つ。もし4Kをやめたとしても、復興に必要な金額にははるかに及びません。財政が苦しいなかで、何らかの形で資金を調達する必要があります。無利子無担保国債がいいと言う人がいれば、国債を日銀に引き受けさせろと主張する人もいる。いずれにせよ、議論して結論を出さねばならないのです。
こうした外交、安保、財政といった国の基本路線に関しては、両党間である程度の合意ができていなければなりません。そうした議論抜きに、いきなり「谷垣さんを副総理に」と言われても、受けようがないではないですか。
田原 そういう議論はいっさいなし?
石破 ありません。
田原 石原伸晃さん(自民党幹事長)が岡田さん(民主党幹事長)と会ってマニフェスト路線の変更を迫ったら、「法律は変えられない」と答えたんだそうですね。
石破 私はその話は知りませんが、とにかく「入閣してくれ」という前に、やることがあるでしょうと言いたい。けっして難しいことではないのですよ。4Kはやめて、すべて震災復興に回す。その上で、さらに必要な財政政策などに関しては、政策担当者で詰めてくれと言えばいいんです。民主党は玄葉政調会長、こちらは同じ政調会長の私でいい。玄葉さんとは信頼関係が築けていると思っているので、総理が覚悟さえ決めれば一日で合意を作れる自信があります。はじめからそういう動きになっていれば、今ごろは連立政権ができていたかもしれません。
田原 復興に必要な金額は、どれくらいだと思いますか?
石破 計算できていませんが、おそらく二〇兆円では足りないでしょう。
田原 本来なら金額のメドをつけて、どうやって調達するのか具体的な話になっていてしかるべきですね。
石破 連立を持ちかける前に、その話をしていなければ。谷垣総裁への入閣要請を、岡田幹事長は直前になって聞いたそうです。なんと玄葉政調会長は、まったく聞かされていなかった。それ一つとっても、菅さんの本気度がわかろうというもの。なのに「断った」自民党が悪者にされてしまった。
あえて付け加えれば、もしあの状態で谷垣総裁が内閣に入ったら、どうなっていたか? 与謝野さんが入閣して、「民主党のマニフェスト路線をさんざん批判していたではないか」「閣内不一致だ」と追及され、立ち往生しています。谷垣総裁は、間違いなく「第二の与謝野馨」になっていたでしょう。予算委員会で「谷垣副総理、4Kは見直しでいいんですね?」と聞かれたら、何と答弁したらいいのでしょう。
田原 政策協議のようなものがまったくやられてないというのは、ちょっと驚きです。でも、自民党にも責任があるんじゃないですか? 谷垣さんが、「私に入れと言うのならば、やるべきことをやれ」と、もっと強硬に言うべきだったのでは。
石破 民主党には衆議院だけで三〇〇人の議員がいます。参議院も含めれば、四〇〇人以上いる。にもかかわらず入閣要請をしたのは、自民党の手を借りなければこの事態を乗り切れないと判断した上でのことでしょう。有り体に言えば、人材がいないということです。まずはそれを率直に認め、手を借りるために必要なことをすみやかに実行に移す。それが総理の覚悟であり責務であって、基本的にわが方からあれこれする問題ではないですよ。
「救国内閣」の条件
田原 そうは言っても、政治がいがみ合ったり停滞を生んだりしている暇はありません。救援から復興へ、具体的に動き出さなければいけない。石破 「復旧」ではなく、おっしゃるように「復興」でなければなりません。加えて東北を再生させることは、日本を再生すること。
今回、被災地や原発で自衛隊員が活躍していますね。私は防衛庁長官、防衛大臣時代、「この国は戦争ができる国なのか」と常に自問自答していました。戦争ができない国は、戦争を回避できないと考えるからです。今回、一〇万人の自衛官が災害派遣に動員されています。わが党の提案で、予備自衛官の招集も行われました。しかし今、自衛隊は常備が二五万人弱、予備役が約五万人。予備役がこれしかいない国はどこにもないのですよ。この体制で、はたして有事に対応できるのか。
例えばそのような国土防衛、もちろん災害対策とかエネルギーとか食料問題だとか、国の根幹にかかわるテーマを洗いざらい検証し、必要な形に作り上げていかなければなりません。復興を担う内閣には、そうした壮大なビジョンが不可欠です。
田原 さて、その復興を担う内閣ですが、自民、民主を中心とした「救国大連立」しかないと僕は思います。鍵を握るのは、やはり菅さん。当面、解散・総選挙が難しい状況の下では、「事態が一段落したら私は総理の座から降りるから、協力をお願いしたい」というくらいの姿勢を示す必要があるのではないでしょうか。
石破 「辞める」というのが筋です。折も折、震災のあった日に、菅総理に対する外国人からの政治献金が発覚し、参議院の決算委員会で追及が行われていました。菅政権に対する不信感は、頂点に達していた。
田原 翌日、問責決議案が提出されるはずでした。菅さんは、震災で救われたと思ったのでは。
石破 そこまで悪くは考えたくありませんが、そうした疑念を払拭したければ「辞める」と言わなければ。それなくして、「この人は捨て身で頑張ろうとしている」とはとれません。進退を明確にした上で、国民の審判をどう仰ぐのかを考えるべきでしょう。
田原 選挙はできないでしょう。
石破 いやいや、本格的な復興は国民が信任した内閣でなければ無理です。「一段落したら」というような曖昧なものではなく、例えば平成二十四年度予算案を通したら解散とか。
田原 なるほど、当座の「救援」が終わって「復興」の段階に入ったら総選挙というのはあるかもしれませんね。
石破 被災された方がとりあえず仮設住宅などへの移動を終えたとか、くぎりのついたところで信を問うことが絶対に必要です。
田原 「救国新内閣」の総理大臣には、誰が最適か。これも極めて大事な問題です。何人か僕の頭のなかに浮かぶ候補者に、石破茂の名前もあるんだけれど。
石破 我々が選んだ谷垣総裁の下に一致していく、自民党にそれ以外の選択肢はありません。
繰り返しますが、今度の解散・総選挙は党利党略の政争がらみなどではなく、東北の復興を通じて日本を作り変える内閣を選ぶためのものです。早くその段階に進めるよう、当面は被災地対策に全力を挙げる所存です。
(了)
いしばしげる=自民党・政務調査会長
※各媒体に掲載された記事を原文のまま掲載しています。