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被災地医療 妻亡くしても患者のために奔走…陸前高田の医師
津波で病院が壊滅し、自宅が流され、最愛の家族を失う――。東日本大震災では、医療者たちも多大な被害を受けた。診療を休止した医療機関も多いが、地元に踏みとどまって患者のために奔走する医師や看護師らは少なくない。その原動力は、住民の健康を守る責任感と地域の復興への熱い思いだ。(渡辺理雄、高梨ゆき子、野村昌玄)
「この惨状では、生きている可能性は限りなく低いでしょう。せめて、苦しまないでいてくれたら」
岩手県立高田病院(陸前高田市)の石木幹人院長(63)は、行方が分からない妻のことをそう話していた。先月下旬のことだ。
3月11日、高田病院は最上階の4階まで津波にのみ込まれた。入院患者や市民ら約100人と一緒に屋上に逃れ、夜を明かした。翌12日夕に救出されたが、妻とは連絡がとれないままだった。
住んでいた官舎も被災した。避難所で寝泊まりしながら、15日に市内の集会所に仮設診療所を開設。支援に来た医師らを陣頭指揮し、県や市に対し、必要な薬剤や器材の手配を求めるなど精力的に動き回る。
妻の行方は気がかりだった。家庭も仕事も一生懸命支えてくれた、かけがえのない人だった。空いた時間に、官舎周辺や遺体安置所に足を運んだ。
震災から21日目の31日午後。遺体安置所に、妻は静かに横たわっていた。
「もう見つからないのではないか、と半分諦めていたので、ほっとした気持ちもある。でも、これからどうしたらいいのか……。正直、動揺しています」
妻の死を受け入れられるのか、自分にはまだ分からない。でも、今は休むわけにはいかない。応援の医師にいつまでも頼ることはできず、病院再建の道筋をつける必要があるからだ。
「今回の地震では、多くの人が家や家族を失った。それでも、みんな生きていかなければなりません」
自分は医師。妻が支え続けてくれたこの仕事を全うし、生き続けよう――。そう思っている。
(2011年4月4日 読売新聞)
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