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東日本大震災:原発、自治体アンケート 「抜本改革」声高に

 東日本大震災に伴う東京電力福島第1原発の深刻な事故について、原発が運転中、建設中、計画中の自治体首長に毎日新聞が実施したアンケート調査では、原子力安全規制行政の見直しや情報公開の改善を求める声が相次いだ。地元自治体の理解なしに原発を動かすことは困難で、安全を確保するための抜本的な改革と、国民への丁寧な説明という課題が国や電力会社に求められている。【大場あい、須田桃子、永山悦子】

 ◆規制のあり方

 ◇「安全策万全」裏切られた

 「東電と経済産業省原子力安全・保安院はこれまで『原発は何重にも安全策が施されている』と発言してきたが、裏切られた思いだ」(福島県・佐藤雄平知事)

 事故は、原発を受け入れた全国の自治体に継続や建設への不信感を広げている。

 本来、原発の許認可権限は国にあり、地元自治体は法的には口を挟む権限を持たない。しかし各自治体は電力会社と「原子力安全協定」を結び、原発周辺の放射線の監視、異常発生時の連絡・通報、施設の新設や増設などに関する事前了解などを求めることができる。このため、実質的には、地元自治体の理解がなければ原発の運転や建設は難しい。

 今回の調査では多くの自治体が国の原子力安全規制の見直しを求めた。例えば現在、原発の安全規制を担っている保安院は、原子力政策を推進する経産省資源エネルギー庁の一機関だ。「これまでの枠組みにとらわれず抜本的な見直しが行われるべきだ」(島根県)、「保安院が原子力を推進する官庁と一緒であることは問題」(新潟県)など、大幅な見直しを求める声は高い。保安院の位置づけについては政府が経産省から切り離し、内閣府原子力安全委員会と統合して新たな規制機関を作る案を検討中だ。

 NPO法人「原子力資料情報室」(東京)の伴英幸・共同代表は「事故を契機に、首長の間で安全規制の重要性に対する認識が高まっていることの表れだろう」と分析。「独立した組織となって規制しない限り、『運転のための規制』になってしまい、本来の機能を果たせない」と、自治体の意見に理解を示す。

 ◆情報公開のあり方

 ◇「発表遅い」不満続出

 一連の事故では国や東電が連日会見を開いているが、発表者によって内容が違ったり、一度発表した内容が撤回されるなど、情報公開をめぐる混乱が相次いでいる。

 このため、自治体からは「発表が遅く分かりにくい」(新潟県柏崎市)「根拠説明が不十分」(宮城県)「適時適切な情報公開がなされていたとは思えない」(石川県)などと不満が続出。自治体の住民と直接向き合い、説明する責任がありながら、事故に関する十分な情報提供を受けられず、対応に苦慮している実態が浮き彫りになった。「内閣、保安院、東電の3者がそれぞれ発表したことで混乱を招いた」(愛媛県)などと、情報発信の一元化を求める声もある。

 危機管理に詳しい福田充・日本大法学部教授(メディア社会学)は「政府、東電、原発の専門家などからなるチームを作って会見に臨み、どのような事態でも正確なデータ、統一見解を発表する必要がある。また地方自治体は、政府から一方的な情報の回路しかないことに非常に不満を持っている。間違った政策決定をしないためにも、双方向のコミュニケーションを強化すべきだ」と話す。

 ◆エネルギー政策

 ◇国民的議論が不可欠

 回答した多くの自治体は、深刻な事故のリスクもある原発そのものや安全規制行政に不信感を表す一方で、「今後のエネルギー政策に関する国民的議論」を求めた。

 エネルギー政策の見直しについては「地震国・日本での原発のあり方、その前提としてのエネルギー政策を転換すべきだ」(茨城県東海村)、「『事故は起こりうる』という対策をとった上で、原子力の割合を再度検討すべきだ」(青森県大間町)などの意見があった。

 原発による発電は国内の総発電量の約3割を占める。原発を継続するかどうかは、エネルギー需給計画全体の中で検討する必要がある。実際、東日本大震災で原発など多くの発電所が止まり、東電は供給不足から計画停電に追い込まれた。

