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【社説】

特捜検事実刑 信頼への道まだ険しい

2011年4月14日

 押収資料を改ざんした大阪地検の元特捜検事に対する判決は、一年六月の実刑だった。特捜検察の悪(あ)しき体質が生んだ事件だ。再生策は緒についたばかりで、信頼回復への道ははるかに遠い。

 「わが国の刑事裁判史上例を見ない犯罪だ」と、大阪地裁が断罪した。確かに郵便不正事件の主任検事だった前田恒彦被告が、押収したフロッピーディスクのデータを書き換えるという前代未聞の事件だった。

 「検察官の行為として常軌を逸している」「(データの)改変の態様は、巧妙なものであり、悪質だ」「刑事司法の根幹をも破壊しかねない所業」などと、判決が厳しい言葉を連ね、非難を浴びせたのは当然といえる。

 だが、常軌を逸した一検事の暴走だと、単純に位置付けるわけにはいかない。特捜部という組織、検察庁という組織がはらんだ体質そのものが事件を生んだともいえるからだ。その点で、起訴された当時の特捜部長や副部長と前田被告のかかわりについて、判決が言及しなかったことは残念だ。

 最高検調査に全検事の26%が、実際の供述と異なる調書を作るよう指示されたと回答した事実は、何よりも組織の病根を物語る。とくに特捜部は汚職や企業犯罪など独自捜査を担う。責任感は「何としても事件を」という強迫観念と表裏一体で、ときに空中楼閣の事件をでっちあげてしまう。その一つが郵便不正事件だった。

 特捜検事はエリート意識も持ちやすい。だから、おごりが生まれる。「正義」の旗を掲げつつも、独善的な正義だったりする。処罰の実現を重んずるあまり、捜査の適正な手続きや人権への配慮が欠落してしまったりする。

 前田被告が「特捜のエース」と呼ばれていたのは、事件の見立てに合致する供述調書を作ることに長(た)けていたからだろう。上司の意に沿う検事が重用され、異論を排す特捜風土があったはずだ。そこにも落とし穴がある。

 「検察の在り方検討会議」は、人事面の改革や、捜査でのチェック体制の構築などを提言した。無罪となった失敗事件を研究したり、検事の研修制度も盛り込んだ。

 江田五月法相は検事総長に対し、特捜部の取り調べで、全過程の録音・録画の試行を指示した。

 さび付いた特捜という“金看板”の信頼を取り戻すには、これらの再生策を一つずつ実行し、ひたすら改革に打ち込むしかない。

 

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