小学校の体育館に集まった幼稚園から中学生までの子どもたちとサッカーでふれあう(右から)闘莉王と楢崎=水戸市の飯富小学校で
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名古屋グランパスのDF田中マルクス闘莉王(29)とGK楢崎正剛(34)が14日、東日本大震災で大きな被害を受けた水戸市を激励に訪れた。2003年にJ2水戸に在籍した闘莉王は、重い現実の中で見せてくれた子どもたちの笑顔を、パワーに変えるつもりだ。
きっかけは水戸のサポーターからグランパスへ届いた手紙だった。仙台を中心に東北の被害が甚大すぎてあまり注目されていないが、水戸も今回の震災で大きな被害を受けていることを知った。闘莉王にとって水戸は、J1広島から移籍し、自らも苦境に立った時期に温かく支えてくれた地。日本国籍を取得した思い出の地でもある。「何かできることがある」と訪れることを決意した。
最初に向かったのは大好きな子どもたちが待つ飯富小学校。同小の体育館に併設している幼稚園と、体育館が震災のために使えなくなっている中学校からも園児、生徒が集まり、270人の出迎えを受けた。「最初は子どもたちも表情が硬かったし、僕らも暗かった。でもボールを触り始めるとだんだん元気になっていった」
闘莉王も次第にリラックス。ボールゲームに参加する生徒を「一番大きな声を出した子!」と大声で指名して、一緒になって楽しんだ。ブラジルでは地震の体験はない。精神的に厳しいはずなのに、笑顔を見せる子どもの姿に心を打たれた。
古巣の水戸も激励した。練習場でがっちり握手を交わした柱谷監督は「サッカー界はひとつなんだとあらためて感じた」と感謝していた。
最後に訪れたのは20センチの陥没で本庁舎が使用不能となっている水戸市役所。「こころをひとつに」というメッセージとサイン入りのボールと自著「大和魂」を、市内の小中学校に行き渡るよう60ずつを贈り、加藤浩一市長から感謝状を受けた。
19日には、アジア・チャンピオンズリーグ1次リーグで勝てばF組首位浮上の可能性もあるFCソウルと大切な戦いが待っている。決戦までの唯一の休日をフルに使ったが、疲労よりも得たものが大きかった。「暗い話ばかりだけど、一瞬の笑顔は本当に大切」。被災地の現実を肌で感じた闘莉王は、強い気持ちで戦いの場に戻っていく。 (伊東朋子)
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