 「原子力資料情報室」の伴共同代表は「どの自治体も、原子力に関する賛否両論を(原発立地に伴う)交付金収入などでバランスをとってきた。しかし、前提となる『安全』が今回の事故で失われ、各首長は従来のバランスが崩れることを敏感に感じ取っているようだ。原発に依存してきた日本が今あるいは今後、原発を廃止する場合、国民が担わなければならない痛みや努力は何かを、社会全体で議論することが必要だ」と話す。

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 ◇自由記述欄の主な意見

 (かっこ内は回答自治体名)

 ◆事故への印象

・東北電力女川原発が無事だったことを考えると、福島の設定が甘かったのでは(福井県高浜町)

・複合災害への想定が甘かった(新潟県)

・原発の安全性への過信(茨城県東海村)

 ◆今後の運転、建設、計画

・国民的な大きな議論が重要(青森県)

・定期検査中だった4号機も水素爆発を起こしたことに大きな懸念を持っている(新潟県)

・原発の安全性が大きく揺らいだ今、エネルギー政策を根本的に見直し、原子力依存から脱却する方向にかじを切らなくてはならない(静岡県)

・国や地元がどうするのか見極めていく(山口県)

・停止中および今後定期検査に入る炉の再開は、抜本的な安全対策の確立が必要(新潟県柏崎市)

・原発は地球温暖化対策やエネルギー安定供給など、さまざまな利点を持っており、安全が確実に確保できれば役割を果たすべきだ(福井県敦賀市)

・議会で原発誘致を議決しているので、声高に言えないが、個人としては中止(福島県浪江町)

・仮に原発を外すのであれば、何で代替するのかトータルで考えていく必要がある(福島県双葉町)

・ただちに実施可能な対策を講じることとして、運転の継続を認める(愛媛県伊方町)

・万全を講じれば継続を認める(佐賀県玄海町)

・原子力行政の一元的な責任は国にあり、まず国が新たな指針を示すべきだ(福井県おおい町)

 ◆避難指示

・国による検証のうえ、避難指示に対する明確な基準を示す必要がある(石川県)

・国は今回の事態を踏まえ、原子力災害の被害、避難範囲の設定などについて、現行指針の課題や対策を明らかにすることが必要(福井県)

・不信の固まり。国が明確な根拠を示さないまま避難地域を拡大し、住民も役場も分からないまま避難と移転を繰り返すことになった(福島県富岡町)

・避難指示範囲が半径20キロに拡大されたことは、(島根原発から10キロ圏内にある)県庁所在地の松江市にとって影響が大きい。混乱が生じない円滑な避難誘導を十分に検討されたい(松江市)

 ◆情報公開

・情報がタイムリーに出てこない。何かを実施する際の説明がない。危機管理が不全(宮城県)

・正確を期すためとはいえ、情報の確認から公開までの時間がかかりすぎる(福井県おおい町)

 ◆耐震指針の見直し

・福島第1で国が認めた基準地震動を超える加速度が観測されたこと、津波対策への評価が遅れていたことは重く受け止める必要がある(静岡県)

・原子炉以外の部分の耐震性も強化すべきだ(青森県大間町)

・(東日本大震災のような)プレート境界型を想定しなかったことは、重大な落ち度(茨城県東海村)

 ◆安全規制行政

・原子力安全規制を行う組織の独立性をより一層高めるなど、規制の有用性が確保できる体制を確立すべきだ(北海道)

・原子力規制官庁の抜本的強化や見直しなどの検討を(青森県東通村)

・推進官庁と規制官庁は分離すべきだ(福島県)

・チェック体制、事故後の対策について十分対応できれば組織形態は問わない(福島県大熊町)

 ◆国・電力事業者への注文

・安全確保のための対策を早急に実施し、風評被害を含む被害について十分な補償を(茨城県)

・このたびの大地震は停電という現実に向き合わなければならない状況を招いた。原子力とどう向き合うかという重い議論を結論に導く責任は国民にある(新潟県刈羽村)

・国レベルで電力供給を見直し、50ヘルツ、60ヘルツの周波数の壁を撤廃すること(静岡県御前崎市)

・適宜、適切な情報公開に努め、国民の不安解消に努めること(鹿児島県薩摩川内市)

毎日新聞 2011年4月15日 東京朝刊

 

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